1992年 北海道札幌市 午後19時
この日、夜がこんなにも明るいとは思わなかった。夜空は朱色に染まっている。札幌の摩天楼は炎に包まれていた。その炎が深夜の札幌市を照らしていた。
ビル群は見るも無残に破壊されその周辺を巨大な炎が舞っていた。
振動が伝わる、巨大な足音と共に、その振動が伝わるごとに民家の屋根に敷き詰められているレンガが地面に落ちていった。そして火の海の中を多くの民間人が群集となして逃げていた。奴から・・・。
サッポロテレビ塔を破壊し、周囲を蹂躙しながら迫り来るかのように巨大な足音と耳の鼓膜が千切れるような巨大な咆哮が群集を恐怖のどん底に叩き落とした。ビルが轟音と共に崩壊、その瓦礫が逃げる群集に容赦なく降り掛かる。瓦礫に押しつぶされ、身動きがとれなくなった者は助けを乞う。だがその声は轟音と群集の悲鳴、奴の足音でかき消される。
まさに阿鼻叫喚の様相を呈していた。その群衆の中に紛れるようにある少年はいた。歩道には逃げる群集が密集しており混乱状態だった。しかし握っていた母の手の温もりが唯一の安心だった。
車道に自衛隊の74式戦車やメーサー戦車、装甲車などが奴に向かってるが見えた。そして至近距離で砲撃音が何度も響き。メーサーの一条の青白い光線が奴に直撃してるのが見えた。
札幌は戦場と化した。だが奴が熱線を一薙ぎするだけで巨大な爆発で戦車は粉々に破壊され、爆風で吹き飛び、巨大な炎が部隊を包み込んだ。そしてその一瞬で戦車部隊は壊滅した。
突如、奴が吐いた青白く、目が眩むほどの一瞬の閃光が近くにあったビルに直撃すると、凄まじい爆発と共にそのビルがこちらに瓦礫と共に崩れ落ちていきた。
ドシャアア、という轟音と共に視界は一瞬で真っ暗になった。
意識が朦朧とする、鼻には焦げたような異臭が広がる。体全体が重く感じた。何か重い物に押しつぶされている感覚がする。少年は体を動かそうとするが身動きが取れなかった。
重い・・・重い・・・・
瞼を開くと目の前にあったのは大量の瓦礫だった。そこでようやく少年は今の状況を知った。
瓦礫の下敷きなっているいう事を、朦朧とした意識が段々と戻ってゆくと、突然、体全体に鋭い痛みが走る。
その痛みに耐えられず少年は瞳から水滴が漏れる。あれほど握っていた母親の手の感覚はもう感じない。
だがこの状況で下敷きになったのは不幸中の幸いで普通なら体は押しつぶされて当然だった。しかし、少年の中にあった安心感はもう感じられず徐々に少年の感情は死の恐怖に染まっていく。
怖い・・・苦しい・・・熱い・・・助けて・・・
助けを乞いたい、だが声が出ない、重いコンクリートが体全体に押しかかり肺が圧迫していた。そのため声が発せ無い、それどころか呼吸するのもやっとの状態だった。
瓦礫と瓦礫の狭間から微かに見える外の光景、波をなびかせるように火の海の覆われ、蹂躙された札幌の姿。その時、奴の足音が聞こえた。
ドン、ドン、と共にこちらに振動が伝わる。そして少年の見ていた光景に奴が見えた。
火の海の中、黒き巨体が映し出される、奴だ、奴の姿だ。
その黒き巨体、その背中には巨大な背鰭が何本と連なっていた。そして奴は上を向いて高らかに咆哮を上げた。
その姿を見ていた少年の感情から恐怖は無くなり、変わりに奴に対する憎悪と復讐心が芽生えた。奴は生態系の秩序そのものであり生態系の王者に君臨するもの。
その名は『ゴジラ』
目の前に景色が変わった。見慣れた寮の天井だ。仁は気だるさを感じながらベットから起き上がる。久しぶりにこの悪夢を見た。いやこれは悪夢では無く、消せない過去の記憶だ。
仁は少年時代、父は仁が生まれる前に病気で亡くなっており、母は一人で育ててくれた。優しい母だったことを仁は今も覚えている。生活は父の収入がない分、経済的に貧しかったがそれでも幸せだったし母が居てくれた分、寂しさも無かった。仁はいつか母に恩返しをしようと考えていた。
だが1992年、ゴジラが札幌市に襲来し、ビルの崩落に巻き込まれた。仁はその後救助されたが。母を亡くした。仁にとってあまりに大切な人を失ったのである。その後。仁は母方の親戚の家に預けられた。仁が航空自衛隊に入隊したのも、故郷である札幌を蹂躙され、大切な母を殺したゴジラに復讐するためだった。
