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第1話:未来の遺書
放課後の笹波駅は、人影もなく静かだった。
ホームのベンチに座る少女・石野(いしの)は、肩まで伸びた髪をひとつに結び、セーラー服の袖口を指先で握っていた。靴下は少し泥でくすんでいる。
視線を落とした先、ベンチの足元に一枚の封筒が落ちているのに気づく。
封筒は少し黄ばんでおり、表には油性ペンで彼女のフルネームがはっきり書かれていた。
胸がざわつくのを抑えながら封を切る。中の紙には、震えた文字でこうあった。
――「2029年2月14日 さようなら。ありがとう。」
日付は、五年後のバレンタインデー。
意味がわからないはずなのに、喉が詰まり、手のひらが汗ばむ。
紙の下の方には、書きかけの文がにじんで残っていた。
「でも、◯◯だったら……」
石野は駅の時計を見上げる。
夕焼け色の空がホームに伸び、風が制服の裾を揺らす。
――このまま進めば、あの日の自分に辿り着くのか。
それとも、今から変えられるのか。
封筒を握りしめ、石野は電車が来る方向をじっと見つめた。
背中に冷たい風が通り抜ける。未来の扉が、少しだけ軋んだ気がした。
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