高校時代の親友、本橋奈美と、彼女の上司を見送った後、相沢 恵菜は、彼らが食事していたテーブルをクロスで拭いていた。
(あの二人が、職場の上司と部下だったなんて、思いもしなかったよ……)
人との繋がりって、どこで繋がっているのか、本当に分からない。
二日前、恵菜が正面衝突したあの男性に、最初、同性がぶつかってきたと思ったのか、難癖をつけるように声を荒げられた。
周りをよく見ず、恵菜はすぐに謝ってから、彼に手を差し出されて。
無骨な手を見た瞬間、泣きそうになっていたかもしれない。
礼を言うために、彼に目を合わせたら、背の高いイケメンで。
短めの黒髪に緩くパーマを掛けたようなツーブロックのヘアスタイルに、爽やかなスポーツマンの雰囲気。
恵菜は、あの彼をカッコいいと思ってしまった。
二日後の今日、まさか職場で偶然に会うなんて、予想すらしなかった事で……。
恵菜の中で、あの出来事は一期一会だと思っていたから。
(奈美はあの彼の事、『所長』って呼んでたよね……。お偉いさんなんだよね、きっと……)
テーブルを拭いている手の動きが、おざなりになっている事に気付き、恵菜は小さくかぶりを振る。
「いけない、仕事しなきゃ……」
フウッとため息を零した後、彼女は、気持ちを仕事モードに切り替えた。
仕事を終え、ファクトリーズカフェを後にした恵菜は、ファクトリーパーク立川の正門へと向かう。
「お疲れさまでした」
通行許可証を警備員に掲示し、ペコリと頭を下げ、門を通り抜けた。
彼女はいったん立ち止まり、ぐるりと辺りを見回すと、多くの仕事帰りの人が恵菜の前を行き交っていて、ホッと胸を撫で下ろす。
(良かった。いないみたい……)
恵菜は、人目を避けるように、俯き加減で立川駅へ急いだ。
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