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そんなことがあったんだ🥲 続き楽しみです!
あれから週に1回、カウンセリングに行くようになった。1人で行く時もあれば、誰か連れて行くこともある。今日は1人で来ていた。小さな病院のドアを開けると、いつも通り受付で事務作業をしている目黒さんがいた。
「こんにちは。」
「…あ、舘さん。こんにちは。」
「…どうかされました?」
「え?」
「いや、その…元気ないような気がして…」
「…ははっ、心配ありがとうございます。…少し寝不足なだけなんで。気にしないでください。」
「…無理しないでくださいね。」
「ありがとうございます。舘さんはいつも通りカウンセリングですか?」
「はい。」
「了解です。担当は希望ありますか?」
「…向井さんで。」
「ありがとうございます。…あいつも喜びますよ。」
「…なんでですか?」
「あいつ…康二は元々関西の方で働いていたのは知ってますか?」
「はい、聞いたことあります。」
「……そこであいつ悪質ないじめを受けていたんすよ。」
「え…?」
「今でこそあんな明るい感じだけど、ここに来たばっかの頃は目に光がなくて、すげぇ暗かったんすよ。」
「…そう、なんですか。」
「はい。…んで、前まではそんな感じの目をする時があったんだけど、舘さんが来るようになってからそんなことがなくなってきて。」
「…」
「きっと舘さんと話すのがあいつは楽しいんだろうなって分かるんすよ。」
「…」
「…っと、やべ、話しすぎた。ラウールがあっちで不貞腐れてる。」
そう言って目黒さんが見た方に視線を向けると、目黒さんが言った通り、ラウールさんが頬を膨らませて立っていた。
「行ってあげてください。ラウールも舘さんと話すのが楽しいって喜んでるんで。」
「はい。…目黒さん。」
「ん?何ですか?」
「…目黒さんは俺と話すのは楽しいですか?」
俺の質問に目黒さんは一瞬だけ目をまるくして、微笑んだ。
「楽しいですよ。舘さん、ちゃんと聞いてくれるから。」
「…そっか…」
「はい。…じゃあ、ラウールの方お願いします。」
そう言って目黒さんは手を小さく振った。俺もその手に振り返してラウールさんの方へ行く。
「ラウールさん、こんにちは。」
「こんにちは舘さん!俺とも少し話そ!」
「はい。いいですよ。」
「やった、じゃあこっち来て。」
そう言ってラウールさんが案内してくれたのは休憩室だった。いつもだったら待合室の椅子とかなのに。
「いいんですか、休憩室に一般の人が来て…」
「うん、大丈夫。それに康二くんには少し話してから来るって言ってるから。」
そう言いながらラウールさんは長い足を組んだ。
「…さっきめめと何話してたの?」
「…向井さんの過去のお話を少し…」
「あぁ…めめ話しちゃったのか。」
「…聞いたらまずかったですか?」
「ううん!…めめが康二くんの話をしたってことはめめは覚悟を決めたってこと。だから俺からめめの過去の話をするね。」
「…目黒さんの話?」
「うん。…まず、この病院って俺ら3人以外のスタッフさんって見たことないでしょ?」
「…そういえば、そうですね。」
「それってめめが仕向けたんだよね。」
「…どういうことですか?」
「…めめさ、康二くんだけいじめられてたみたいな感じで言ってたと思うんだけど…めめも、俺も。似たようなことをされたことがあったんだよね。」
「…ラウールさん、も?」
「うん。あの時はキツかったなー…周りが全員敵に見えてた。」
「…」
「そんな俺をめめは守るようにしてそのいじめに耐えていったの。」
「…」
「だけど…めめが壊れちゃって。」
「…壊れる?」
「うん。病院中を暴れ回ったの。今まで耐えてきたことを吐き出すような感じで。」
「…」
「…怖がって勤めてたスタッフさんが全員辞めた。残ったのは俺とめめだけ。…絶望のどん底に落ちた気分だった。」
「…」
「そこに来たのが康二くんだったの。…恐ろしい位感情がなくて周りを警戒して。…でも…さすが康二くんだったよ。めめが壊れちゃってたことに気付いたの。」
「…」
「そして康二くんはめめのカウンセリングをして、めめは今の状態に戻ったの。でも今でもあまり人を心から信用できないらしくて、3人でやってるんだ。」
「…そんなことが、あったんですね。」
「うん。…今日めめぼーっとしてたでしょ?」
「…あ、はい。」
「今日丁度その日だったんだよね。」
「…?」
「めめが、壊れた日。」
そう言ってラウールさんは悲しそうに笑った。
「…遅くなっちゃったね。康二くんのところ行こうか。」
「…はい。話してくれてありがとうございました。」
「…舘さんこそ聞いてくれてありがとね。…行こっか。」
そう言って歩き出したラウールさんの半歩後ろを俺はついて行った。