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「お待たせしちゃってごめんなさい。さぁ、召し上がって」


末っ子のつもりでいるマリアンヌは、大好きな二人の前にお茶を置く。


既にそこそこ広いテーブルには沢山の菓子やフルーツが並べられているので、ティーカップを置いたら、もう空いているスペースはない。


「で、どうだったの?」


出されたお茶に目もくれずに、エリーゼは身を乗り出して、着席したばかりのマリアンヌに問いかけた。


すぐにマリアンヌとレイドリックは、互いに顔を見合わせ、どちらが答えるべきか譲り合う。


しばらくのやり取りの後、答えたのはレイドリックだった。


「あー……うん。予定通りになったよ」

「ふぅん」


エリーゼは、さして嬉しくはなさそうだった。


(え?……てっきり喜んでくれると……思っていたのに)


唇を尖らせてあらぬ方を向くエリーゼを見て、マリアンヌは軽いショックを受けた。


「あら、いやぁね、マリー。そんな顔しないでよ」


慌てたようにエリーゼは、青ざめるマリアンヌの肩を掴んで覗き込みながらこう言った。


「レイドリックなら、これくらいできて当然って思っただけよ」


すぐさま横から「酷いなぁ」という声が聞こえてくるが、エリーゼは意地の悪い笑みを浮かべるだけ。


そんな二人のやり取りを見ながら、マリアンヌは目を丸くした。そうか、そんな発想があったのか。


「とにかく計画は成功ってことで、お疲れさま、レイドリック。マリーもね」

「うん!」


マリアンヌは、エリーゼの言葉に大きく頷いた。やっと欲しい言葉が貰えて、嬉しくてたまらない。


格差婚とか、逆玉の輿と揶揄されそうなこの婚約は、3人がずっと一緒にいられるために、1年前から計画した。


社交界デビューをすれば、自然と縁談話を耳にする。


貴族として生まれた以上、未婚のまま過ごすのは許されない。そして既婚者となれば、容易に会えなくなってしまう。


これから先も、ずっと3人で仲良く過ごしたい。その願いを叶えるために、マリアンヌかエリーゼのどちらかが、レイドリックと結婚すればいいという結論に至った。


とても幼稚で愚かで、知恵の浅い計画だとわかっている。きっとウィレイムが聞いたら、激怒すること間違いない。

でもマリアンヌは、真剣だった。かけがえのないこの時間を、絶対になくしたくなかった。


恋は辛く苦しく、友情は温かくて楽しい。流行の恋愛小説を読んでも、ときめきを覚えるどころか、ピンとこないマリアンヌは、友情が途切れてしまうことの方が恐ろしい。


だからレイドリックと自分が結婚できなくても、エリーゼと彼が結婚してくれれば、それで構わなかった。でも、エリーゼは強く二人が結婚をすることを薦めた。

その理由を問うてみたけれど、エリーゼははぐらかすばかりで、明確な答えはもらえなかった。

それからしばらく、3人はお茶を飲みながら他愛もない話をする。


大雨の間、自宅に引きこもっていた時の近況報告や、最近流行っているお菓子や、髪飾りの話題で盛り上がり、ちゃんとドレスにも触れて貰えて、マリアンヌはとても楽しかった。


そして、お茶を3杯お代わりして、お皿に載った菓子もほとんど空になれば、今日のお茶会はお開きの時間となってしまった。


ロゼット邸は広い。馬車が止めてある場所も、離れた所にある。


マリアンヌはメイドに、馬車を近くまで回すよう指示を出そうとしたが、エリーゼ達はそれを断った。


「今日はありがとう、エリーゼ」

「こちらこそ。じゃあまたね、マリー」

「うん。レイドリックも気を付けてね」

「ああ。じゃあ、行くね」


テラスで別れの挨拶を交わした後、マリアンヌは二人が視界から消えるまで見送り、もう一度着席する。


他意は無い。ただ、楽しかった時間の余韻に浸りたくて、まだ部屋に戻りたくなかっただけだ。


でもダラダラとここにいると、片付けができないだろう。


メイド達に気遣い、マリアンヌは庭へ移動することにした。


春といえど、風はまだ冷たいがショールを必要としない寒さだったので、マリアンヌはゆっくりと季節の花を見ながら歩く。


でも、少し歩いただけで、すぐに足を止めた。ウィレイムの馬車が、屋敷に入るのが見えたのだ。


(たまには、馬車まで出迎えてみようかしら)


いつもより兄の早い帰宅が嬉しかったのと、お茶会が終わってしまった寂しさから、マリアンヌはそんなことを思い付いた。


その気まぐれが、すぐ激しい衝撃に変わることになるとは知らずに──

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