テラーノベル
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怖くなって、私は病室に籠もっていた。現実感がじわりじわりと登ってくる。もしかして私は、誘拐されてしまったのだろうか。この、イカれた病棟に。
ふと、ノックが聞こえた。甘ったるい、人工甘味料みたいな声がする。
「患者さん〜♡ごはん、ですよぉ♡」
そう呼んだのは、さっきの子とは違うナースだった。外ハネが効きすぎている、白いくせ毛に、不格好なリボンが幾つもついていた。このベッドのパイプについている結び方と全く同じだ。きっと彼女が巻いたのだろう。
彼女が持ってきたのは、ラムネとグミをサイケデリックなジュースの上に浮かべた、お菓子のスープ。どうみても病人に出すものではなかった。
「患者さん、お病気だから!食べさせてあげるね〜♡」
そういって、笑顔でスプーンにグミを掬い口元へ運んでくる。この年で子ども扱いをされ、思わず顔を離した。
「あ、だ、大丈夫、です。一人で食べれますから。」
そう言って奪い取るように1番からスプーンを貰い、その虹色のスープもどきとグミを口に入れた。グミはジュースでふやけ、ブヨブヨの食感がする。美味しいとは、決して言えなかった。
1番は少し悲しそうな顔をした。でも、静かに私のことを見ている。
私はどうしてもここから出なくてはならなかった。その為にも、この場所についてもっと知らなくてはならない。
「貴方と少し話がしたい。…色々ここの話を聞かせてくれませんか?君のことや、他のナースのこと。…それに、ドクターの話も。」
彼女は目を輝かせた。その言葉を渇望していたかのように。
「…!☆_☆もちろん、いいよ〜!私の名前は、1番!今日患者さんが、最初に会った娘は2番ちゃんって言うの〜♡あの子は、気が強くてね。すぐ怒るよ!でも、誰よりも患者さんのことを見てるの〜。」
「ナースは3番ちゃんと、4番ちゃんもいるよ!全員で四人♪あのね、番号は生まれた順なの>ω<だから、私が一番おねーちゃん♡」
「患者さんは、何番ちゃんが好き〜?私は患者さんのことが好きだよ〜♪」
「あとねあとね、ドクターはみんなのパパだよ!ドクターが作ってくれたから、皆生まれてこれた♫だからね、皆ドクターのことが大好きなの!」
彼女は警戒心がなく、全てを教えてくれた。誰かと話すのが好きなのか、ずっと楽しそうだった。
…これは余談だが、彼女はボディタッチが凄まじい。頭を撫でてきたり、頬をつねったり。腕に胸を押し当てられたときは、説明の半分が吹っ飛んでいってしまった。
「…これくらいかな?もう聞きたいことない?なかったら、他の人間さんにもご飯あげてこようかな♪……えへへ、患者さんとお話できて嬉しい〜♡」
そういって、薄いピンクに色づいた唇を私の頬に押し当てられる。柔らかかった。別に女性経験がないわけではないが、思わず心臓が跳ねる。こんな状況だというのに、顔が熱くなる自分が情けない。慌ててその邪念を振り払う。
彼女は2番とは違い、かなり友好的で、優しかった。だから、「ここから出たい」と言ってもきっと快く承諾してくれるだろう。そう思い、一番聞きたいことを聞いた。急いでしまったのだ。結論を。
本当に、言わなければよかった。
「実は、ここから出たいんだけど…2番さん?ってナースに、全員の許可がいるって言われて…」
その瞬間、ピシリと空気が張り詰めた。「1番ちゃん」は俯いたまま、ドアの前に立ち尽くしている。その無言がしばらく続き、ようやく振り返った瞬間。
─私は思わず息が詰まった。
そこにいたのは、先程までの「1番ちゃん」ではなかった。
目を見開いている。あまりにも大きく。今にも零れ落ちてしまいそうなほどに。スモーキーラベンダーの瞳は、黒々と開いた瞳孔に呑み込まれ、その視線だけが私に縫い付けられていた。
口元は、笑っている。
けれど、その笑みは人を安心させるものではない。引き攣ったように口角だけが持ち上がり、白い歯が覗いていた。
長い前髪を無意識に噛んでいる。ぎち、ぎち、と髪を咀嚼するような音だけが、やけにはっきりと耳に届いた。
#こめんとくーださい!
熱い冷やし中華
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#この物語はフィクションです
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「患者さん。」
呼ばれただけなのに、体が竦んだ。彼女は止まらなかった。
「患者さん、なんでそんなこと言うの?ああ、まだどこか悪いんだね。どこかな?あ、きっと脳みそだね。こんなこと考えるなんて、故障してるんだ。私が直してあげる。」
そういって、私に手を伸ばす。この腕に掴まれてはいけない、と第六感が叫んでいた。私は持っていた病院食を1番に向けて投げつけた。頭が真っ白で、パニックが体を動かす。ドアを壊れそうなほどの勢いで開けて、後ろを一度も振り返らずに走る。
ここがどこかもわからない。出口も知らない。ただ、「捕まってはいけない」という防衛反応だけが私をこうさせていた。私のいた病室から、耳を劈くような金切り声が聞こえる。同一人物とは思えないような、恐ろしい悲鳴。
一つ、クレヨンで【たちいりきんし!】と書かれた部屋が目に入った。ここなら、きっと1番も入ってこないだろう。考える間もなく、駆け込んだ。幸い、鍵はかかっていなかった。
コメント
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うわあ…1番ちゃん、あの甘い雰囲気からの豹変が本当に怖かったです。最初の「お姉ちゃん」感が逆に効いてる。それに「番号は生まれた順=ドクターが作った」って台詞、この病棟の構造を示唆しててゾッとしました。主人公が飛び込んだ「たちいりきんし」の部屋にも何があるのか…続きが気になります。