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## 第29話:双子の残響
厚い雲が月を隠し、岩礁地帯を底なしの闇が支配していた。
ゼストの艦内にけたたましく鳴り響く第一種戦闘配置のサイレン。偽装潜伏という名の静寂は、一瞬にして切り裂かれた。
「ミラ、しっかりしろ! 艦長たちのところへ行くぞ!」
ゼロ・ドラートは、恐怖に身を震わせるミラの肩を抱き、複雑に入り組んだ艦内の通路を駆け抜けた。ミラの瞳はどこか遠くを見つめたまま、焦点が合っていない。彼女の脳内には、絶壁の上に立つ「もう一人の自分」の冷たい感応波が、濁流のように流れ込んでいた。
ブリッジの重厚な扉が開くと、そこには艦長と、オペレーターのリサ、アンナ、エマの3人が血相を変えてコンソールに向き合っていた。
「艦長! ミラを頼む! 外にヤバいのがいやがる!」
「分かっている、ゼロ。ミラ君、こちらへ。リサ、エマ、彼女をケアしろ!」
艦長にミラを預けたゼロは、振り返りざまに拳を握りしめた。ミラの震える指先が、一瞬だけゼロの赤いジャケットを掴もうとして空を切る。
「……ゼロ……行かないで……あの『闇』は……」
「へっ、心配すんな。俺がさっさとあいつの化けの皮を剥いで、戻ってきてやるよ。ミラの眠りを邪魔した代償は高くつくってことを、教えてやらねえとな!」
ゼロはいつもの生意気な不敵な笑みを浮かべ、そのまま格納庫へと全力で駆け出した。
第一格納庫では、すでに出撃準備を整えた3機のガンダムが、鈍い金属光沢を放っていた。
「遅いぞ、ゼロ! 待ちくたびれて、カイルのじいさんは寝ちまうところだったぜ!」
シャドウエッジのコクピットから、ジュードの声が響く。カイルのバスターヴァイスも、主砲の点検を終えて重重しくハッチを閉じた。
「誰がじいさんだ。……ゼロ、状況は最悪だ。敵はわずか一機。だが、アンナの解析によれば、そのエネルギー反応はウイングエックスに匹敵する」
「……上等だ。セレス、準備はいいか?」
ヴィヴァーチェに搭乗したセレスが、鋭い視線をゼロに向けた。
「当たり前でしょ。あんたに背中を任せるのは不安だけど、今は四の五の言ってられないわ。……いくわよ!」
「ゼスト、後部ハッチ開放! カタパルト・モード、スタンバイ!」
リサの指示と共に、戦艦の尾部にある巨大な装甲板が重低音を響かせて開いた。外から吹き込む冷たい夜風が、格納庫内の熱気を吸い出していく。
「ゼロ・ドラート、プロト・ウイングエックス、出るぜ!!」
ゼロが操縦桿を押し込むと、WXの背部のバーニアが火を噴いた。月光のない闇の中へ、白い機体が滑り出す。続いて、シャドウエッジ、バスターヴァイス、そしてヴィヴァーチェが夜の空へと躍り出た。
岩礁地帯の上空。
ゼロの視界には、岩壁の頂上に浮かぶ一筋の赤い光が見えた。
「……あれか」
プロト・ウイングエックスの背部にある**6枚のサテライトバインダー**は、月が出ていないため硬く閉じられている。その姿は、翼を失った天使のようでもあった。
そこに現れた敵の姿に、通信回線越しに全員が息を呑んだ。
漆黒の装甲。それは、ウイングエックスの優美なラインと、ヴィヴァーチェの超高機動を約束する鋭角なシルエットを、悪魔的に融合させたような形状をしていた。
「……ガンダム!? なんで、あんな黒いガンダムが……」
セレスが声を震わせる。その機体――**ガンダム・ノワールレイス**は、ただ浮いているだけで、周囲の空間を捻じ曲げるような圧倒的な圧迫感を放っていた。
「へっ、パチモンが。どこの馬の骨か知らねえが、そのツラ、気に入らねえな!」
ゼロは強気に叫び、ゼロ・システムを起動させた。
だが、その瞬間。
「――っ!? ぐあぁぁっ!!」
脳を焼くような、かつてない強烈な**ノイズ**。
緩和装置が激しく火花を散らし、コンソールにエラーログが高速で流れる。
ミラがいない。ミラという「安全装置」を介さずに、ノワールレイスが放つ狂気的な感応波をまともに受けたゼロの脳内は、無数の「死の未来」で埋め尽くされた。
「クソッ……なんだこれ、見えすぎだ……! 敵の動きが、重なって……!」
『――ふふ。苦しんでいるのね、パイロットさん』
通信回線ではない。ゼロの脳内に直接、冷たく、それでいてどこかミラに似た澄んだ少女の声が突き刺さった。
「誰だ……てめぇ、ノイズを流し込んでくるんじゃねえ!」
『私は、ノア。……ミラを、迎えに来たわ。あなたのような「不純物」から、彼女を解放するために』
ノワールレイスが、右腕に装備された大鎌のような高出力ビーム・サイズを起動させた。その赤い刃が、曇天の夜を不気味に照らし出す。
「不純物だぁ? 笑わせんじゃねえよ。俺は、アイツのジャガイモ剥きに付き合わなきゃならねえんだ。てめぇみたいな得体の知れない奴に、渡してやるもんかよ!!」
ゼロは激痛に耐え、血走った目で操縦桿をねじ伏せた。
ウイングエックスが加速する。だが、ノワールレイスはそれを上回る「残像」のような機動で、ゼロの死角へと回り込んだ。
「は、速い……!? セレスのヴィヴァーチェ以上かよ!」
「ゼロ、危ない!!」
カイルの叫びが響く中、ノワールレイスの鎌が、ウイングエックスの肩口を掠めた。装甲が紙のように引き裂かれ、火花が夜の岩礁を赤く染める。
「新入り! 下がってろ、俺たちが叩く!」
ジュードとカイルが援護に入ろうとするが、ノワールレイスが放つ不可視の感応波の壁に阻まれ、近づくことすらままならない。
ゼロは、朦朧とする意識の中で、ノワールレイスのコクピットを見つめた。
まだ、彼は知らない。その漆黒の鉄の塊の中に、ミラと同じ顔をした、しかし絶望に染まった少女が座っていることを。
「……ミラ……クソ、俺が……守るんだ……!」
暴走するゼロ・システムと、圧倒的な力を持つノア。
プロト・ウイングエックスとガンダム・ノワールレイス。
宿命の「双子」の戦いが、今、幕を開けようとしていた。
**次回予告**
ノワールレイスの圧倒的な蹂躙。
分断されるゼスト隊、そして孤立するウイングエックス。
「なぜ……なぜ私を拒むの、ミラ?」
ノアの悲しき叫びが、ミラの精神を極限まで追い詰める。
その時、ゼロはシステムの闇の底で、真の『WX』の意思に触れる。
次回、『連携攻撃』
**「勝手なことばっかり抜かすな! アイツが今、何を見て笑ってるか……お前は何も分かっちゃいねえ!!」