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「八門獅子さま。貴方は大雨のなかで行き倒れていました。見つけたのは朝のお散歩の時です。いくら声をかけても目を覚まされないので、やむおえず境内の離れにお運びいたしました。…ここまではよろしいですか?」
「は…はい。あの…名前は『シシ』ではなく『レオ』と読みます。俗に言うキラキラネームなんです。それと…大変お見苦しい物を。すみません…」
俺が運ばれた部屋は純和風な造りだった。しかし白い漆喰塗りな壁には窓がない。そして低く木目調な天井にも照明器具らしい物は一切なく、時代劇で見るような四角く背の高い行灯が、ひとつだけポツンと立っていた。
広げられている白い布団の上で正座する俺は、長い黒髪の美女が頭痛薬と一緒に持ってきてくれた濃紺色な一重衣を着ている。浴衣のようで浴衣ではないが…動きやすく肌触りが良い。股間が涼しいのは致し方もないが。
「二日酔いの状態でも…巨大…化するのですね。驚きはしましたが気にしていません。八門さま?頭痛が和らいだなら湯浴みをお願いいたします。その後に軽いお食事でも用意いたしましょう。これも何かの御縁ですし」
「え?。あ。…はい。お風呂ですね?。…何から何まで申し訳ないです。厚かましいですけど、今はお言葉に甘えさせてもらいます。…あ。あの。厚かましいついでに…貴女のお名前を教えては貰えないでしょうか?」
「あ…失礼しました。まだ名乗っていませんでしたね。コホン。わたくしは黒羽鈴《くろばリン》と申します。そして貴方様と同じ11月11日生まれなのです。八門さまの運転免許を見た瞬間…トリハダが立ちました」
「え?。(俺と同じ月日に彼女は産まれたのか?。…なんだか…ごめんなさい。同じ誕生日のオレが社畜で、しかも…ダメな方のサラリーマンで…)」
未だに頬を染めている黒髪の美少女にそう告げられた俺は、なぜだか言葉に詰まってしまった。生い立ちに闇をかかえる俺は、無意識に他人と比較してしまうからだ。無くて七癖は悪いクセだと言うがまったく治らない。
正に容姿端麗、才色兼備。両親からとても大切に育てられたであろう黒羽鈴とゆう美少女と。ヤルことヤッて孕んでしまった糞女に、生ゴミとして捨てられた俺が、同じ月日に産まれていただなんて神の悪意さえ感じる。
幼かった頃は、恵まれている同級生とそうでない自分を比較して、納得できない格差や差別に唇を噛む事もあった。だが、他人への僻みや妬みや拗みは人間ならば誰にでもある負の感情だと思う。決して悪ではない筈だ。それでも大人達はこう言った。『他人を羨むなんてクズのする事だ』と。
「……ふぅ。(しかし、とんでもなく美人だよなぁ黒羽さん。ああゆう大きな眼を『猫目がち』って言うのかな?。長い黒髪もすごく艶々で肌の白さが際立ってたし、何気ない言葉や所作で育ちの良さも凄く分かったなぁ。そもそも俺なんかとは生きる世界が違う…雲の上の住人なんだよ彼女は)」
黒羽鈴に案内された風呂場の湯船で手足を伸ばす俺は、太い白木の角材で組まれた、うず高い天井を仰ぎ見ながら考えていた。助けてもらった恩は返すとしても、あまり深くは関りたくない。いいや、関わらない方が彼女のために良いだろう。言うなれば俺は『下賤の輩』そのものなのだから。
「………しっかし。(まるで超が付く高級旅館の大浴場みたいだ。むかしテレビで見ただけだけど。う〜ん。俺の借りている部屋がワンルームの十畳だよな。しかしこの浴室は家賃十万円のあの部屋よりも遥かに広い…)」
床には黒い正方形な石板を敷き詰めているが、壁や湯船や天井さえも、良い香りのする白木でできていた。そして、一度に十人は入れるであろう湯船が、なぜか八角形になっている。何かしら意味があるのかも知れない。