だが今ではそれは叶わない。1997年、ゴジラはメルトダウンによって死んだからだ。仁はベットの横に置いていた医師から処方された鎮痛剤を飲み、作業服に着替えた。
「今年は順調に育っているな」
仁は巨大な面積の田んぼに植えられた米の稲を見ながら言った。北海道に設営された大規模農園施設は今の日本の食料庫でもあった。今まで日本は外国からの輸入に頼っていた。
だが、世界各地に怪獣の出現してから、日本に向かっていたコンテナ船が海中にいた怪獣の襲撃を受けて沈没する事件が相次いで発生。怪獣の出現と襲撃によって日本のシーレーンが断たれてからは輸入が止まってしまった。
さらに、食料自給率が低い日本に追い討ちを掛けるように怪獣が日本各地に上陸、町や都市が蹂躙されたのは勿論、収穫間近だった畑や農園なども放棄せざるおえず、農業にも深刻な被害が出ていた。
日本は食糧危機を迎えてしまった。
それに対応すべく政府は多額の予算を使って、北海道を中心にした超大型のドーム型大規模農園施設を幾つか建設、日本の食糧自給率を保っていた。
ほかの農園と違うところは、この巨大施設には各区画ごとに穀物、米、野菜などが育てられ、天候や怪獣の襲来に備え全てドームの室内で管理されている。温度、湿度なども各エリアごとに作物にあった環境に調整されている。仁のいる農園施設はそのうちの一つだった。
一方仁はというと、作戦後の命令無視の件で懲戒免職を受けていた。勿論、XⅢのパイロットとしての権利も剥奪され、自衛隊としての職を失った。だが懲戒免職を受けてもすぐに違う職を手に入れることが出来た。
農夫である。ドーム型農園施設を幾つか建設しても、それを補う労働者がどこも不足していたから容易く農夫という職に就けた。いまや大半の若者の職がドーム型農園施設の農夫になるか自衛隊などの公務員になるかの二択である。
一昔前であれば大学を卒業し、IT企業や銀行、サラリーマンなどの職に就けたが、今の時代にはそんなものなど何の役にも立たない。
怪獣が襲来してから常識は大きく変わった。
日本各地が怪獣に蹂躙され、都市や町などは荒廃していた。そして資源を失い、土地を失い。そして、日本人口の2分の1を失う犠牲者を出していた。人類の生存圏は刻々と縮まっていた。
日本は九州、四国、中国、近畿、中部地方の領土を度重なる怪獣による襲撃で失い、いまや怪獣の巣窟と化している。ドーム型大農園施設で収穫された作物などは生存圏である東北から関東の各地域の配給所に分配される仕組みだ。しかし収穫量によっては配給所に完全に行き渡らない地域もあり、格差も発生している。
さらに怪獣の襲来によって発電所などが破壊され電気や水道などのインフラが断たれ、復旧の目処は未だに立ってない地域も数多くある。
配給所の限られた食料、生活用品を求めて強奪や窃盗する者も現れ、地域によっては無法地帯と化しているのが現状である。
施設内にある配給所には、作業を終えた数多くの従業員や農夫などの労働者によって長い行列が出来ていた。
仁もその長蛇の列に並ぶ。周りを見渡すと列の両面に小銃を構えた自衛官がロボットのような無表情のまま、こちらを監視していた。配給を巡って労働者などが暴動などを起こさないようにするためだ。
だがそれはまるで、囚人を監視する看守のようだった。治安維持のためであってもあまり心地のいいものではない。
行列の中から労働者たちの愚痴が聞こえた。
「良いよなぁ、自衛隊に入れば一日三食は必ず食えるし・・・俺たちなんてこんな僅かな配給で一日二食も足らない食事でまた一ヶ月耐えねぇとだから」
「たしかにな、俺たちが働いて必死に家族養ってんのに、監視ってか、ふざけやがって。自衛隊は楽で良いよな。自衛隊がもっとしっかりしていりゃ俺たちも飢えることなんてなかったのによ」
「役立たずがよ」
元自衛隊員の仁からすると、この労働者の愚痴に苛立ちを感じていた。
自衛隊が役立たずだと?ふざけるなッ!!
