テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#裏切り
#モテテク
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……これでいいのね?」
震える手でタブレットを操作する莉奈を、私は冷たく見下ろした。
かつての彼女が纏っていた高級香水の香りは消え、今は焦燥と生活苦が混じった嫌な匂いがする。
「ええ。直樹があなたにだけ教えたはずの、暗号資産の秘密鍵。それをこのツールに入力して」
「……あなたが『被害者』として警察に駆け込むための、最強の武器になるわ」
莉奈が入力したコードが認証されると、画面には目を疑うような数字が並んだ。
直樹が数年間にわたり、会社の取引先から中抜きしたリベートの残滓。
日本円にして、およそ5,000万円。
「……あ、あはは! こんなに……こんなにあったんだ。直樹のやつ、私には『金がない』って言いながら、こんなに隠し持って……!」
莉奈が歪んだ笑い声を上げる。
直樹は、莉奈という「欲望の塊」さえも完全には信用していなかった。
自分だけが逃げ切るための資産を、彼女の目の届かない場所に隠していたのだ。
「詩織さん、これ……私たちが折半にしませんか?これがあれば私、やり直せます!」
「……浅ましいわね」
私は莉奈の手を振り払い、そのデータを一瞬で別のアドレスへ転送した。
転送先は、直樹の元勤務先のコンプライアンス室。
そして、検察庁の直通窓口だ。
「なっ……何してるのよ!私の分け前は!?」
「分け前? 勘違いしないで。これはあなたが『主犯』にならないための材料だって言ったはずよ」
「……今この瞬間、この資産は『犯罪収益』として凍結されたわ。そして、直樹には『横領および背任』の追起訴がかかる」
私は莉奈の耳元で、囁くように告げた。
「あなたはこれから警察に行き、『直樹に脅されてこの口座の管理をさせられていた』と証言しなさい」
「……そうすれば、あなたは実刑を免れるかもしれない。でも、一生『直樹の共犯者』として、損害賠償を払い続ける人生が待っているわ」
「そんな…!嘘でしょ……!?」
「直樹を地獄に送るための、道連れになってもらう。……それが、私を嘲笑った対価よ」
◆◇◆◇
翌日
刑務所の面会室に、一通の通知が届いた。
直樹は、不倫の慰謝料問題が落ち着けば、数年で出所できると高を括っていた。
だが、突きつけられたのは「組織的犯罪処罰法違反」および「特別背任」の容疑。
その証拠を提出したのは、他でもない莉奈であること
そしてその裏で糸を引いていたのが、自分が「無能」と切り捨てた妻であることを、彼はまだ知らない。
その頃、私のオフィスを一人の男が訪ねてきた。
直樹の元上司、今は常務に昇進した高木だ。
「……飯田さん。いや、今は詩織さんと呼ぶべきかな。我が社の闇を暴いてくれたこと、感謝する」
「だが、これ以上掘り下げられると、会社の株価にも影響が出る。……これは、和解金としての提案だ」
差し出された封筒。
中身は、直樹が横領した額とは比べ物にならない「口止め料」の提示だった。
私はその封筒を一瞥もせず、高木に向かって不敵に微笑んだ。
「高木常務。……私は『1円の誤差』を許さない女だって、直樹から聞いていませんか?」
和解、隠蔽。
そんなぬるい幕引き、私が許すはずがないだろう。
【残り80日】