「……お邪魔いたします…。ヤツカドさま?湯の加減はどうでしょうか?」
「え?。あ!はいっ?。(誰だ?。…黒羽さんの声じゃなかった様な?)」
その声と共に一人の女が浴場に入ってくる。湯煙の向こうから、磨りガラスな格子戸を背にする人影が近寄ってきた。湯衣だろうか?。白い一重衣を纏ってはいても、その魅惑するボディーラインを俺は凝視してしまう。
「えっ!?ええっ!?えええっ!?。だっ!?誰ですかアンタはっ!?。(何なんだこの女はっ?すごくグラマーだし!。…やばい、勃ちそう…)」
「…わたしは黒羽さまにお仕えする『かのえ』と申します。嬢さまより八門さまのお世話の一切を仰せつかりました。よろしくお願い致します。」
慌てまくる俺のスグ目の前で、何事もないように掛け湯をした彼女は、何食わない顔で湯船に入ると、さも当然のように俺の横に並んで腰掛ける。凛とした眉に切れ長な眼。鼻筋の通った顔立ちに大人な女性を感じた。
「お、俺のお世話を。です…か?。(こんな美人が?俺のお世話って。あの黒羽リンは何を考えてるんだ?。もしかして…新手の宗教勧誘か?)」
「はい。男性のお世話など初の事ですので、何かと至らない所があるやも知れませんが何なりと申し付けください。…湯が…熱くはありませんか?」
何よりも濡れた湯衣越しに見てしまった無駄のない曲線美と豊満な胸元。掛け湯のときの彼女の姿勢と、その仕草が堪らなく色っぽかった。これは正に『真の童貞殺し』と言っていい。しかも二人はほぼ裸。まさかとは思うが、これが俗に言うトコロの『据え膳♡』とゆうヤツなのだろうか?。
「ゴクリ。…な、なんなりと申しつけって。(まさか…あんな事もお願いしたらできちゃうのかな?。…待てレオ!お前は鬼畜になる気なのか!?)」
「はい。なんなりと。です。…先ほど嬢さまが顔を真っ赤にされて戻って来られました。なんでも『もの凄いモノを見た』そうです。そして…女として自信が持てなくなったと仰り、わたしに託されたのです。うふふ♡」
わざわざ俺の前に回り込んで、意味深に笑う紅い髪の美女。見たところ俺よりも少し歳上なのだろうが、睫毛の長い眼と薄めな唇に経験のない大人の色気を感じる。透けた湯衣の下では、形の良いおっぱいが覗いていた。
「い!いや!。…あ、あれは…事故ですから。(そんなにショックだったんだ。…もしかしたら黒羽さん…もう会ってくれないかも。…とほほほ…)」
「うふふふ♪。でも若い男性には付き物なのでしょう?。…そんなに元気に満ち溢れているのならば…わたしがお相手してもよろしいのですよ?」
オレが目のやり場に困っている最中、突然に発せられた美女の爆弾的な発言。こんなナイスバディーで妖艶な美人に童貞を捧げられるなんて二度とないチャンスかも知れない!。しかし俺は戸惑う。理解が追いつかない。
「……へ?いいんですか?。(なんだ?。この人…何を言っているんだ?。もしかして痴女!?。オレが童貞だってことを知っているのか!?。そうだよ!変態じゃないと初対面の男となんて。でもそんな人には見えな…)」
「お食事の前に、少し身体を動かしましょうか。きっとスッキリなさいますよ?。しかしこの浴場は黒羽さまの禊場であり、湧き出す湯も神泉《しんせん》とされています。ですので場を変えましょう。さぁ…こちらに。」
二日酔いも忘れている俺は、色気漂うかのえとゆう美女のお誘いに乗っかる事にした。いつかは経験したかった大人の階段だ。その初めての相手がこんな大人の女性だなんて、俺は一生分の運を使い切るのかも知れない。
それでも二度とない巡り合わせだろう。黒羽リンとゆう美少女も捨て難かったが今は目前の美女だ。彼女に手を引かれて湯船を出た俺は、かのえの細く白いうなじに見惚れながら、湯けむりの漂う風呂場をあとにした。