「おはようございますっすよ〜」
私はそう言って鍛冶屋の扉を開けて中のダリルさんに挨拶するっす。
「ああ、おはよう。何か買いに来たのか?」
「私にはダリルさんに貰った一式があるから間に合ってるっすよー」
「あら? じゃあエイミアさんは何しに……?」
実のところこのやりとりはいつものことっす。
「ダリルさん要素を補充しに来たっす!」
そう言ってダリルさんの膝の上に座ってなでなでしてもらうのがここに来た時の楽しみっす。
そしてこれならダリルさんも恥ずかしがらないで撫でられるという思いやりっすよ。
「まったく……仕方のないやつだ」
そう言いながらしっかり撫でてくれるところはやっぱり、ダリルさんも好きっすねー。
「ん? うーん……?」
「え? ひゃっ⁉︎ な、何するっすか?」
ダリルさんが手を止めて私の首の辺りの匂いを嗅ぎ出してきたっす。そりゃ私たち獣人種も匂いは好きっすけど、それでもこんなに……えぇ……。
か、顔が赤くなってるっす、絶対。
「ダ、ダリルさん⁉︎ ちょっと、そういうのはもっとこう、特別な仲になってから……ひゃあっ⁉︎」
だんだんとあちこちを嗅がれていくっす。そ、そんなのは、ちょっと、ちょ──。
「くさいな。お前これ最後に洗ったのはいつだ?」
「は、はい?」
さっきまでとは別な意味で顔が赤くなる。
「確かに。エイミアさん、最初に貰ってから他の服を見てませんが、もしかして?」
「うん? そういえばそうだな。なんだかんだで殆ど毎日来てるが確かに……」
「あわわわわ……」
すぽーんっ!
2階の部屋の1つでまたダリルさんに剥かれたっす。どうせならもっとこう……。
「サツキ、このうさ耳に似合う服でも着せてやってくれ。あとローブとパンツにブーツの洗濯も頼む」
そう言ってダリルさんはさっさと部屋を後にして、残されたのは下着姿で転がる私とサツキさん。
「分かりました。ではエイミアさん! 女の子は身だしなみに気を遣わなきゃだめですよ!」
「男の人にこんな姿にされて何もされずにほったらかされる女の子ってなんなんすかね……」
「そ、それは……」
なんか言いやがれっすよー。
「な、なんか落ち着かないっす〜」
「大丈夫ですよ、降りましょう」
散々私を着せ替えて遊んだサツキさんに手を引っ張られて下に連れてかれるっす。
「ダリルさん、出来ましたよ」
「ん? 長かったな。ふむ、これはこれでアリか?」
ダリルさんは耳の先から爪先までじっくりみて……その感想は一体なんなんすかね。
「ダリルさん、こういう時は褒めてあげてください」
あぁぁぁサツキさん何言ってるっすかー⁉︎
「ああ、そうか。うむ、よく似合っているぞ」
「ダリルさん、もう一声」
おおおーい⁉︎ もういいっすよっ⁉︎
「ふぅ。こういうのは恥ずかしいのだが……そうだな、可愛いと思うぞ」
もうダメっす〜。
改めてダリルさんの膝の上に座らされてるっす。サツキさんの誘導によって。
ダリルさんもサツキさんから、はいって櫛を手渡されてそれで私の髪を梳かしているっす。
なんの拷問すか⁉︎ いや、最高ですけど、憤死しそうっす!
「なるほど。サラサラで気持ちのいい髪質なんだな。こうして梳かしているとよくわかる」
「そ、そっすかね?」
「ああ、いつまででもこうしていたいくらいだ」
「え、いつまででも⁉︎」
「とはいえ、そう引き留めるわけにもいかないだろう。そろそろ次の用事もあるだろうしな」
「用事なんかないっす! 今日はオフっす!」
今日は天国でいいっすよね?
