「あぁ、『紹介する』ってやつは断ったよ。圭吾に言われた一言が頭にずっと残っててさ。『好きだから付き合うもんじゃなのか?』って。すんげぇ当たり前の事なのにさ、今の今まで理解出来てなかった自分にマジで呆れるわ」
「それなら、いっそ全部断れよ」
「鼻っ柱を折ってやりたくなったんだよ。可愛けりゃ何でも思い通りになるって思っているのが途中からムカついてきてさ。清一はお前の考えてるような奴じゃないって、突き付けてやろうかなってな」
充は優しい表情を俺に向けると、そっと頰に触れてきた。
「お前なら絶対に了解しないって思ってたよ」
「充…… 」
頰に触れる手に、自身の手を重ねて瞼を閉じる。
「改めて言うよ、絶対にその子とも俺は付き合わない。…… 付き合えない」
「わかった。月曜日にでも伝えておくよ」
「俺から言おうか?」
「だーめ。だってお前、前に一度俺経由で告白してきた子のこと、コテンパンに打ちのめしてトラブルになったじゃん」
「だってあれは——…… 」
随分前に、よりにもよって充経由で告白された事があった。
『付き合って欲しい——んだってさ』と言われた時の、高揚した気分を即座に打ち砕かれた複雑な気持ちは、今でも忘れられずにいる。八つ当たりに近い気持ちのまま本人の所まで断りに行き、そのせいで彼女の友人達をも巻き込んでトラブルになった。
『今度は、きちんと丁寧に対応しような』
充にそう言われ、それ以降はきちんと丁寧に断る様になった。充経由での告白など、二度と無いように周囲にもクギを刺した。
俺の事を見ていたのなら、充経由での告白は俺の逆鱗に触れる行為だと知らないはずは無いと思うのだが…… 充側に美味しい餌をチラつかせ、敢えて頼むあたり、自信過剰な策士気取りの女だという事が窺い知れる。
「言いたい事があるなら、直接言ってくれとは伝えてくれるか?答えは一つでも、きちんと相手の気持ちとは、向き合ってから断りたいから」
「そうだな、俺もそう思う。…… きっとさ、今まで清一に告白してきた子達も、皆わかってんだろうな、フラれるって。んでもきちんと断ってもらわんと前に進めないから、敢えて砕けに行くのかもな」
「そう、かもしれないな」
告白イベントに付き合わされる俺としては毎度毎度目の前で泣かれて正直たまったもんじゃ無いが、悶々と執着されるよりはマシだと思うしかないのだろう。
「毎度毎度、告白されるお前を見てて『清一ばっかモテてズルイ、許せん!』って思ってたけどさ…… 」
ドサッと音をたて、充がベッドに倒れこむ。照明器具しかない天井を仰ぎ見ながら、充が言葉を続けた。
「今はもう、何に対してあんなムカついていたのかよくわかんねぇや。『彼女が欲しいー』とかも最近全然思わんくなったし、なんかめっちゃスッキリした気分だわ。何なんだろうな?これって」
「そもそも、モテたい動機が不純だったからじゃないのか?」
「あはははは!ホントそれな!」
声を出して笑う充の横でホッと息を吐き出した。不安材料が消え、まだ充の側に居てもいいんだって事が嬉しくて堪らない。
彼女なんか一生つくらないで欲しい。
好きな人が出来たり、結婚とか、子供だとか。
——全部全部全部、このままいつまでも縁遠くあってくれたら…… 俺は、いつまでも充を独占し続けられるのに。
「…… しっかしさ、随分変なタイミングでし始めたな、この話」
俺も充の隣に倒れ、横向きになり片肘で頭を支えた。呆れた顔を充に向けると、「そうだな」と笑いながらあっさり認める。
「——なんか…… 幸せだなーって、ふと思って」
「幸せ?」
「清一との時間がくすぐったくって、何もしてなくてもなんか楽しくってさ。もっと、もっとって欲張ったら、あんな事言ってたわ」
(なぜそうなる?)
不思議に感じたが、充なりの流れがあったのだろう。『モテたいから筋トレしよう』と急に言い出した時の事を思い出し、俺は「そうか、お前らしいな」と言葉を返した。
(くすぐったい…… か)
そう思ってもらえる事が嬉しくって顔がニヤけてしまう。親友相手には感じそうに無い、ちょっと恋人同士みたいな表現に心が温かくなった。
日々、充との距離が近くなっていくような気がする。肌を重ねた続けた効果か、軽い邪魔が入ったおかげなのか。どちらが要因かはわからないが今の関係性は俺にとって好都合だといえよう。
(欲をかいて失敗だけはしないようにしよう)
——とは思うくせに、体が勝手に動き、気が付いた時には充の頰へ軽くキスをしていた。音を出さぬよう気を付けて、『好きだ……』と口を動かす。
行き場のない、閉じ込めた想いがいつか溢れ出ないよう…… この先も気持ちを引き締めねば。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!