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送った後、すぐに電源を切った。
スマホを放り出して、両手で顔を覆う。
「レイのバカ……。
会いに来てって言ってよ……」
口にしてしまえば、悔しさと苦しさで余計に腹が立った。
なのに、頭に浮かぶレイが微笑んでいるから、押さえた手の間から涙がこぼれた。
……ひどい。
ひどいよ、レイ。
私がレイを恋しいって、会いたいってわかってるくせに、どうしてあんなこと言うの。
「……会いに行っちゃだめなら、今すぐ会いに来てよ。
そうしたら……許してあげるから」
呟くとまた涙がこぼれてしまう。
大好きなレイを、大嫌いだと思いたくなったのは、彼を好きになってから初めてだった。
スマホを見るのが怖かった。
電源を入れるのはもっと怖かった。
レイから返事が届いているかもしれないけど、まだ腹を立てている私は、受け入れられそうにない。
メールが気になって、でも見たくなくて。
なのに時間が経つにつれ、どんどん落ち着かなくなってくる。
私は一日迷ってから、恐るおそるスマホに電源を入れた。
新着メールは表示されない。
メールなんて見ないと決めていたくせに、言い訳もしないレイにもっと腹が立った。
メールは翌日になってもこなかった。
「なんで」ばかりを繰り返していた私の怒りは、夜になる頃にはすっかり消えていた。
かわりに言い表せないほどの不安が押し寄せて、愛想をつかされていたらどうしようと、心が潰れそうだった。
私は鞄からレイの腕時計を取り出した。
怖い。
怖くてたまらない。
レイはそんな人じゃないと思ってるけど、どれだけ信じていても、私に彼の心が見えるわけじゃない。
離れてからずっと不安だった。
だけど会えない不安なんて、嫌われたかもしれない不安に比べたら、なんでもなかった。
腕時計は止まることなく動き続けている。
握りしめると、無機質な感触が手のひらを痛くした。
こうして時が流れて、レイの気持ちがいつかかわってしまうこと。
私はそれが一番怖かった。
けど、レイは変わらず「好きだ」と言って、「待ってて」と言ってくれている。
それなら……あの時、すぐ頷けばよかった。
「待ってて」と言われるのは、「待ってほしい」と思ってくれてる証拠なのに。
レイを失うくらいなら、保障のない約束だって信じられたはずなのに。
私は居てもたっても居られなくなった。
腕時計を置いて、急いでスマホを取る。
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ごめん。レイ。
怒らないで聞いて。
どうしてもレイに会いたかったの。
会えなくて辛くて、自分の気持ちに精一杯だったの。
待ってって言ってくれるなら、ずっと待つから。
だから
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”私のこと、嫌いにならないで”
そう打ちたいのに、指が震えてうまく文字にならない。
何度打っても間違いばかりで、私は送信を諦め、ベッドに座って後ろに倒れ込んだ。
……お願い。私のこと嫌いにならないで。
瞼に手の甲を押し当てていると、耳元で空気が震えた。
メールだとわかった私は、体が強張った。
怖い。
怖いけど、レイの気持ちを知りたい。
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俺は会いたいんじゃなくて、一緒にいたいと思ってる。
澪は?
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読んだ瞬間、レイの顔が思い浮かんだ。
思い浮かんだだけじゃない。
聞こえるはずないのに、レイの声が耳の奥で聞こえて、今レイがどんな顔をしているか、はっきりわかった。
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私だってそうだよ。
レイと一緒にいたいよ。だから会いたいんだよ。
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