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「はじまりの手のひらが」(続き)
「触れたら、困るって….どうゆう意味? 」
言葉にすると、胸の奥がざわついた。
カイは少しだけ困ったように笑って、私の問いには答えなかった。
「それよりさ、君、ここにはよく来るの?」
話を逸らすように言う彼に、私は小さく首を横に振る。
「……今日が、初めて…。 」
「そっか。じゃあ、”ここ”で初めて出会ったのが僕って、ちょっと運命ぽいよね?」
冗談みたいに笑う彼の声はなんだか心地よくて、私は少しだけ肩の力が抜けた。
誰かと自然に話すなんで、いつ以来だろう。
「ユイちゃんでしょ?」
「え?…なんで..名前…」
「へへ、秘密。」
そう言ってカイは悪戯っぽくウィンクした。
ほんの少し腹が立つ。でも、それ以上にーー気になった。
どうしてこの人は、こんなにも自然に私の中に入り込んでくるんだろう。
しばらくの沈黙。
だけど、不思議と気まづくはなかった。
旧校舎の教室に差し込む光の中、
私たちはただ、静かに並んで座っていた。
カイは何かをじっと見つめていた。
その横顔は明るい笑顔とは違って、どこかーー寂しそうだった。
「カイくんは…ここで何をしてるの?」
ふと、そんな言葉が口をついて出た。
本当は話すつもりなんてなかったのに。
彼は一瞬だけ目を見開いて、それからまた笑った。
「君を待ってたんだよ。」
冗談ぽく、でも優しく。
その言葉が、なぜか私の胸に深く残った。
まるでずっと昔から、彼と出会うことが決まっていたようなーー
そんな気がした。
この日から、私は”触れることのできない彼”に、少しずつ、心を預けて行った_。