コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
災厄が過ぎ去り、早一週間が経とうとしていた。
ラジエルダ王国に行っていたこともあって、帝都がどうなっていたかは分からないが、ここで戦争が起きたわけでもないのに、かなりの荒れようだった。魔物が責めてきたとか言う人もいれば、いきなり隣人が暴れ出したり……何て話も上がっていた。今では、すっかり嵐が去った後、という感じなのだが、それでも心に負った傷も、目に見える崩壊した帝都もすぐには治らないわけ。
「何、眺めてるの」
「いや、ここから帝都ってどれぐらい見えたっけって」
「聖女殿は丘の上にあるけど、あまり見えないんじゃなかったかしら。と言うか、一気に気が抜けた感じがあるわね、エトワール様」
と、私に言ってきたのは、リュシオルだった。私がぐっちゃぐちゃに散らかした布団を直しながら、話し掛けてきている。
私は、窓の外の景色を眺めながら、今頃復興作業にいそしんでいるだろう人達を想像しながら目を細めた。
あれから一週間。
本当に何もなかったように、時は進んでいく。それはもう残酷に。失った物の方が多いような災厄の期間中。結局誰が、混沌を倒したのだとか、聖女なのだか、分からなくなった世界で、不完全燃焼している部分もあった。主に私が。
帰ってきた私やリース、そして、トワイライトをどんな目で帝国民が見ていたかなんてよく覚えていない。
トワイライトは、世界を滅ぼす的な宣戦布告をしたのにケロッと帰ってきたためあまりいい目で見られなかった気がする。かといって、私も、もしかしたらエトワールがトワイライトを影で操って、トワイライトが世界を救ったんじゃないかとくるっくるに手を返す輩もいた。
まあ、結果として、結論として、誰が何をした、と言うことは私達だけしか知り得ないことだった。
ブライトには、あんな風に真実を伝えたわけだが、それをおおっぴらにする事もなければ、誰か見知らぬ人に話したりもしないと思う。話したところで皆信じないだろうし。人は信じたい物しか信じない人間だから。
「はあ……」
「幸せが逃げていくわよ~」
「分かってるけど」
「まあ、でも貴方は今幸せでしょうし。ようやく、殿下と付き合い始めたのね」
「婚約者とか、ゲームの中だけだと思ってた」
「いや?現実世界でも婚約者って言うわよ。ただ、ニュアンスというか、重みが若干違うけれどね」
リュシオルはそんなことを言いながら、てきぱきと進めていく。相変わらずだなあ、と思いながら、また彼女に怪我がなかったことを心の隅の方で喜んでいた。あっちの世界までいって、真相を確かめてくれたんだから感謝してもしきれない。これからも、大切な親友として接していきたいと思ってる。
勿論、恋人になったリースにも同じように。
「ううーん、そうなんだけど、そうなんだけど!」
「貴方の大好きな、愛してやまない推しのリース様と結婚まで行けるのよ?これはもうハッピーエンドでしょ」
「そうなんだけど、中身は元彼……いや、今彼で」
「だから?」
「幸せです」
何だかそう言わなきゃいけない流れになった気がして、私はそう口にした。その答えを聞いて満足したのか、リュシオルは満面の笑みを向けていた。
紆余曲折を経て、リースと付合うことになったわけだが、私は付合うと決めたとき、リースに今までと同じように接して欲しいと頼んだのだ。というのも、リースは恋人に戻れたからと言って浮き明日ってまた過保護になりそうだったからだ。恋人とは言え、対等な関係でいたし、特別扱いして貰えるのも嬉しいけれど、どうにも慣れないから……という、私の我儘ではあったが。それを、リースは難なく了承してくれた。彼も変わったから、これぐらいであーだーこーだ文句を言う人間ではなくなったというわけだ。
だが、私の方が、意識をし過ぎてしまって空まわってしまっているような気がする。だって、リースの中身が好きになったとは言え、顔は推しのリース様なのだから。本来であれば、二次元と三次元で分厚すぎる越えられない壁があるはずなのに、それがなくなって、私は本当の意味で、リース様と結ばれたのだ、だから、意識してしまうのは仕方のないことなのだと……
「あー」
「エトワール様、はしたないわよ。幾ら、皇紀になる為の教育がない……事もないけど、そこまで辛くないからと言って気を抜くのはダメ」
「分かってるって。別に、勉強が苦にならないタイプだから、皇紀教育が始まっても、別に何てこと無いし、まあ、猫背を治すのは大変だろうけど、リュシオルもサポートしてくれるって約束したし……それは、頑張れるんだけど」
「だけど何?」
「まだ、色々モヤモヤすることが多くて、それを解消していきたいなあって思ってる」
意識不明の重体のままのグランツのこととか、行方不明のアルベドと……同じく行方不明のラヴァインのこととか。
後、あの双子にも私も……だけど協力して貰ったわけだし、お礼を言いに行かないといけない。やることは山積みである。
後々……暇が出来たら、リースと今度こそしっかりしたデートを。とかも考えている。まだまだ先の話だろうけど。
「はあ」
「また、溜息?」
「平和ボケした溜息ですーいいんですー」
「はいはい、良いけどずっと部屋にいるのはあれじゃない?外に出てみる?」
と、リュシオルに声をかけられる。確かに、外の空気を吸うのは良いかもしれない。けれど、インドア派だったから矢っ張りいこう! と前向きにはなれない。
(グランツの様態は昨日見たままだから、良いとして……アルベドとか、まだラジエルダ王国にいたりするのかな?それとも、転移魔法で帰ったり?)
