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『またボツですか……』
冷美に無情にボツを言い渡され、いよいよ心が折れた涼二。完膚なまでに彼のプライドとやる気を叩き壊したからね。
『いったいなにがいけないのですか? 秋也さんは僕を応援してくれています。才能があると!』
「才能? 寝言は寝て言いなさい。秋也がどう言おうと、ダメなものはダメなの。あなたにはオリジナリティーがなさすぎるし、本気で売る気あるの?」
責めると押し黙るのは、昔からね、涼二。
「ドラマ1本作るのにどれくらいの製作費と時間がかかっていると思うの? 勉強したって言うけど、AI使って脚本書かせているんじゃないの?」
『そんなことは断じてありません!』
「たくさん脚本読んでいるからわかるんだけど、AIで文章書いたら、一定の癖が出るのよ。知ってた? 同じ言い回し、同じ描写、どれも似たような文章になっちゃうの。あなたの脚本がまさにそれ」
『僕は真剣に向き合って書いています!!』
「真剣に向き合ってその程度しか書けないなら、AI以下ってことよね。あなた、もう要らないから。時間の無駄よ」
ばしっと言って電話を切ってやろうと思ったけれど、いいこと思いついた♡
涼二が書けないなら、私がお題を与えて、天魔に堕ちるように仕向ければいいんだわ。
カウンターのスツールに座って、死にそうな顔をしている涼二。私が眺めているとも知らないで、無様な姿を晒している。家では「いい感じでシナリオ選定してもらっているよ」とか言って強がっているけれど、その選定しているの、私だから。
スマートフォンのスピーカーから鼻をすする音が聞こえてきた。やだ。泣いてるんだ。ふふっ。
あー。声をあげて笑ってやりたいわぁ。
でも、我慢我慢。もう少しで私の苦労は報われるのよ。
「じゃあ、挽回するチャンスをあげるわ。やる気ある?」
『あ、はい! どんなことでもやります!!』
「だったら、あなたが本気で男に惚れなさい。ちょうど秋也がいるでしょ。彼はあなたのことを気に入っているわ。秋也と関係を持つの」
『えっ、関係って……』
涼二が言葉に詰まった。暫く無言の時間が流れる。
「そのままの意味よ。男女関係ならぬ、男々関係とでも言えばいい? とにかく、巷で受けるには、面白くて斬新さが必要なの。若手脚本家同士、ちょうどいいんじゃないかしら」
『で、でも、秋也は、大事な友人で……』
「だから、そこから恋に発展するから面白いんでしょ。脚本家ならその後のシナリオくらい自分で考えて実践なさい。うまく関係を持つことができたら、体験したことをそのまま脚本に書いて提出すればいいわ。これで面白い作品ができるわね」
『あ、冷美さん、それはちょっと――』
「やらないなら、この話は他の人に持って行くまでよ」
『っ……やります! 僕が書きます!』
「じゃあ頑張ってね」
今度こそ電話を切った。
これでますます涼二は秋也に惚れるしかなくなったわね。
まあ、私がお膳立てしなくても、天魔ならうまくやってくれると思うけど。
モニター越しに見る涼二の顔は、絶望と、歪んだ覚悟が混ざり合った、実に無様なものだった。
彼は震える手でスマホを置き、隣で優しく微笑んでいる秋也を見つめた。
「秋也……」
「どうしたの? 冷美さんになにか言われた?」
彼は、涼二と冷美のやり取りを知らない。もしかしてほんとうのことを打ち明けるのかしら?
「チャンスをくれるって」
「えっ、あの冷美さんにそんなこと言われたの!? うわ、すごいよ涼二! やっぱり君は才能あるって!!」
自分のこと以上に喜んでくれる秋也を見て、涼二が心を動かしている様子がモニター越しに伝わってきた。
いいわよ、その調子。
私は今さきほど話した内容を、メッセージにして秋也に送った。彼はスマートフォンを一瞥し、そのままポケットにねじ込んだ。
「いいお酒があるんだけど、涼二、飲む?」
「いいの?」
「もちろんだよ。今日はボクがご馳走するね。今日はおいしいカクテルにして飲んでもらうよ」
本職がバーテンダー(それもほんとうかどうか怪しいけど)だから、シェイカーさばきが美しい。そのままおいしそうなカクテルを作って、涼二の前に置いた。
「召し上がれ」
「秋也はなんでもできるんだね。すごいなぁ」
「脚本の勉強している時に、バーテンダーの話を書きたくて見様見真似で始めたんだ。それが結構ハマってさ。涼二もやってみたらいいと思うよ」
「僕はこういうのは苦手だよ。それより飲んでもいい?」
「もちろん。どうぞ。一気に飲むとうまいよ?」
涼二はショートカクテルに口を付け、そのまま一気に体内へ流し込んだ。「これは飲みやすい」
甘くてとろりとした液体を飲み込むと、喉や胸が焼けるように熱くなった。
「アルコール度の高いお酒だけど、景気づけに飲むとうまいんだ」
「そっか。もう1杯もらえる?」
「これはだめ。飲みすぎると体に毒だから」
「そうかな……」
5分もしないうちに、彼の瞼が閉じ始める。
「涼二、大丈夫?」
「ん……なんか、急に眠くなってきて……」
「疲れたんだね。家まで送るよ。どこ?」
「えーっと……」
言いながら、カウンターに伏せるようにして彼は眠ってしまった。
天魔ったら、涼二をどうするつもりなのかしら――?
コメント
1件
うわああ第42話読み終えたよ…!😭💦 冷美さんの「チャンスあげる」がまさかの秋也と関係持てって指令でマジ震えた…。涼二が飲まされたカクテルで落ちるシーン、甘くてとろりな描写なのに背筋冷えたよ。天魔の思惑も気になりすぎる…!さぶれさん毎回エグい展開ありがとうございます次が待ちきれない…!!🌸