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古より、鬼を狩る者たちがいた。人知れず刀を振るい、闇に潜む怪異を斬る者たち。それが――鬼狩り専門の組織、鬼殺隊。戦国の世、その集団に一人の青年が加わった。
その青年は鬼狩りの集団に、鬼の対抗手段である特殊な「呼吸法」を伝え、全ての呼吸の基礎となる「日の呼吸」を開発する。鬼をも超越し、人の理から外れた、全ての呼吸の源流となった伝説の剣士。
名を、継国縁壱という。
絶望が、面前に広がっていた。
床一面に広がる血溜まり、見るも無惨に折れ曲がった手足、指や耳が欠損した遺体。玄関で呆然と佇む二十歳前後の青年はずっと遠い昔、400年以上前の過去の――いや、前世の記憶を視ていた。
(私は……今世でも守ることができなかった)
青年は理解する。自分はただの士族の末裔ではないのだと。
(やはり……私はあの男を殺すために生まれ落ちたのだ)
青年は何かを決心したかのように庭に出、もう原型もない彼の友人夫妻の遺体を埋葬するための穴を掘り始めた。
一月が経った頃。
青年は元鬼殺隊士の桑島慈悟朗に保護され、今は鬼殺の剣士になるべく鍛錬をしていた。
広々とした道場に青年の呼吸音のみが響き渡る。
刹那、目の前にあった人型の藁人形の頸が飛んだ。動きは流麗で、空気を切る音も正確で鋭い。桑島は目を細め、微笑む。
「うむ、素晴らしい動きだ。お前、随分と心得ておるな」
青年は軽く頭を下げる。
「ありがとうございます」
「踏み込みは迷いなく、息は浅すぎず深すぎず……うむ」
桑島は破顔して青年を褒めた。青年は黙って頷く。だが心の内は冷ややかだった。
日が傾くまで繰り返される訓練の間、桑島は時折声をかける。
「お前、無駄に力を出していないか?」
青年は刀の握りを変えず、静かに答える。
「いいえ」
桑島は頷いた。
「そうか……ならば、その調子でさらに研ぎ澄ませよ」
青年は内心で微かに笑った。良かった、まだ勘づかれていない、と。
そこから季節が一巡した頃。
青年は最終選別を突破し、鬼殺隊に入隊した。暫くして討ったのは右目に「下肆」の字が刻まれた鬼――
数回の雷鳴のような轟音の後、その頭が空高く宙を舞った。
「な、何だあの新人……」
「まさか十二鬼月に勝るなんて…」
仲間の驚愕を前に、光継は淡々と告げる。
「俺一人の力ではない。皆のおかげだ」
土埃を被り、怪我は頬が少し切れている程度。その姿は謙虚で、冷静で――どこか人離れしていた。
そして入隊から2ヶ月程経ち。
「汝の功績、比類なきものなり。」
「……は」
静かに頭を垂れる青年。その姿は、まさに侍のように凛としていた。
「今より“柱”の一人として、鬼殺隊を支えてもらう。」
「……御意」
青年は静かに頭を垂れる。背に翻るマントは、雷鳴のように黄を帯びていた。
名を久遠院 光継。 かのはじまりの呼吸の剣士、継国縁壱の魂を受け継ぎし者。
鬼殺隊の当主を見つめるその瞳は、赫灼の炎のようだった。
鎹烏が羽音を立てる。
「任命! 任命! 久遠院光継殿、鳴柱に任命ィー!」
「鳴柱……? 柱ってなんだ?」
と竈門炭治郎が呟く。
「知らねぇの炭治郎!? 鬼殺隊の最高位! 一番強い奴らってことだよ!!」
「そうか、そうなのか善逸! 教えてくれてありがとう」
「っていうか久遠院って今噂の入隊から1ヶ月もたたずに十二鬼月倒したあいつじゃん! 会ったことないけど!! なんでそんな短期間で柱になれるんだよぉぉもぉぉ!!」
我妻善逸は声を震わせ、足をガタガタと震わせる。
「落ち着け、善逸……」
炭治郎はそう言いながらも、眉間に皺を寄せる。
(何かが、動き始めた気配がする――)
「ふん! そいつ、どんな奴か知らねぇけど、強い奴が来やがったってことだな! ワクワクすっぞ!!」
その隣にいた嘴平伊之助は鼻息を荒くして拳を握る。彼はいつも強者との戦いを求めているのだ。
「……これから、いろんなことが起こりそうだな」
炭治郎は呟く。 目の前に広がる空の色はいつものように清々しく晴れていたけれど、何かを予感させていた。