どうしても、あの紅蓮が頭をちらつくのだ。彼は、私がここに来て私を理解してくれた人間でもあり、最悪の出会いをした人間でもあるから。嫌な奴だし、からかってくるし……それでも、私は彼に心許していた。彼を頼ることが当たり前になっていたところもある。だからこそ、何だか彼がいないのは悲しい。
まあ、住んで居るところが違うから、悲しいも何もないけれど、行方が分からなくなっているのは心配だ。
「ねえ、リュシオル。リュシオルが知ってるエトワールストーリーのエンディングってこんな感じだったっけ?」
「違うわよ。全然違う。そもそも、貴方が大きく変えたせいで、聞いた話と真逆ぐらいになっちゃったんだか。でも、そのおかげで、今こうして生きているわけだし、今更気にする必要があるの?」
「……そうなんだけど」
「分かるわよ。グランツや、アルベドの事でしょ?」
と、リュシオルは言ってくれる。分かっているなら、言わないでとは言わなかったけど、口に出されると、なんだかもやっとする。それが事実なんだって、未だ行方が分かっていないんだって言う不安感というか何というか。
探しに行きたいけど、ラジエルダ王国にいるとは限らないし。
ラジエルダ王国に行くには船に乗らないといけないわけだし……いいや、転移魔法、魔道具を使うという手もあるけれど、一人で行くとまたリースにがみがみ言われそうだった。
「……」
「探しに行ったら良いんじゃない?」
「だけど、また何か言われそう。今、まだ忙しくしてるし、心配事増やしたくないってのもあって」
「殿下も寛大になったわよ。彼も彼で今忙しいだろうから、きっと一日二日貴方が行方をくらましても大丈夫よ」
「いや、大丈夫じゃないでしょ」
ノリが軽いなあと思いながらリュシオルを見る。最大の恐怖であった災厄と混沌は眠りについたわけだが、魔物がいないとは限らないし、もっとも一番恐ろしいのは人間だと理解しているから尚更一人で動くにはためらわれた。
一応、レイ公爵家を尋ねるという方法も取れたんだけどアポなしで言って良いものか分からない。
「じゃあ、取り敢えず、港までいてみる?」
「港?何で?」
「いや、港じゃなくても良いんだけど、海見てみたいと思ってたのよ。白い砂浜」
「……というと?」
「流れ着いているんじゃないかなとか思ったの」
「リュシオルそれ、本気で言ってる?」
リュシオルでもそんな冗談言うんだ、と思いながら、私は船は出ずとも港までなら足を運んでも大丈夫なんじゃ無いかと思った。それなら、帰ってこれる距離だし。
「決まりね。じゃあ、準備しましょ」
と、まだオッケーしてないのに、半場強制オッケーみたいなこと言ってリュシオルはスキップをしながら、外に出て行ってしまった。
ああ、同伴はリュシオルか、何て思いながら、もしリュシオルの言うとおり浜辺に流れ着いていたら……何てことも考えたが、それはそれでシュールだな。とも思った。
だって、大の男が浜辺で倒れてるんだよ? 絶対、磯臭い。
けど、もしかしてもとかいう1%にも満たない可能性にかけていないわけでも無い。もしも、浜辺に流れ着いている、とかあるとしたら。
アルベドに会えるなら、それはそれでいいんじゃないかと。望がないわけじゃないので。
(まあ、そんな流れ着いて倒れてるアルベドなんてシュールで見たくないんだけどね……)
一応、攻略キャラの一人で美形という設定だから、それはもう、モザイクかけないといけない図なんじゃないかと心の中で笑うしかなかった。