自衛隊は日本に上陸した怪獣の前線で戦い、何度も防衛に成功しているが、その分、多くの隊員が戦死した。
その中には、怪獣に喰われたり、爆発に巻き込まれたりなどで隊員の死体すら上がらない、もし死体があったとしても損壊が激しく残酷な死に方をしているのも多々ある。
怪獣と前線で戦い生き残った者の中には怪獣との戦いで大きなトラウマを抱え、中にはPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患った隊員も少なくない。
そんな過酷な状況の中、自衛隊は怪獣と戦い続けなければならない。そしていつも責められるのは最前線で戦っている自衛隊だ。
「悪く思わないでやってくれ」
仁の後ろから一人の老人が話しかけてきた。
「村上さん・・・」
村上浩二、彼はこの大農園施設の仁の先輩である。
元はドーム型大農園施設の建設前から新潟県で米農家を営んでいた農夫だったらしい。
しかし、後に【バラゴン】と呼称された怪獣が新潟に上陸し、避難の為に自分の米農家を放棄せざる追えなかった。
その後は北海道の大農園施設で再び米農家の農夫として働いている。そして仁が訳ありの元自衛隊員ということも理解している。年は60代を越えているがそれよりも若々しく見える。
「彼らも生きるので必死で余裕が無いんだ。みんな土地を失って、家族を失って、我慢の限界なんだろうな、そのやりようの無い怒りを誰かにぶつけないと気がすまないんだろう。それに彼らも怪獣を恐れてんだ。恐れて何も出来ない。怪獣は地震や台風と同じ災害だと思ってるからだ。だから怒りの矛先を自衛隊に向けているだけだよ。気にする事は無い」
村上はなだめるように仁に話した。
「大丈夫ですよ、俺はもう自衛隊員じゃないので」
仁は苦笑いを浮かべながら言った。
「私も君ぐらいの年をした息子がいるよ、一人息子だ。君と話してると息子を思い出すよ」
「息子さんは?」
その質問に村上は表情を暗くした。察した仁はどうやら聞いてはいけなかったと後悔する。
「行方不明だよ。アキラも君と同じ自衛隊だったからな、あの中部地方奪還作戦に参加していたんだ・・・」
村上がいった『アキラ』は息子の名前だろう。
一年前に行われた【中部地方奪還作戦】。有名な作戦だ、怪獣によって奪われた中部地方を奪還する為に在日米軍と自衛隊共同で行われた作戦である。しかし結果は大敗北であった。
後に【アンギラス】と呼称された怪獣の出現により米軍、自衛隊、合わせて半分のも戦力が一夜にして失ったのである。大型怪獣相手に太刀打ちすら出来ず、一方的な蹂躙であり、敗北であったという。
そのため臨時政府は奪還を断念、日本の残された生存圏である関東、東北、北海道に防衛圏が設置された。
中部地方に繋がる県境に自衛隊による防衛線が張られた。これ以上の怪獣の進攻を食い止める為にだ。だがそれは同時に九州から中部地方を捨てたという事でもある。政府からしたら苦渋の決断だっただろう。
「息子は「必ず故郷を取り返す!そこでまた米を作ろう」とか言っていたな、その約束は果たせそうに無いが。すまないな、話が長くなってしまった老人の悪い癖だ」
「いやこちらこそ、失礼なことを聞いてすいません」
すると村上は笑顔で優しい表情になる。
「いいんだよ、聞いてくれただけありがたいよ」
エレベータが下がる。乗っているのはスーツ姿の二人の若い男だ。二人とも学者である。
一人は生物学兼怪獣生態学者の権威、佐藤春樹。彼は未知とも言える怪獣の生態の研究を主に行い、自衛隊の防衛出動時に何度も同行している。特にその怪獣の生態や弱点などの助言を行い、作戦成功に貢献している学者でもある。
自衛隊の防衛出動時に同行した中で有名な話がある。『チタノザウルス』と呼称された水棲怪獣の上陸阻止作戦だ。かつて岩手県大船渡湾に出現した体長50㍍以上の水陸両棲の怪獣「チタノザウルス」は大船渡市に上陸しようといていた。
当時の岩手駐屯地にはメーサー部隊などの特殊武器科は無く、大船渡市に配置された僅かな戦力では上陸を阻止する事は不可能と言えた。しかし同行していた佐藤はチタノザウルスの生態や過去のデータを元に分析。そしてある弱点を発見した。