「あ、エイミアちゃんっ! いいなぁーっ! ミーナもやって欲しいなーっ!」
「すみません、また外へ討伐に行くのでミーナをお願いします」
ビリーさんがミーナちゃんを預けに来たっす。そういう繋がりでもあるんすねー。
「ああ、構わないぞ。どれ、エイミアは一旦降りてミーナも梳かしてやるか」
あ、あう〜。で、でもまた後ででも。
「エイミア、少し魔法を見せてくれ。そうだな……そこのロウソクに火をつけてみてくれないか」
「え? まあ、いいっすよー。ほいっ」
ダリルさんが指し示した先にはテーブルがあって店の商品も置いてあるなかにロウソクが立っているっす。
変わったリクエストっすけど、まあ、見たいんでしたらと私はテーブルに近寄って火をつけて……ってつかない?
「え? あれ? もう一度っ、ほっ! はっ! やっ⁉︎」
何度やっても着かないっす。あれ? ええー?
「まあ、あのローブを着てしかやってないなら仕方ないことかも知れんな」
「ええ? どういうことっすか⁉︎」
そんな、あのローブがないとって一体──。
「最初に説明したが、あのローブは特別でな。各種精霊との親和性を高める。つまりもともと魔術適性のないお前でも扱えるほどに、だ。特別というのはだてじゃない」
ええっ? ということはローブがなければ私は、私は……⁉︎
『魔術の使えないうさ耳などいらんな』とか。
『魔術がないとミーナとポジションかぶるだけだからいらないねっ』とか?
「そ、それは困るっす!」
何度やっても着かない。いや、取りあえずは指先に……ぃぃぃ〜着かない!なんで⁉︎ 水も……出ない、風は起きない、雷は何も何も何も何も何も何も──。
「だ、ダメっすよ? そんなの、せっかく出来る様になったすのに──嘘だったんすか? すごいのは私じゃなくてローブだったんすか? ちょっと、着いてよ。火ぃ、着いてよぉ」
すっと……サツキさんがダリルさんの前にというかミーナちゃんの前にロウソクを持って行ったっす。
「ほいっ」
ロウソクには簡単に火がついて、消えずにそこにある。
「あ、ああ、そんな……ぁ」
気づけば私は床に崩れ落ちてたっす。
「エイミアちゃんっ!」
いつのまにか横に来ていたミーナちゃんが、私を起こしてダリルさんのとこに連れて行く。
「だ、だめっす。魔術の使えなくなった私なんて……もうここにいる資格なんてないっすよ……」
「何言ってんだ。来い」
そう言ってダリルさんはひょいと私を膝に座らせて私の手を取る。
「あ……」
ミーナちゃんの付けたロウソクの火が私の指に移る。その時に私の身体の中で動いたものがあるっす。
「分かるか? 最初からずっとローブを着たままだったからな。お前の中の魔力の動きが分からないくらいにローブが補助していたんだ。途中で脱がせなかった俺の落ち度だな。すまん」
「そ、そんな、ダリルさんは悪くないっす!そうっすよ! ローブの力を私の力だって勝手に勘違いした私のせいっす! ダリルさんは何も悪くないっすよっ!」
ダリルさんは後ろから軽く抱きしめてまた撫でてくれる。
「お前はすぐに泣くな」
ああ、私、泣いていたんだ……。
「ご、ごめんなさいっす。あ、いや──ありがとうっすよ。そっすね、私はもうあのローブは卒業してみた方がいいかも知れないっすね」
「あれは俺からのプレゼントだが、もう着てはくれないのか?」
「あ──」
うさ耳ローブ。
最初にそうやって着せてきて、なんだかんだで気に入ってた風だったのは本当だったんすね。
「い、いや。そうっすね。私もお気に入りっすから、これからもあれは大事に着るっすよ」
「そうか。どれ、髪を梳かす続きでもやらせろ」
「はいはい、うさ耳マニアの着せ替え変態さん。今日は梳かし放題っすよー」
やっぱり師匠のことは好きっす。この関係がいつまでも続くといいっすねー。
「ダ〜リル! 元気してるぅー? あっ、なにその羨ましい状況! エイミアちゃん、代わって代わってえー!」
「ダメっすよー。ダリルさんは私の髪にメロメロっすから」
「そんなぁー。私もされたいされたいー!」
ここのみんなともこうして賑やかで、私はやっぱり幸せっす。
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