それから毎日、私は街で耳をそばだてるようにして、抗争の成り行きを見守った。
あるときは情報屋から、またあるときは組の関係者から、そしてまたあるときは、抗争に関与していない他の組織のものから、私はありとあらゆる話を聞いた。
そんなある日、仕事をしていた私は、潜入していた夜の店で、一人の女性…いや、男性と知り合った。
というのも、その人は、その完璧な美貌を活かし、女装をして敵をうつ、という、少し変わったタイプの極道だったのだ。
「ユリ、今日のドレス、素敵だね!」
そういって、透き通るような銀髪と桜色の目で私に笑顔を見せるその人は、ほんとうは男だとわかっていても、あまりの美しさに溜息が出てしまう。
私は、彼女…いや彼にも、抗争のことを何気なく聞いてみた。今回の抗争に、この人の組は加わっていないが、こういう人は、この手の話には詳しいだろう。
すると、私のかつての恋人は、兄と激突し、激しい戦闘にもつれ込んだという。序盤から圧倒的なパワーを見せ、最後は兄を圧倒したものの、とどめを刺す手前で脇腹に2発の銃弾を受け、その後駆けつけた舎弟らによって、闇医者に担ぎ込まれたらしい。
裏社会では、片腕で日本刀を使う兄なのに、なぜチャカの傷なのか、ということで、今はひそかに話題になっているそうだ。
圭一が、チャカ…?
愛する人を、兄の手によって傷つけられたという事実に、私は激しいショックを受けると同時に、何が何だか、わけが分からなかった。
日本刀、隻腕、チャカ…?
圭一の場合、日本刀は右手でしか振れない。チャカの経験が少ない圭一が、刀をもたずチャカのみで出歩くなんて、絶対にありえない…
…!!!
もしや…!!!
妹の私だけは知っている。
隻腕といわれている兄、圭一に、実は未発達の短い左腕があることを。日本刀を振る力はなくとも、チャカの引き金くらいは引ける。
圭一が、母の形見といっていつも身にまとっていた着流し。
長い袖は、短い左腕をすっぽり隠す。
兄がそれを着る理由は、今は亡き母への想いだけだと思っていた。
だが、もしも、他にも理由があるとしたら…
けれど私は、このことを誰にも話しはしなかった。
コメント
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要約見れた…(バグってて作品を見れてませんでした!) あぁだんだんと私の嫌な時間へと流れてく…そして早百合さん、この時点で色んなことに気がついていたとは流石は兄妹…(←何度もすみません!)ここからどうなるのか、怖くて見れない5割、気にる気持ち5割ィィィイイッッッ…!