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#鬱展開
Mist-404
1,165
mogyumogyuGemi
646
GENESIS・中央制御区画
「タジを連れ戻す。」
その一言で、空気が変わった。
ソウヤの身体。
ソウヤの顔。
だが――そこに立っているのは、もはや普段のソウヤではない。
肩から余計な力が抜け、呼吸は異様なほど静か。
敵を見据える瞳にも迷いがない。
transmigratio(人格転移)。
ソウヤの中に宿る人格――レイ。
イレイダが刀を構えながら横目で見る。
「相変わらず別人のようだな。」
レイは淡々と答える。
「当たり前だ。」
ソウヤならもう少し言い返す。
だがレイはそれ以上何も言わない。
アリスが小さく呟いた。
「これが……ソウヤの人格転移……。」
ネリクマもじっと見ている。
「強くなってる…」
イレイダが答える。
「ああ。」
それは単なる雰囲気ではない。
立ち方。
重心。
筋肉の使い方。
間合いの取り方。
すべてが変化している。
今のソウヤは――
イレイダに匹敵する、いやそれ以上の身体能力を引き出していた。
タジ救出
「結衣。」
レイが呼ぶ。
「え?」
「タジの身体を支えろ。絶対に端末から引き離すな。」
「わ、分かった!」
「アリス。」
「分かったわ!」
「俺が合図した瞬間だけ時間を止めろ。長時間はいらない。」
アリスは右目を押さえながら頷く。
「できるから。」
「ネリクマ。」
「なに?」
レイがタジの接続端末を指す。
「俺が指定した場所だけ壊せるか?」
「できるよ。」
「なら待て。」
ネリクマが頷く。
最後にレイはイレイダを見る。
「イレイダ。」
「私は何をすればいい?」
レイは中央制御室の奥を見る。
「邪魔が来る。」
直後――
ガコン!!
壁面が開いた。
大量の機械兵。
イレイダが笑う。
「なるほど。」
刀を構える。
「こっちは任せろ。」
イレイダVS機械兵
一斉射撃。
ズドドドドドッ!!
イレイダが床を蹴る。
真正面には行かない。
壁へ足を掛け――
ダンッ!!
横方向へ跳ぶ。
砲撃が通過。
着地と同時に身体を沈める。
一機目の懐。
斬ッ!!
装甲が裂ける。
すぐに二機目が機械腕を振り下ろす。
イレイダは刀で受けない。
半歩横へ。
拳が床へ突き刺さる。
その腕を踏み台に跳躍。
「おらぁっ!」
ドゴォッ!!
能力で強化された蹴りが頭部へ直撃。
機械兵が吹き飛び、後方の二機を巻き込む。
着地。
だが――
イレイダが僅かに腹部を押さえた。
「……チッ。」
結衣が気づく。
「イレイダ!」
「見るな!タジに集中しろ!」
Physical attacker。
圧倒的な物理戦闘能力。
その代償は、確実にイレイダ自身の身体へ蓄積している。
Invader内部
タジの意識はGENESISの電脳空間を逃げ続けていた。
「クソ……!」
出口が次々と閉じる。
巨大な防壁。
追跡プログラム。
そして前方にも黒い壁が形成される。
「挟まれた……!」
逃げ道がない。
間宮の声が響く。
『能力は優秀です。』
『しかし、脳そのものをネットワークへ接続するのは危険ですね。』
「うるせぇ……!」
『こちらから君の脳へ干渉できる。』
タジの意識が歪む。
現実世界。
鼻だけでなく、耳からも血が流れ始める。
結衣が叫ぶ。
「タジ!!」
レイの判断
レイはタジではなく端末を見ていた。
「……三系統。」
タジとGENESISを接続している信号経路を読む。
一つ。
生命情報。
二つ。
意識接続。
三つ。
脳へ逆流している攻撃信号。
「見つけた。」
ネリクマを見る。
「右下。赤く点滅している回路だけ壊せ。」
「それだけ?」
「ああ。」
「分かった。」
ネリクマが指先を端末へ近づける。
だが――
モニターの間宮が笑う。
『させません。』
床から防御装置が飛び出した。
レイへ砲撃。
バシュッ!!
