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『こっちに来て』
え…
すごく甘い声…
私の好きな雰囲気の声だ。
何だかドキドキして、本宮さんが呼んでくれてるのに、私はその場で立ったまま動けなくなった。
そんな私を見かねて、
『だから気にするなって言ってるだろ』
そう言って立ち上がり、私の方に向かってきた。
待って、来ないで…
そして、すぐ目の前に来た時、私のあごを指で優しく上に押し上げた。
これって…
可愛い女の子が、かっこいい男子にしてもらえるやつじゃないの?
だったら、これは…
私なんかじゃ…ダメだよね。
自然に顔が本宮さんと向き合う…
私は、その美しい瞳に見とれてしまった。
スーッと奥まで吸い込まれそう…
数秒の沈黙の後、
『可愛い…よ』
って、本宮さんが嘘みたいなセリフを言った。
イケメン過ぎる顔が、ゆっくりと私に近づく。
このまま…
キスしてもいいかな…
って、一瞬、本気で思ってしまった。
でも…その時、一弥先輩の笑顔が浮かんできたんだ。
ダメだ!
そう思ったとたん、私は本宮さんから離れた。
『私、可愛くないですから。すみません』
と、後ずさりしながら、私はまた下を向いた。
『自分に自信が無いって言う気持ちはわかる。俺も…まだまだ自分に自信が無いから。でも、恭香には、もっと自信を持って欲しい。目の前でお前の素顔を見てる俺が言うんだ。だから、間違いない。恭香は…』
また数秒の沈黙。
その静寂の中で聞こえたのは、本宮さんが息を飲む音だけだった。
『本当に可愛いよ』
そうつぶやいた瞬間、本宮さんは少し顔を赤らめて、
『…の、喉乾いてるだろ。恭香も何か飲んだらいい』
そう言って、元の場所にさっさと座った。
まるで、さっきまでの夢のような時間が何も無かったかのように…
怖いだけの人だって思ってたけど、本当は…
優しい一面も持ち合わせてる人なのかも…って、ちょっと思い直し始めてた。
本当に私を可愛いなんて思ってはいないだろうけど、私を傷つけないように言葉を選んでくれてた。
やっぱり、何か理由があるのかな…
ここに来たことも。
この人の全てを理解するには、まだまだ時間がかかるのかも知れない。
今日はちょっと疲れたし、もう休もう。
私は、本宮さんに『おやすみなさい』と言ってリビングを出た。
本宮さんは、もう少し起きてるのかな…
布団に入って目を閉じると、今度は一弥先輩じゃなく…本宮さんの顔が浮かんだ。
状況が状況なんだから、仕方ないよね。
今は、こんな近くに…
本宮さんがいるんだから。
でも…
私が好きなのは、一弥先輩。
さっきも一弥先輩が思い浮かんだから、本宮さんとキスしなかったんだ。
もし、思い浮かばなかったら…
もしかして、私…
正直、今となってはわからないけど…
いろいろ考えてるうち、私はいつの間にか…
深い眠りについていた。