過去に米軍のロサンゼルス級原子力潜水艦「キーウェスト」が太平洋上を航行中、チタノザウルスと遭遇。その際に戦闘となり索敵の為に「ピンガー」を発したところ、チタノザウルスは潜水艦から退散したという。
そのデータを元に佐藤は分析した結果、弱点は『超音波』であることが仮説付けられた。その後、自衛隊主導で作戦は練られ、市内に設置された防災スピーカーを使用することが決定。
チタノザウルスが大船渡湾に姿を現したときに市内各所に設置された防災スピーカーと即席で海岸沿いに配置した大型のスピーカーから『ピンガー』と類似した約20,000ヘルツの超音波を流した。その効果は絶大であり、チタノザウルスは上陸すら出来ない状態となったのだ。
そこに加えて後方に配置していた第9高射特科大隊の155ミリ榴弾砲(FH70)が大船渡湾にいたチタノザウルスに向け砲撃を開始、それにより目標の足止めに成功した。その後スクランブル発進したスーパーXⅢとF-2戦闘機による攻撃によってチタノザウルスの撃退に成功した。
僅かな戦力で怪獣の撃退を成功させた事例は、チタノザウルス上陸阻止作戦を除いてほかに無く、佐藤の助言なくして成功は無かっただろう。
二人目は日本ロボット工学技術者の権威である風間四郎。この二人は日本随一の学者でもあり、頭脳ともいえる。ロボット工学、怪獣生態学という分野において彼らの右に出るものはいない。
エレベーターは地下に続いてた。今にも壊れそうな低い稼動音が響き、エレベーターの室内を薄く光る不気味な蛍光灯が照らす。
「もう何年も整備されてないのか?」
佐藤の問いに風間が答えた。
「そりゃ90年代の施設だからな、電気が供給されているだけマシだ」
それを聞いた佐藤は顔をしかめた。佐藤と風間は分野は違えど同じ大学の同期であった。その為会話もため口である。
ガタンッ、という低い音が鳴った。どうやらエレベーターが止まったらしい。目の前の扉が開いた瞬間、機械の稼動音と作業員の喧騒が響いた。
二人はエレベータから出る、そこは巨大な施設だった。至る所にクレーンや幾つもの巨大な溶接機、大型のメンテナンス装置などが設備されている。そこに多くの整備士が作業していた。ドライバーの音が響き、溶接作業などで至る所から火花を散らしていた。
施設の整備している者の中には整備士意外にも多くの迷彩柄の戦闘服を着た自衛隊員の姿もある。他の整備士と同じく、この施設の整備を急ピッチで行っている。
中央に巨大な空間があり、大型の固定装置も設備されている。そこはまるで巨大な何かを格納していたメインドックのようだった。すると一人の若い男の自衛隊員がハキハキとした声で二人に話しかけて来た。
「お待ちしておりました!!風間一佐!」
「タカシ一尉じゃないか、久しぶりだな!」
渡辺高志は風間の前で姿勢を正すと敬礼した。風間は久しぶりの再開に笑みを浮かべながら、同じく姿勢を正し敬礼を返した。風間は自衛隊所属であり階級は一等陸佐、高志の一尉よりも三階級も上である。同時に、この施設の管理者であり現段階での司令官でもある。
「あなたが佐藤博士ですね?」
そう聞かれて佐藤は「はい」という返事を返して頭を軽く下げた。
「自分は、陸上自衛隊所属、渡辺高志と申します!階級は一尉であります」
いかにも若手自衛隊員という風貌を感じさせ、ハキハキとした声で自分の自己紹介をしていた。
「大船渡湾での話は聞いています!博士の助言なくして成功はなかったと」
「それほどじゃないですよ、あれは過去のデータから算出した仮説に過ぎないですから、でもお役に立ててよかったですよ」
佐藤は照れくさそうに笑みを浮かべ、頭を軽く搔きながら言った。
風間と佐藤はそのまま高志に施設の案内をしてもらうと同時に、ある所へ向かっていた。広い施設の中、さらに地下に続く通路に通される。
「整備の状況はどうだ?」
「どうにか進んでおります。電力は近くの発電所の供給でどうにか補えていますし。施設全体ではありませんが稼動は出来る状況です。しかしここのシステムは殆ど使い物にならなくなってしまって、今は急ピッチでシステムの復旧作業を行っている状況です」