誰も反応できない。
――はずだった。
レイは首を僅かに傾ける。
光線が頬を掠める。
同時に踏み込む。
一歩。
それだけで防御装置の懐。
腰を捻る。
拳。
ドッ!!
派手な爆発はない。
だが衝撃が一点から内部へ抜ける。
一拍遅れて――
バギィン!!
内部機構が破裂した。
ネリクマが目を細める。
「……イレイダみたい。」
イレイダが機械兵を蹴り飛ばしながら叫ぶ。
「聞こえてんぞ!」
レイが短く言う。
「アリス。」
「何!?」
時間停止
アリスの右目が輝く。
Space-time Operator――時間停止。
カチッ。
世界が静止した。
今回は長時間ではない。
ほんの僅かな時間。
それで十分だった。
停止した世界でレイがネリクマの手首を取り、指先を数センチだけ移動させる。
「ここだ。」
時間が動き出す。
「ネリクマ。」
「うん。」
strāgēs(破壊)。
ピシッ。
端末全体ではない。
指定された回路――
そこだけが崩壊する。
バチン!!
間宮からタジへ流れ込んでいた攻撃信号が途絶えた。
レイが叫ぶ。
「タジ!」
帰還
電脳空間。
閉ざされていた出口が一瞬だけ開く。
「……!」
タジは迷わない。
「うおおおおお!!」
意識を現実へ叩き戻す。
ガクン!!
タジの身体が大きく仰け反った。
そして――
「――っはぁ!!」
目を開く。
「タジ!」
結衣が抱き支える。
「……結衣?」
「よかった……!」
タジは激しく息をしながら笑う。
「死ぬかと思った……。」
レイが近づく。
「喋るな。脳を使いすぎてる。」
タジはその顔を見る。
「……レイ、ですか。」
「ああ。」
「助かりました。」
「礼はソウヤに言え。」
レイは静かに答える。
「この身体はあいつのものだ。」
間宮の誤算
モニター越しの間宮から笑みが消えていた。
『……なるほど。』
レイが画面を見る。
「何だ。」
『人格が変化するだけではない。』
『身体能力、戦闘思考、反応速度――』
レイの目が鋭くなる。
『人格ごとに、肉体の性能まで変化する。』
「……。」
『素晴らしい。』
「黙れ。」
一瞬。
レイから凄まじい殺気が放たれた。
イレイダが反応する。
ネリクマもレイを見る。
間宮だけが笑った。
『その反応。』
『やはり君は――』
ブツン。
レイがモニターを蹴り砕いた。
ソウヤの意識が内側から問いかける。
(レイ。)
「……。」
(今、何を言われそうになった?)
