観察時間を巻き戻して大体昼位から観察してみる事にしようか。
善悪は白米に温かい緑茶を掛けてお茶漬けにしている様だ。
トシ子が漬けたのだろうか、たくあんを齧りながらサラサラと流し込んでいる、のは良いのだが何故か流しに立ったままである、不可思議な?
「善悪様、供養のお客さんがいらっしゃいましたよ」
台所に入って来たインヴィディアが善悪の背中に話し掛ける。
善悪は背中を向けたままで焦った様に答えた。
「りょ! 今流し込んじゃうから本堂にお通ししておいて、でござる! そらっ!」
ズズズーッ! ぷはっ!
「善悪様、お食事位ちゃんと摂って下さらないと…… お身体が心配です」
善悪は茶碗と箸を素早く洗いながら答える。
「心配いらないでござるよ! 我輩の体よりお金お金、お金が大事でござるよ! おっと、供養を待つ人々が大事の間違いだったのでござる! お金はあくまでもオマケだったのでござる! 某とした事が、反省反省、っと!」
「……」
まだ心配そうな顔をしたままでお客を本堂に案内する為に戻って行くインヴィディアであった。
食器を洗い終えた善悪は、姿見で自身の法衣と袈裟(けさ)を整えた後、偉そうな頭巾、観音帽子を被って静々と本堂に向かうのである。
――――そうでござる、一人で行くよりも脇僧(わきそう)を連れて行った方が偉そうなのでござる! お布施も増えるかもしれないし…… さて、誰にしたものか? んまあアレでいいか、一応信仰の対象でもある訳だし……
そう考えると、本堂に向かっていた足をくるりと方向転換して、庫裏(くり)の玄関から境内へと出て行く善悪である。
境内には幾つかの出店が並び、多くの参拝客が記念撮影をしたり買い物や買い食いを楽しんでいる姿があった。
饅頭屋と書かれた店には忍耐の徳であるイラと母性の徳、ルクスリアの元夫婦が忙しそうに接客をし、その後ろでは節食の徳グラが食欲を我慢しつつ茣蓙(ゴザ)の上に大量の饅頭を産み出す為に怖い怖いと連呼している。
その隣では忠節のグローリアと慈善のアヴァリティアの元加害者と被害者のコンビが、自らが手作りしたお守り袋や、善悪が書いたお札などを販売していたが、こちらも結構な人気の様で沢山の参拝客が詰め寄せている。
少し離れた場所で緑茶の詰め放題千円の幟(のぼり)が並べられ、茶糖(サトウ)の家族が総出で煎茶やほうじ茶を買い求める人々に対応していた。
境内の一番開けた場所、かつてコユキと善悪、そしてオールスターズや凶熊の弾(タマ)ちゃん達が暴れまわった場所にはカフェが出来ていた。
『カフェ・バトラー』と看板が出ている、どうやら執事カフェ的な物らしく、努力の徳アセディアとハミルカルの二人がビッシッとした執事服で接客に追われていたが、若い女性客から黄色い声が飛んでいる所を見るとこちらも好評のようだ。
家族とは別個に野菜の直売所を出しているトシ子の出店に近付いた善悪は声を掛ける。
「師匠、申し訳無いのでござるがアスタとバアル、ついでにイーチをお借りしてもよかろうか? ちっと手伝って欲しい事があるのでござるよ」
トシ子は頷いて答える。
「ああ、構わないよ、こっちは殆(ほとん)ど売り切れちゃったからね~、丁度畑に行って補充しようと思っていた所さね」
「おお、それは重畳(ちょうじょう)! んじゃ三人ともついて来るでござるよ」
「ん? まあ良いが、なんだ善悪? 何か企んでいるのか?」
「兄様のお役に立てるなら妾(わらわ)は何でもするよ!」
「わ、私もですか! 神様達に混ざって…… 光栄ですっ! 命懸けで務めさせて頂きますよぉ!」
善悪は三人を引き連れて庫裏(くり)へ戻りながら気楽な口調で言った。
「んな大層な事では無いのでござるよ、祈祷の お・客・さ・ん が来たからチョコッと盛ろうかと思っただけでござる」
「「「ほう」」」