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すると先生はまた優しく微笑んでいて、小春ちゃんはニンマリとした笑顔で、その姿はまるで飼い主に撫でれているペットの子犬のようだった。
そして次の瞬間、先生が彼女の頭に手を置くと、彼女はさらに嬉しそうに頬を緩めていた。
その光景を見た瞬間、私の胸はズキンと痛んだ
なにか重荷が掛かったように気分が落ちて、もう見ていられなくなった私は逃げるように階段を駆け下りて昇降口まで降りると、頭の中はぐちゃぐちゃのまま、ただ早く帰ろうという気持ちで急いで靴を履いた。
履いたというよりは、靴につま先だけを入れて踵を押し込む形で、しっかりと足を入れないでそのまま学校を小走りで出た。
家に帰宅してすぐに私は制服を脱いで部屋着に着替えると、ベッドに倒れ込んだ。
「はぁ……」
ため息をつく、最近こんなモヤモヤした気持ちばかりだ。
先生と仲良くなれたと思ったらそれきりで……と、そんなことを考えているうちにいつの間にか眠りについてしまった。
翌日の学校にて、昼休みになると弁当袋を抱えた齋藤先生が教室に入ってきた。
だけど今日はなんだか気まずくて目を合わせられない。
すると先生は私の様子に気付いたのか声をかけてくれたが、私は適当に返事をしてその場をやり過ごしたのだった。
そして6時間目のLHRがやってきた、内容は体育祭に向けての競技決めだった。
私は基本的にあまりスポーツが得意ではないし、一緒にはしゃぐ友達すらいない。
周りの子はきっと可愛くハチマキを巻いて、髪型もオシャレにして、顔にハートのシールとか貼ったりしてみんなで自撮りしてインスタのストーリーとかに上げたりするのだろう。
けどそこに私みたいなのが混じれるわけでもないのだから、正直体育祭もあまり楽しみではなかった。
しかし齋藤先生はそういうイベントごとが大好きなようで、張り切っている様子だった。
いや、体育祭で生徒より張り切らない先生はあまりいないだろうが。
議長の女生徒が教壇の前に立って体育祭の内容を話し始めた。書記の生徒が黒板にスラスラと文字を書いていく。
最初は徒競走や二人三脚、障害物競走などの走る競技の参加希望を取るらしい。
みんながワイワイと声を上げる中、私だけは憂鬱な気持ちだった。
しかし、みんな続々と参加したい競技に手を挙げているのに、ここで私が手を挙げないと残り物で嫌なものが当たっても癪だし、目立つと思って私は意を決して、みんなの挙手に追従するように徒競走に挙手をした。
すると私の隣の女生徒も同時に挙手した。
それは小春ちゃんだった。
どうやら彼女は徒競走に参加するみたいだ。
それから各競技の人数が決まっていき、終鈴が鳴るころには全ての競技がそれぞれの名前で埋まっていた。
「体育祭は来週の水曜日から金曜日までの三日間です、練習や準備の時間は十分にあるので各自体調管理を怠らないように!それと、優勝した奴には先生が焼肉奢ってやるからな~!」
齋藤先生がそう言うとみんなワイワイと盛り上がりやる気になっていたが、かくいう私も途端にやる気が出たのだ。
(……それって、つまり…優勝すれば齋藤先生と焼肉デートできるってことだよね…?!)
そのまま帰りのHRに移ると、すぐにそれも終わり。
私は帰る準備を済ませて教室を出ようとすると、齋藤先生に声をかけられた。
「ネネは体育祭徒競走出るんだってな?」
「あ、はい……」
「そうか、頑張れよ!先生は応援してるぞ」
先生はそう言って私の頭を撫でてくるから、思わず顔が赤くなる。
しかし今日は齋藤先生の顔を見ることができなかった、なぜなら昨日見た光景が脳裏を過るからだ。
こうしてくれるのは私だけじゃない、なんなら小春ちゃんの方が特別扱いされてるんじゃないかという不安が急に襲ってくる。
でも、だからこそ体育祭で先生にいいところを見せるチャンスだとも思った。
「あの、先生……」
「ん?どうした?」
「……私、頑張りますから!」
だから私は力強くガッツポーズを先生に見せてそう言ってみせると、先生は一瞬驚いた顔をしたがすぐに微笑んでくれた。
(よしっ!頑張るぞ!!)
そしていよいよ体育祭当日を迎えた。今日は雲ひとつない快晴で絶好の運動日和だ、朝は少しだけ肌寒かったが今はもうすっかり暖かい。
開会式が終わると早速競技が始まるのでみんなグラウンドに集合して整列していた。
私は緊張していた。
「ネネ、大丈夫?」
隣に立つ小春ちゃんが心配そうな目で私を見てくるので私は笑って返した。
「うん!大丈夫だよ」
「そう?でも無理しないでね?」
そう言って彼女は私の手を握ってくれた。
その優しさがいい子ぶってるみたいで憎たらしい
だって私は知ってるよ?小春ちゃんが齋藤先生によしよしされて嬉しそうに頬を緩ませていたこと。
「……うん」
しかし彼女の手の温かさが伝わってきて少し安心する自分もいて、自然と震えが止まった気がした。
そうして観客席に戻り、障害物競走や綱引きが終わるのを眺めていると、次はいよいよ徒競走に参加する生徒へのアナウンスが流れ始め
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