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ドアの鍵を開けようと手を伸ばすが、スッと引いてしまう。


無意識下での状態だと、まだものは氷漬けになる。


なら、俺はまだダメだ。


そんな事をグルグルと考えていると、ドアの奥から、いつもの少し重い足音が聞こえてくる。


兄貴の足音は、だんだんと、心なしか軽く、少し速くなる。


案の定、ドアの前で足音は止まった。


『炎露、おはよう。今日は、いい朝だな。飯、置いとくからな』


ドア越しに、すぐそこに兄貴の声が聞こえる。


ただ、その声は少し震えていた。


なんで兄貴の声は震えてるんだ?


もしかして、泣いてるのか…?


なんで…?


全く持って理解できなかった。


どうして兄貴が泣いているのか。そんな事ばかりグルグルと思考を巡らせていたら、兄貴は軽い足音のまま、部屋の前を去って行った。


また、何も言えなかった…。


取り敢えず、飯、食うか。


そんな結論にいたった理由は至って簡単で、ただ腹が減った気がしたからだ。


そっと、ドアの鍵を開けて、外の様子を首を伸ばして伺う。


誰も居なかった。


ドアの横にある机。そこにモクモクと湯気の立つボルシチと黒パンがあった。


それらが乗った木のトレーを手に取って、部屋に持ち込む。


落とさないようにそっと机の上に置いてから、ドアの鍵を閉めた。


スプーンが凍らないように。そんな事を考えながらスプーンを手に取る。


そっと、ビーツの赤をスプーンで掬う。


「アチッ」


想像以上の熱さで、思わず声が出た。


今度はさっきよりもゆっくりとボルシチを口に運ぶ。


久しぶりに食べたボルシチの味は、懐かしくて、温かかくて、最高級に美味い。


手に取った黒パンは、香ばしい香りを漂わせる。


一口噛れば、ライ麦特有の酸味と、旨味が口いっぱいに広がった。


無意識に頬へ水が流れる。


そんな事に気が付くわけもなく、俺は無我夢中で兄貴の作った飯を食べた。


心があったかいもので満たされて、それで埋まってゆく。


夢中になり過ぎたせいか、意識するのを忘れてスプーンはちゃっかり凍っていた。


苦笑いを浮かべつつも、俺の心と腹は満たされていた。


ふと体内時計での計算をすると、そろそろ兄貴が食器を回収しにくる時間だった。


まだ俺は兄貴に面と向かって話す勇気は無い。


だから、もうそろそろこのトレーを部屋の外にある机に置かなければならない。


イソイソとしながら椅子から立ち上がり、またドアに向かう。


例のごとく、鍵を開けて、外の様子を伺ってからトレーを元の位置に戻した。


俺が部屋に戻って鍵を閉めたのとほぼ同タイミングで兄貴の駆け足のような速さの足音が聞こえた。


『お、炎露、今日は食ってくれたんだな。良かった。どうだ?久しぶりに食った飯の味は』


そう話した兄貴は、また、泣いているようだった。


でも、その涙は、嬉しさなのかもしれない。そう俺に思わせたのは、兄貴の嬉しそうな、少し高めの声だ。


俺が驚いて動けずにいると、兄貴はまた、歩みを進め始める。


「美味かった!」


慌てて出した声は、ドアの向こうにいる兄貴にも届いたようで、震える声で『良かった』と、そう一言残して行った。

運命図〜零度が知らせる熱〜

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