返事はない。
その真実は――
まだ明かされない。
地下
その頃。
名取惣一たちは黒い人型の群れと対峙していた。
「夢幻!」
「はい。」
夜鳴鵺夢幻が前へ。
黒い人型の一体を見据える。
その周囲に異質な気配が広がる。
exsecratio Carmen――呪詛。
黒い人型の動きが鈍る。
その一瞬を――
千藤院刹那は逃さない。
刀を抜く。
hallucinatio gladius――幻剣。
斬撃。
一体目が崩れる。
二体目。
三体目。
刹那が間を縫うように斬り抜ける。
しかし奥から、さらに黒い影が現れる。
「キリがありませんね。」
惣一は周囲を見渡す。
「いや。」
視線が一点で止まる。
「こいつらを倒す必要はない。」
刹那が振り返る。
「惣一様?」
惣一の姿が――消えた。
次の瞬間。
黒い人型の群れを越えた最奥に立っている。
iddhi-vidha-ñāṇa――神足通。
「術の起点を潰す。」
夢幻が笑う。
「相変わらず無茶しますね。」
惣一が奥の巨大な祭壇を見る。
そこには――
名取家の紋章。
惣一の表情が変わった。
「……やっぱりか。」
この異変は偶然ではない。
名取家の過去と繋がっている。
GENESIS
機械兵を全て破壊したイレイダが刀を下ろす。
「終わったぞ。」
「こっちもだ。」
レイが答える。
アリスは右目を押さえながらイレイダへ駆け寄った。
「イレイダ!」
「平気だ。」
「平気な人はお腹を押さえないから!」
「見てたのか。」
結衣もすぐに近づく。
「座って。」
「まだ戦える。」
「座って。」
「……はい。」
ネリクマがぼそっと言う。
「結衣の方が強い。」
「言うな。」
限界
その時。
レイの身体が揺れた。
「……っ。」
イレイダが即座に気づく。
「おい。」
レイが額を押さえる。
transmigratioの長時間使用。
身体への負担。
そして――
人格が前面へ出続ける危険。
内側からソウヤの声。
(レイ。)
「まだだ。」
(戻れ。)
「まだ敵が――」
(俺の身体だ。)
レイが止まる。
ソウヤは続ける。
(助けてくれてありがとう。)
(でも、ここからは俺がやる。)
沈黙。
そして。
「……分かった。」
瞳から鋭さが消える。
身体の力が抜ける。
「うっ……!」
イレイダが支えた。
「ソウヤ!」
「……あれ?」
声も戻っている。
「イレイダ?」
「戻ったか。」
ソウヤは周囲を見る。
結衣。
タジ。
千太。
アリス。
ネリクマ。
全員いる。
「タジは?」
タジが床に座ったまま手を上げる。
「なんとか生きてます。」
ソウヤが安堵する。
「よかった……。」
しかし
ゴゴゴゴゴゴ……!!
施設が再び振動する。
タジが顔を上げた。
「……まずい。」
「何?」
タジは震える手で端末を操作する。
「さっき中で見たんです。」
「GENESISの第二段階は……。」
画面に巨大なカウントダウン。
00:09:58
00:09:57
00:09:56
ソウヤが尋ねる。
「これ、何の時間だ?」
タジは答える。
「分かりません。」
「ただ……。」
画面を切り替える。
日本。
アメリカ。
ヨーロッパ。
アジア。
世界各地に無数の光点。
「GENESISは――」
タジの顔から血の気が引く。
「東京湾だけの計画じゃない。」
全員が画面を見る。
カウントダウンは止まらない。
00:09:41
その頃。
ハルシオンでも。
NWOでも。
マスタークラウンでも。
そして名取家の地下でも――
同じ異常が観測され始めていた。
世界各地で、
何かが起動しようとしている。
ソウヤが拳を握る。
「止めるぞ。」
イレイダが刀を担ぐ。
アリスが右目を開く。
ネリクマが静かに前へ出る。
千太も未来を見据える。
残された時間――
九分。
世界規模の能力者戦争。
その引き金が、ついに引かれようとしていた。
第80話 完
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第79話、読み終わりました…! レイが出てきた瞬間の空気の変わり方、すごく好きです。ソウヤとは別人みたいな立ち方、重心、間合いの取り方まで変わってて、イレイダが「相変わらず別人のようだ」って言うのも納得でした。 あと、イレイダが無理して戦ってるのが切なかったです…結衣が「座って」って強く言うところ、ちゃんと仲間なんだなって思いました。ネリクマの「結衣の方が強い」も笑ったけど、その後レイの身体が揺れてソウヤと交代するところ、すごく切なかった。 最後のカウントダウン、まさか全世界規模だったとは…「残り9分」、続きが気になりすぎます。間宮が言いかけた「やはり君は――」の続きもめちゃくちゃ気になる…!