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第56話:猛吹雪で限界集落が孤立する〜
数十年に一度の白魔と、忍び寄るデッドライン〜
一月下旬。北海道の冬が、ついに「本気」を超えて明確な「殺意」を剥き出しにしてきた。
『――現在、十勝地方全域に暴風雪特別警報が発令されています。数十年に一度の猛烈な吹雪となっており、不要不急の外出は絶対に控えてください』
居間のテレビから流れるアナウンサーの声すら、窓を叩きつける轟音にかき消されそうになっていた。
ビューゥゥゥォォォォォッ!!
まるで巨大な獣が咆哮しているかのような、地鳴りを伴う猛烈な風の音。
古民家の太い柱がミシミシと悲鳴を上げ、窓ガラスは割れんばかりにガタガタと震えている。
外の景色は、完全な『ホワイトアウト』。
天地の境目すらわからない真っ白な闇の中で、数メートル先の庭の木すら視認できない。先日のシロの「モーゼの十戒(除雪)」で開通したはずの道も、わずか数時間で完全に雪に埋もれ、跡形もなく消え去っていた。
「お、お兄さん……家が揺れてます……! 屋根、飛んでいきませんか!?」
昨日から大雪警報が出ていたため、念のため俺の家に避難させていた小春ちゃんが、こたつの中でガタガタと震えながら俺の袖を掴んだ。
「大丈夫だ。この古民家は築数十年、過去の猛吹雪を何度も耐え抜いてきた頑丈な作りだ。そう簡単には倒壊しない」
俺は温かいほうじ茶を啜りながら、極めて冷静に答えた。
物理的な道は完全に閉ざされ、玄関のドアを開けることすら不可能な状態。俺たちの住む限界集落は、今や広大な雪原の中に取り残された『完全なる陸の孤島』と化していた。
だが、俺の心には1ミリの焦りもなかった。
「むしろ、ブラック企業時代に比べたら天国みたいなもんだ。あの頃は、台風直撃で電車が止まっても『タクシー乗ってでも来い』って言われて、ずぶ濡れでエクセル叩いてたからな。それに比べれば、暖かい部屋でゴロゴロできる猛吹雪なんて、ただのボーナスステージだ」
「お兄さんのその異常なメンタル、たまに本当に怖くなります……」
小春ちゃんがドン引きしたような顔をするが、俺が余裕ぶっているのには、確固たる理由があった。
俺たちの足元――こたつの中央では、純白の神獣シロが『適温25度の絶対防壁』を全開にしながら、スライムのように液状化して眠っている。
その両脇には、キタキツネのコン吉とコン次郎が、シロの腹を枕にして白目を剥きながら爆睡中だ。
どんなに外がマイナス二十度の地獄であろうと、この家の中だけは、シロの神聖力によって常夏のパラダイスが保たれているのである。
「それに、備蓄(兵站)は完璧だ」
俺は、部屋の隅に積み上げられたダンボールの山に視線を向けた。
「元・陸上自衛隊需品科のスキルを総動員して組み上げた、完璧な在庫管理システム。水、食料、カセットコンロ、簡易トイレ。仮にこの吹雪が三ヶ月続いたとしても、俺たちはこの部屋から一歩も出ずに生き延びることができる」
俺が親指を立ててみせると、小春ちゃんは「確かに、あの時の搬入作業はバグってましたけど……」と少しだけ安堵の表情を見せた。
「よし、とりあえずリスナーの奴らが心配してるだろうから、生存報告の配信だけしておくか」
俺はスマートフォンをジンバルにセットし、【日常チャンネル】の配信開始ボタンをタップした。
深夜の緊急配信にも関わらず、通知が飛んだ瞬間に数十万人のリスナーが雪崩れ込んできた。
『おおおおお! 主生きてた!!』
『ニュース見て飛んできたぞ! 十勝ヤバいことになってるじゃん!』
ゆうき あきや
3,596
259
#心理描写重視
『完全に集落が孤立してるってテレビでやってたぞ!!』
『大丈夫か!? 凍えてないか!?』
『救助要請するか!? ヘリ呼ぶか!?』
チャット欄は、俺たちの身を案じるコメントで滝のように流れていく。
俺はカメラに向かって、いつも通りのフラットボイスで語りかけた。
「世界中の皆さま、ご心配をおかけしています。ですが、ご覧の通りです」
俺がカメラをこたつの中に向け、液状化して腹を出して寝ている三匹のもふもふたちを映し出す。
『wwwwwwwww』
『平常運転すぎるwwww』
『外は世紀末なのに、中は完全にダメ人間の巣窟ww』
『シロ様、吹雪の音すら子守唄にしてる』
『コン吉とコン次郎、完全に野生を忘れてるだろww』
「俺は元・後方支援部隊上がりです。備蓄は三ヶ月分あり、シロ様のオーラで暖房費もかかりません。むしろ、明日会社に行かなくていいという事実だけで、俺の幸福度は今、最高潮に達しています」
『適応力バグおじさん、大自然の猛威すら論破』
『社畜の闇が深すぎる』
『吹雪をボーナスステージと呼ぶ男』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Master is invincible! The ultimate survival in the kotatsu!“(主は無敵だ! こたつの中の究極のサバイバル!)』
世界中のリスナーたちが、俺たちのあまりの危機感の無さに大爆笑し、安堵のMeTubeギフトを投げ始めた。
だが。
自然の猛威というのは、そう簡単に人間を休ませてはくれないらしい。
バチッ……!
