しばらくすると、夏輝は立ち止まり、後ろを振り向いた。
「青澄さん」
「ここが、この世界の中心部です」
そう言いながら指差す所には、思わず目を見張る光景が繰り広げられていた。
果てしなく続く大地。
真っ赤に染まる美しい薔薇の花。
その中にひとつ、ぽつりと置かれた風車。
まるで異世界の中のような、そんな不思議な感覚を覚えた。
キレイだ。
初めて心から、物に対して美しいと感じた。
そして初めて「感動」から涙を流したのだった。
「あ、青澄さん!?大丈夫ですか!?」
夏輝は、不安そうにこちらを覗く。
そんな彼の顔がよく見えなくなるほど、視界が私の涙で滲んだ。
もう止まらなかった。
感情が溢れ出して、暴れて……
だけど不思議と、悪い気はしなかった。
涙が、これまでの辛い過去を綺麗さっぱり洗い流してくれた気がした。
―――そしてその時、私は感じた。
変わったのだ。
自分の心が。
後ろ向きな私の気持ちや感情が全て。
吐き出した言葉、いくつもの心の傷……
それらが全部、消えた。
実際に目に見えた訳では無い。
でも、明確に分かった。
私は生まれ変わったんだ―――!!
夏輝に、思わずこのことを報告する。
「夏輝くんっ!」
「……! 青澄さん、どうされましたか?」
「なんだかね、私………」
「今、生まれ変わった気がした」
「!」
「すごく不思議だけど、でも本当なの!」
「今、有り得ないくらい心がスッキリしてる」
「きっとこの世界が、私に希望を与えてくれたんだよ」
「ありがとう。夏輝くん」
「!!」
「青澄さん―――」
夏輝は、少し間を空けて話し始めた。
「………………僕の狙いは、最初からこれだったんです」
「え?」
彼は少し上を向いて、視線を遠くに移した。
途端、一気に空気が重くなる。
「…………青澄さん」
彼の名前を呼ぶ声が、変わった。
「どうしたの?」
あくまでも冷静を保ち、答える。
「本当のことを、言ってもいいですか」
彼は何かを決意したと言わんばかりの表情を見せている。
私は質問に対し、首を縦に振った。
夏輝はそれを確認すると、小さな笑みを浮かべて言った。
「僕、青澄さんの心の中の人なんです」
「え?」
「あなたが自ら生み出した、架空の人物ということです」
「っ、ど、どういうこと?理解、できないよ……っ」
私は彼の言葉で、一気にパニック状態に陥る。
夏輝が、私の心の中の人?
架空の人物?
……………意味がわからない。
でも、夏輝があまりにも真剣なトーンで話していたから、私は冗談でしょと笑うこともできなかった。
「………青澄さんは、天日のような存在を求めていたんです」
「暖かくて、心の癒やしになる存在」
「そうでしょう?」
「!!」
突然、核心をつかれた。
ついさっきまであんなに優しかった夏輝が、今では敵に見えてしまう。
「僕はあなたが作り出した創造物」
「あなたが僕のことを少しでも“必要がない”と思えば、すぐに消えてしまう」
「そんな脆い存在なんですよ」
そう言う夏輝の体は、今にも消えてしまいそうなくらいに透けていた。
「な、夏輝くん!」
「消えないで!!!いかないで!!!」
「私、どうすればいいの!?」
「夏輝くん!!!!」
私はただ声を荒げる。
遠くへ去ろうとする彼の背中を見つめて。
『行ってほしくない』
本気でそう思った。
なのに、なんで?
なんで行ってしまうの?
「青澄さん」
「あなたは、僕のことをいらないと思っているんです。心のどこかで」
「もう十分、僕は役割を果たした」
「!!」
「だから。」
“大丈夫”
“あなたは、僕がいなくても生きていける”
“すれ違っていた心が、今、通い合ったんです”
“だから大丈夫”
“あなたは強い”
“そして、どこまでも強くなれる”
“また辛くなったら、僕のことを思い出してください”
“きっと、青澄さんの心の支えになるはずです”
“なぜなら……”
“僕はあなたの、創造物だから”
―――FIN―――






