テラーノベル
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薄暗い部屋に、幼い少女の震える声が響く。
「お母さん、お医者さん呼んだから……もう大丈夫。」
小さな手は、布団の上に横たわる母の手をぎゅっと握りしめていた。その手は驚くほど冷たく、どれだけ力を込めても温もりは戻ってこない。
「……お願い……死なないで……」
少女の頬を涙が伝い、ぽたり、ぽたりと布団を濡らしていく。
母は苦しそうに息をしながら、それでも娘を安心させるように微笑んだ。
「大丈夫よ……泣くのはおよし。」
震える指先が、そっと少女の頭を撫でる。
「お母さんは……いつでもあなたの味方よ、イリア。」
その優しい声は今にも消えてしまいそうで。
「……お母さん……?」
返事はない。
「お母さん……!」
少女は必死に揺さぶる。
「お母さん……! お母さん……!!」
その叫びだけが、静まり返った部屋へ虚しく響いていた。
◇
イリア「……っ!」
勢いよく身体を起こした。
荒くなった呼吸を整えながら、自分の胸へ手を当てる。心臓は嫌になるほど速く鼓動を打っていた。
イリア「……はぁ……夢……?」
額にはうっすらと汗が滲んでいる。
何度も見てきた夢。
忘れたいのに忘れられない、母との最後の日。
静まり返った部屋の中で、イリアはゆっくりと深呼吸をした。
すると。
コンコン、と控えめなノックが部屋に響く。
「……い、イリア……起きてる……? あの……起こしに来た……」
聞き慣れた、おずおずとした声。
イリアは我に返る。
イリア「……ナ、ナターシャさん?」
慌てて目覚まし時計へ目を向けた。
イリア「え、ちょ、ちょっと待ってください……今何時……」
視界に飛び込んできた数字を見た瞬間、血の気が引く。
イリア「は、八時半……? 八時半!?」
完全に寝坊だ。
イリアは飛び起き、慌ててベッドから降りる。
扉の向こうから、少し心配そうな声が返ってきた。
ナターシャ「……うん。もしかして…さっき起きた……?」
イリア「ご、ごめんなさい…! 今すぐ行きます……!」
少しの沈黙のあと、ナターシャは小さく笑うように答えた。
ナターシャ「ゆ、ゆっくりでいいよ……。」
その一言に、イリアは思わず苦笑する。
夢の余韻はまだ胸の奥に残っている。
それでも今日も、屋敷での一日が始まろうとしていた。
◇
イリアは慌てて身支度を整え、廊下を駆け抜ける。いつものツインテールとシュシュは少し雑だった。
窓から差し込む朝日が屋敷の床を黄金色に染め、廊下には朝食の残り香がふんわりと漂っていた。
イリア「皆さん大変お待たせしました……! そしてすみません……!!」
勢いよく食堂の扉を開く。
しかし、そこに広がっていたのは予想していた賑やかな光景ではなかった。
イリア「あれ……?」
食卓には空になった食器がいくつか並び、さっきまで朝食を囲んでいたであろう気配だけが残っている。
イリア「み、皆さん……?」
(ま、まさかついに痺れを切らして……)
その時だった。
「あっ、イリア先輩! おはようございますっ!」
キッチンから、ぱたぱたと軽い足音が近づいてくる。
現れたのは、小さなエプロン姿。とても愛らしい後輩、プリムローズだった。
プリムローズ「……あ、わたくしがちゃんと皆さんの朝食をお作りしましたから、大丈夫ですよ!」
少し照れくさそうにはにかみながら続ける。
プリムローズ「味はイリア先輩には及びませんでしたけれど……皆さん、美味しいって言ってくださいました。」
イリアは胸を撫で下ろし、思わず両手を合わせた。
イリア「プリムさん……!」
そのまま感極まったように肩を落とす。
イリア「うぅ……ありがとうございます……優しさが染みる……。」
プリムローズは少し照れくさそうに手を振る。
プリムローズ「そ、そんなぁ…わたくしにできることをしただけですから……!」
そのやり取りを後ろから見ていたナターシャが、静かに口を開いた。
ナターシャ「……も、もうみんなご飯食べて、それぞれ好きな場所に行ったから……大丈夫だよ。」
ナターシャはイリアの顔を見つめ、小さく微笑む。
ナターシャ「…イリアも、ちゃんと朝ごはん食べてね。」
その一言には、どこか母親のような優しさが滲んでいた。
イリアもようやく力を抜き、ほっと笑みを浮かべる。
イリア「……はい…ありがとうございます。」
するとプリムローズが、はっと何かを思い出したように声を上げた。
プリムローズ「でしたら、スープが冷めてしまったので……少し温め直してまいりますね!」
そう言うと、小走りでキッチンへ向かっていく。
その背中を見送りながら、イリアは小さく息を吐いた。
ついさっきまで胸を締めつけていた悪夢は、いつの間にか屋敷のみんなの温かさに溶かされていた。
こと-koto
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羽海汐遠
10,941
タタミン 「I'm come」
コメント
1件
ああ、これめっちゃ好みのやつだわ……。冒頭の母親との別れのシーン、泣きそうになったよ。「お母さん…!」って叫ぶイリアの声が、読んでるとこっちまで胸が締め付けられる。で、そこからの温かい日常とのギャップがまた良いんだよな。プリムローズ「わたくしがちゃんと皆さんの朝食をお作りしましたから、大丈夫ですよ!」って言うシーン、めっちゃ癒し……。悪夢を屋敷の優しさが溶かしてくれたって描写、すごく好き。「強さの理由」はまだ見えてこないけど、イリアの過去がどう彼女を形作るのか、続きめっちゃ気になる🔥