「復旧に何日掛かる?」
「約一ヶ月は要するかと・・・なにせ90年代の代物ですし。怪獣同時多発時には、ほぼ放置された状態でしたから」
「90年代って、ここはなんの施設なんだ?」
気になって佐藤は聞いた、風間は驚いた表情になりながら言った。
「なんだお前知らないのか?ここは92年に建造されたメカゴジラのメインドックだぞ?」
風間は冷静な口調で言った。
「嘘だろここが!?あのメカゴジラの!?」
冷静な風間とは裏腹に佐藤はその事実を知って驚愕しながら言った。
「すいません、説明してませんでしたね。ここはかつて『Gフォース』という組織が1992年に対ゴジラ兵器として開発されたメカゴジラのメインドックだった場所なんです。でも『Gフォース』が解体されてからは10年以上放置された状態で、この有様でして」
「なるほど・・・」
今まで知らずに来ていた自分が恥ずかしく感じた。
「着きましたよ」
そうこうしてるうちに目的の場所に着いた。目の前には重層な両開き式の扉があった。扉には放射能標識が表示されている。風間は扉の横に設置されたモニターに暗証番号を入力し、続いて親指をセンサーに入れ指紋認証を行うと、ガチャッ、という音が扉から鳴った。
扉のロックが解除されたらしい。重層な扉は自動で開かれた。中に入ると白い防護服が干された状態で幾つも並んでいた。その奥にはまた扉がある。
「念のため防護服を着用して下さい、微量ではありますが放射性物質を使用していますので」
高志の言う通りに風間と佐藤は防護服に着替える。やはり防護服とあってブカブカしており顔面を覆うマスクなどで視界が狭く感じた。防護服を着用した後、再び風間が暗証番号を入力すると奥の扉も自動に開いた。開いた瞬間、再び整備士の喧騒と作業音が響き、整備士も全員防護服を着用していた。
ここは何かを建造する工場のようだった。そして溶接機が左右に設置されている中央で何かを建造していた。佐藤はフェンス越しからそれを見た。そしてこれが何なのか一目で分かった。
溶接機と多くの整備士に囲まれ建造されていたのは、銀色に輝く装甲、四本の指に鋭い爪、機械で出来た巨大な怪獣の腕だった。腕部には武装としてレールガンが装備されており、なんとも無骨な見た目をしている。
「もうここまで完成したんだな」
佐藤は喜びを感じながら言った。
「明日には完全に完成させて、チヌーク計二機で輸送予定です」
工場を後にした高志、風間、佐藤等三人は防護服から再びスーツ姿に戻り、一本の長い廊下を歩いていた。風間は片手にもった書類に目を通しながら歩いている。
「もう操縦士は決まったのか?」
佐藤が聞いた。
「まだ正式には決まってないが空自の元戦闘機パイロットから一人選抜しようと思っている。あれを操縦するにはかなりのGが掛かるからな、だが一人だけ有力な元パイロットがいる」
「誰なんだ?」
「彼は一年ほどの前に懲戒免職処分を受けて今は北海道の農夫として働いているらしい、彼のことは飯沼さんに任せてるよ」
彼とは一体どんな人物なのか?懲戒免職?そんな問題を起こした奴がパイロットで良いのだろうか?佐藤は疑問に思っていた。
○
仁は寮のベットで仰向けになっていた。もう深夜の薄暗い天井をただぼんやりと眺めて。仁は眠りにつくことが出来なかった。またあのときの光景が夢として出てくるからだ。夢の中だけでは静かにしていたかった。そんな時、コンコンッ、と部屋の扉が二回ノックされた。こんな夜更けに誰だろう?
仁は不審に思いながら扉を開けた。そこにいたのは迷彩柄の戦闘服を着た、大柄な中年男の一人の自衛隊員だった。その自衛隊員は無表情のまま話し始めた。
「おやすみの所申し訳ありません。カクヤマ ヒトシさんでありますか?」
「そうだが・・・」
仁はやや警戒しながら言った。すると自衛隊員は低い声でこういった。
「ご同行願えますか?」と・・・。
続く
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