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翌朝、東新宿のラブホテルを出発した二人は、優子の希望通り、草津温泉へ向かっていた。
平日のせいか、高速道路も比較的空いていて、黒のセダンはスムーズに走行している。
十三時過ぎに草津温泉へ到着し、湯畑周辺を散策したり、無料の足湯に浸かりながら、ホッとひと息をつく二人。
観光客も少なく、優子は久々に、のんびりとした気持ちで温泉街を楽しんでいる。
「今日の宿泊先をどうするか、だな」
拓人が、スマートフォンの電源を入れると、一瞬表情を怪訝にさせたように見えたけど、何もなかったように、指先で画面を滑らせている。
ホテルの価格を比較するサイトでも見ているのだろう。
男の筋張った指が、忙しなくスマートフォンの画面を動き回っている。
「良さそうな宿を見つけたけど、残り一枠だし、予約しちゃっていいな?」
「うん」
拓人の指先が再び画面上をなぞり、よし、と小さく呟くと、スマートフォンの電源を落として、デニムのポケットに捩じ込んだ。
「何か、スマホを取り出したり、しまったりするたびに、電源を入れたり切ったりするの、大変そうだよね」
拓人の一連の動きを見て、事情を知っている優子が、節くれだった手に視線を落とした。
「まぁ……慣れたくないけど、慣れちゃったな」
困惑したように笑みを浮かばせている男が、湯に浸らせた足を緩やかに揺らしている。
チャプチャプと丸みを帯びた水音が足元から小さく響き、拓人が、つま先で水と戯れているように見えた。
「闇バイトの首謀者…………早く捕まるといいね……」
「ああ。そうだな……」
「って、前科者の私が言うのも、何か変だけど……」
優子が神妙になりながら眉尻を下げていると、拓人が水面下で彼女の足を絡めてくる。
「ちょっ……やめてよ……」
「いや、あんたが、シケた顔をしてるからさ」
「そっ……そんな事ないよ」
穏やかに流れていく日々が続けばいい、と、優子は思うけど、一寸先は闇、の状況は変わらない。
彼女は、絡み合う二人の足を見やりながら、瞳を伏せた。