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その後はアレイシアとの会話はないものの、少し前を先行して歩いた。
ただ、何かエスコートをしようと思った。手を繋ごうかと考えたがやめた。
積極的になりすぎるのは良くないと思った。
嫌われたくないと思ってしまい、最後の最後で一歩が踏み出せない。
『ここまできたら手を繋げばいいのに。ヘタレ』
ウェル、聞こえているからね。
分かってるよ。でも、口に出さないでよ。
そう思うも、歩く速度だけはアレイシアに合わせた。
途中チラチラと視線を感じて、目を合わせようとすると逸らされる。
歩いていても僕とアレイシアの距離は近すぎず遠すぎずのぎこちない距離感のまま時間が過ぎた。
だが、その時間も長くは続かなかった。
隣を歩くアレイシアが突然、立ち止まったからだ。
気になって、隣を見るとアリシアの視線の先には露店があった。
小さなテーブルの上を黒いテーブルクロスが敷いてあり、その上には指輪やネックレス、腕輪などの数多くのアクセサリーが並んでいた。
種類はあるものの、作りは丁寧だが高価なものというわけではない。
おそらく平民の女性がおしゃれでつけるようなもの。けっして貴族が身につけるようなものではない。
僕は気になり様子を窺っていると、アリシアの視線の先にある1つの指輪が目に入る。
その指輪は僕が最近読んだロマンス小説に出てきた白金のねじれのある指輪によく似ていた。
「どうなさいましたか?」
気になり問いかけると、アレイシアは少し間をあけて返答した。
「いいえ、なんでもございません」
アレイシアはそう答えるとそのまま歩いて先に行ってしまった。僕はその場で呼び止めようとした瞬間ふと、二つの考えが過ぎる。
まずは母上の言葉。
ーー女性と買い物をするときは常に全神経を注ぎ込みなさい。視線の向き、動きをね。
その言葉を思い出したのだった。
でも、これが欲しいとは限らない。なんとなく気になっただけかもしれない。
二つ目は僕が下心があったこと。
僕はアレイシアとリタの会話を聞いたから白黒の王子様のことを知った。
……ここでその話題を振ったらどう思われる?
前回のお茶会でも空回りをしてしまった。
「ウェル、その指輪買っといてもらえる?」
「チキりましたね」
「……」
「ヘタレチキンさん?」
「変なあだ名つけないでよ」
……色々考えた結果、僕は何も行動しないまま。
ウェルに指輪を買うように頼んでアレイシアを追いかけた。
いや、本当のことだけど言わないでよ。
なんだよヘタレチキンって、一つにまとめるなよ。
僕は内心そう思いつつ、再びアレイシアの隣に並んだ。
気まずい雰囲気なので、これ以上話すことができず、今日のデートは終了した。
帰りの馬車でも会話はなく、ほんとに何やってんだかと思いつつ反省したのだった。
気がつけば、ソブール公爵邸に到着した。
ソブール公爵邸に到着すると、リタが待機をしていた。
馬車が静止するとアレイシアを馬車から下ろすと挨拶をして別れたのだった。
話した内容といっても、次のお茶会はユベール伯爵邸でお茶会をするので招待状を送りますと伝えた。
……今日も失敗で終わったもしれない。
進展させるために何か会話の話題にならないかと思って読んだ小説、でもチャンスがあったのに最後の最後で踏み込めなかった。
ウェルからヘタレ、チキンと言われても仕方がない。
ん?また何か話しているのか?
いや、なんとなく期待はしていた。
『嬉しそうですね。どうかしました?』
『えと……胸がズキズキしました』
『……なるほど……えーと。アレン様とどんな話をされたんですか?』
『……わたくしを大切な人と……わたくしを想ってくれていると言ってくださったり。その……ふ…夫婦が確約してると……』
『ああ、わかりました。嬉しかったんですね。さ、屋敷に入って何か飲みましょうか』
『へ?……リタ何か様子が変よ?わかったわ。……あ、わたくしココア飲みたい。リタもどう?』
『私はコーヒー飲みます』
『あれ?コーヒーって苦手よね?』
『たった今胸焼けしたんで。さぁ、行きますよ』
『ちょっとリタ?……待って、どうしたのよ!」
えぇ……つまり、僕の行動はよかったってことか?
つまり……黙々とパンケーキ食べたのは一種の照れ隠しだったと。
いや……わかんねぇよ。
めんどくせぇ。でも、かわいい。
これがもしかして伝説のツンデレというやつか。
でも、僕の前だとデレが一切ないからツン〔デレ〕と表現すべきか?
ああ、僕は何を考えているんだ。
とりあえず、今回の件は大丈夫だったのは確かなわけで。
……次は必ず振り絞る。
今の僕に足りないのは一縷の勇気だ。