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◻︎旦那の浮気?
買い物から帰って家に入ろうとしたら、玄関に人影が見えた。
_____お客さん?知らない人たちだけど
若い女性と、そのお母さんらしき年代の女性と2人。
「うちに何か用ですか?」
「田中さんですか?奥さん?」
「えっと、はい、この家のものですが」
「ご主人、おみえになります?」
「ちょっと待ってくたさいね」
私は玄関ドアに手をかけたが、鍵がかかっている。
「出かけたみたいですね、車はあるから近所のコンビニにでも行ってるのかな?」
「逃げたんじゃないですよね?」
お母さんらしき人が冷たく言った。
「は?なんで?そもそもどなたですか?」
「佐伯といいます、こちらは娘の愛菜。お宅のご主人とは同じ勤め先です」
「その佐伯さんが、うちの主人に何の用ですか?」
相手の語調が強いと、思わずこちらも強くなる。
「お母さん、帰ろうよ、もういいから」
「何言ってるの!このことは奥様にもお話しして、きっちり決着をつけてもらいましょう。娘が傷物にされて黙ってる親がどこにいるんですか!」
お母さんの声が大きくなってきた。
このままここで話されたのでは、またおかしな噂になってしまう。
「あの!なんだかよくわからないですけど、とにかく中にお入りになります?ここではなんですから。そのうち主人も帰って来ると思いますので」
_____娘が傷物?
何が何だかわからないけど、そんなあの3人組の好物そうな話を、こんなとこで繰り広げるわけにはいかない。
うっかり聞かれでもしたら、またとんでもない噂になる。
「わかりました、失礼して上がらせてもらいます。ほら、あなたも行くのよ、愛菜!」
「えっ、でも…」
「どうぞ、散らかってますけどね」
2人をリビングに通して、夫のスマホに電話をかける。
『もしもーし』
「あのさ、いまどこ?」
『コンビニ、もうすぐ帰るよ』
「走って帰ってきて」
『え、なんで?あ、美和ちゃんの好きなみかん牛乳寒天買ったよー』
「ありがと、じゃなくて、お客さんだから急いでね」
『了解』
スーパーで買ったものを冷蔵庫に入れて、お茶を用意した。
「すぐに帰ってくるみたいなので、しばらくお待ちくださいね」
「そうさせてもらいます。逃げたんじゃなくてよかったわ」
なんとなく、ふんぞりかえったお母さんとは対照的には、小さく丸くなっている。
震えているようにも見えた。
「ただいま!」
「おかえり、こっち来て」
スリッパの音がして、ドアが開いた。
「あ!」
「課長…」
ま、あきらかに同僚というか、部下なのは間違いないらしい。
「あなたが田中隆一さん?」
「えっと、はい、そうですが…」
「愛菜の母親です。今日は、娘のお腹のあかちゃんのことについて伺ったんですけど…言ってる意味、わかりますよね?」
「はぁ?!」
私の声が一番大きかった。
「えっと…その…なんというか」
珍しく夫がモゴモゴ言ってる。
夫の部下だという愛菜は、下を向いて両手を膝の上に置いたまま、肩を震わせている。
「しらばっくれるおつもりですか?」
グイッと一歩前へ出て、夫に詰め寄るお母さん。
「いや、そんなつもりはないんですけど」
「じゃあはっきりしてくださらない?奥様もいらっしゃることだし」
「あー、私は後で説明してくれたらいいから」
「えっ、どうして?ご主人が浮気して妊娠させたんですよ!よく、そんな他人事みたいに落ち着いてらっしゃいますね。うちは娘を傷物にされてるんですよ、慰謝料も払ってもらいますからね」
_____どうするつもり?
私は目線だけで夫に問いかけた。
夫は、へったくそなウィンクで、“大丈夫”と答えた。
任せておくことにする。
「こっちには、証拠もあるんですからね」
そう言ってテーブルに出されたのは、堕胎の同意書。
_____あー、間違いない夫の字だ
「そっか…産むつもりなんだね」
「…」
愛菜は黙って頷いた。
「ちょっと、あなた!あなたの子供なんでしょ?無責任にもほどがありますよ!こうなったら訴えますよ、強姦されて妊娠させられたと」
「それはちょっと困りますね」
あっけらかんと答える夫。
私は少し離れてことの成り行きを見守ることにした。
_____堅焼きせんべいは、頭蓋骨に響くわぁ
バリボリとせんべいをかじる。
「ちょっと奥様!なんでそんなとこでせんべいなんか食べてるんですか!?こっちへ来て、ご主人の後始末をしてください!」
「えー、夫がしでかしたことの後始末をなんで私が?」
「キーーーッ!!!」
猿かと思った。
そのあとは、真っ赤な顔をしてワナワナしている。
「よくわからないんだけどさ、これ、どうしたらいいと思う?愛菜…さんだっけ?うちの夫からじゃなくて、あなたから詳しく聞きたいんだけど」
私はできるだけ平静に、話しかけた。
その間にも、母ザル…じゃないお母さんは怒り出しそうだったけど。
「す、す、すみませんでした!」
いきなりの愛菜の謝罪の大きな声に、びっくりした。
「びっくりした、そんな大きな声じゃなくても…」
「いえ、すみません、本当に。課長は私のことを心配してくれて相談に乗ってくれた、それだけです」
ほらね、という夫の顔。
「えっ!どういうことなの?説明してちょうだい、私はてっきりこの人が…」
「お母さん、少し落ち着いて、話を聞きましょうよ」
あたふたとしているお母さんに、お茶をすすめる。
何かの覚悟を決めたように、愛菜はゆっくりと話しだした。