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第2章「君の声が近くなる」
カイと出会ってから、私は少し変わった。
と言っても、外から見れば何も変わっていないかもしれない。
教室では相変わらず、一人で席に座り、
昼休みには、静かな図書館に向かう。
でも、心の中が少しだけ….軽くなった気がした。
あの日から、私は時々、旧校舎へ足を運ぶようになった。
理由は簡単だった。
そこに、彼がいるから….。
「やぁ、また来てくれたんだね。」
窓際の席に座っていたカイが、ふわっと笑って手を振る。
__本当は、こうゆうの苦手なはずなのに。なぜか彼にだけは自然と笑い返せてしまう。
「__その本、読んでたの?」
「うん。内容はよく分かんないけど、文字って好きなんだよね。見てると落ち着く」
「__変な人。」
「よく言われる。」
カイは笑いながら、椅子をトントンと叩いて
「ここ座っていいよ。」と言ってきた。
わたしは戸惑いながらも、隣に座った。
いつの間にか、そうすることが”当たり前”になっていた。
「ねぇ、ユイちゃんは、どんな声してる?」
突然の言葉にわたしは思わずカイを見た。
「….え?」
「いや、ごめんね。変な質問だったかな。なんかさ、君、あんまり喋らないでしょ?でも最近、ちょっとずつ”声”が近くなってる気がして。」
「…近く?」
「うん。最初は、遠くから風の音みたいに聞こえてた。でも今は、ちゃんと僕のそばで響いてる。」
私は上手く返事ができなくて、視線を逸らした。
でもその言葉が、どこか、嬉しかった。
自分の声なんて、誰にも届かないと思っていた。
だけど今、たった一人でも「聞いてくれる人」がいる。
それだけで、こんなに世界は変わって見れるんだ__
この日、私は初めて自分からカイに話しかけた。
まだぎこちない声だったけど、ちゃんと届いていたと思う。