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#ざまあ
#裏切り
#モテテク
「……高木常務、お引き取りください」
私は、差し出された「口止め料」の封筒を、指先一つ触れずに押し返した。
高木の顔が、不快そうに歪む。
「詩織さん、君は賢い女性だと思っていたが。……直樹という重荷を下ろして、ようやく手に入れた平穏な生活を、わざわざ会社という巨大な組織を敵に回して壊すつもりか?」
「平穏? ……私が求めているのは、そんな曖昧なものではありません」
私はPCの画面を回転させ、高木に見せた。
そこには、直樹の隠し口座から抽出したログの断片と
特定の海外法人への不自然な送金記録が並んでいた。
「直樹が行っていた横領は、確かに卑劣です。でも、彼はただの『窓口』に過ぎなかった」
「……この送金先、高木常務、あなたの親族が経営するダミー会社ですよね?」
高木の顔から、余裕の笑みが消え失せた。
「直樹を『トカゲの尻尾』として切り捨て、すべての罪を彼に着せて終わらせるつもりでしょうが……私は、その尻尾の先にある本体まで、根こそぎ引きずり出すつもりです」
「……君は、自分が何を言っているのか分かっているのか」
「ええ。1円の狂いもなく、真実を計上する。それが私のやり方です」
高木は吐き捨てるように部屋を出て行った。
彼との全面戦争が始まった。けれど、恐怖はない。
◆◇◆◇
その日の夜
一人でオフィスを出ると、冷たい雨が降り始めていた。
駐車場へ向かう暗がりの陰から、狂気を孕んだ笑い声が聞こえる。
「……全部、あなたのせいよ」
現れたのは、莉奈だった。
雨に濡れ、化粧は崩れ、その手には果物ナイフが握られていた。
「直樹も、お金も、未来も……全部奪った。自分だけ綺麗な服を着て、立派な仕事をして……許せない。あなたさえいなければ、私は今頃、幸せな奥様だったのに!」
莉奈が叫びながら、私に向かって突進してくる。
私は逃げなかった。ただ、静かに彼女の瞳を見つめた。
「莉奈さん。……あなたが今、私を刺せば、あなたは一生、刑務所の中で直樹と同じ空気を吸い続けることになるわよ。それがあなたの望んだ『幸せ』なのね?」
莉奈の足が、ピタリと止まった。
ナイフを握る手が激しく震えている。
「私を殺しても、奪われたお金は戻らない。でも、もしそのナイフを捨てて、私の指示に従うなら……高木から奪い取った資産の一部を、正当な『情報提供料』として受け取れるよう、弁護士と調整してあげてもいいわ」
「……え?」
「毒を食らわば皿まで、でしょう? 泥舟から逃げ遅れた二人で、最後の一儲けをさせてあげる」
莉奈は力なく膝をつき、ナイフをアスファルトの上に落とした。
彼女のプライドは、もう粉々だ。
私は傘を差し出し、絶望に沈む彼女を冷ややかに見下ろした。
「泣いている暇はないわよ。……明日の朝、高木の背任を証明する『裏帳簿』の場所を、直樹から聞き出してきなさい」
愛憎の果てに残ったのは、冷徹な利害関係だけ。
直樹、莉奈、そして高木。
絡み合った悪意の糸を、私が一つずつ丁寧に解いて───
そして断ち切ってあげる。
【残り79日】