「……え?」
突如、部屋の蛍光灯が明滅し、テレビの画面がプツンとブラックアウトした。
同時に、こたつのヒーターの赤いランプも消える。
「きゃっ!? お、お兄さん! 停電です!!」
猛吹雪による倒木か、送電線の断線か。集落全体を巻き込む、完全なブラックアウト。
本来なら、真冬の北海道での停電は「死」に直結する絶望的な事態だ。
『うわっ、画面が暗くなった!』
『おいおい、停電か!? 笑い事じゃなくなってきたぞ!』
『北海道の冬で暖房止まったら死ぬぞ!!』
チャット欄が一気にパニックに陥る。
だが、俺たちの部屋が完全な暗闇に包まれることはなかった。
『……ミャウ』
こたつの中から這い出してきたシロが、その純白の毛並みから、まるで大型のランタンのように『真珠色の光』を放ち始めたのだ。
「おお……シロ、お前自家発電(発光)までできるのか」
俺が感心して呟くと、シロは得意げに胸を張り、周囲の空気をさらに一段階ポカポカと暖め始めた。
「すごい……停電してるのに、全然寒くないし、シロちゃんのおかげで明るいです!」
小春ちゃんが、発光する神獣の姿に手を合わせて拝んでいる。
『シロ様、ついに非常用電源になる』
『歩く蓄電池www』
『一家に一台シロ様が必要すぎる』
『物理法則どうなってんだよww』
「皆さま、ご安心ください。我が家には最高性能のバイオ・ジェネレーター(神獣)が完備されています。それに、業務用のYAMAHA製ルーターは無停電電源装置(UPS)に繋いであるので、通信兵站も完璧です。停電程度では、俺たちのスローライフは揺るぎま……」
俺がドヤ顔で言いかけた、まさにその瞬間だった。
部屋の隅に置かれていた、光回線の『Wi-Fiルーター』のインターネット接続ランプが。
緑色から、不吉な『赤色』へと点滅を始めたのだ。
「……え? ルーターの電源は生きてるのに、回線エラー……?」
それが意味する現実は一つしかない。猛吹雪か倒木によって、屋外の『光ケーブル』そのものが物理的に切断されたのだ。
「……お兄さん、配信の画面が……クルクル回って、止まってます……!」
小春ちゃんの悲痛な叫び声。
慌てて手元のスマホを見ると、5Gの電波マークまでもが不吉な『圏外(×)』へと変わっていた。雪による基地局のダウンか。
「嘘だろ……」
俺の背筋に、マイナス二十度の吹雪よりも冷たい氷柱が突き刺さった。
インフルエンサーにとって、そして何より、この退屈な限界集落で世界中のバカども(リスナー)と繋がっている俺にとって。
『インターネット回線の切断』は、食料が尽きるよりも恐ろしい、真の「死」を意味する。
猛吹雪は、俺たちから物理的な道だけでなく、世界と繋がる『唯一のデジタルな生命線』をも切断しようとしていた。
限界集落に、本当の孤立の恐怖が忍び寄る。
「……ふざけんなよ。俺から、配信の楽しみまで奪うってのか……?」
シロの淡い光の中、俺は赤く点滅するWi-Fiルーターを睨みつけ、ギリッと歯を食いしばった。
コメント
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もう「適応力バグおじさん」すぎて笑ったw 吹雪で孤立→ボーナスステージ扱い→停電もシロ様で攻略→最後の最後でネット切断というオチが最高に面白い。食料より先に「配信ができない」が死ぬほどヤバいって感覚、完全に現代の社畜インフルエンサーで笑える。シロの歩く蓄電池っぷりもかわいすぎるし、この絶妙な緊張と緩和のバランスが好きすぎる🔥