【表紙】線画:鮎塩 色付け:友人
俺は山の麓にいた。あたりは既に暗く元々薄暗い山の中がさらに恐ろしく感じたが、 不安な思いを胸から追い払い、何とか進むことにした。 この状況に至るまでは色々なことがあったのだ。
俺の名前は彰久。貴族に仕える武士であり、普段は宮中の警備や警護をしていた。だが今日の屋敷はいつもとどこか雰囲気が違っており胸騒ぎがした。
「―息子はどこだ⁉︎」
向こうのほうから殿が縁側を走ってきていた。どうやら御子が居られなくなったようで、とても慌てている様子だった。
殿は俺の姿を見つけるとすぐさま駆け寄り
「息子が姿を消したのはきっと天狗の仕業だ!すぐに息子を取り戻してくれ!」
と懇願をされ、支えている方からの依頼なので断れず承ることにした。俺が一人不在になったとしてもこの屋敷に仕える武士は俺だけではないので問題はない。だがしかし、御子が天狗に攫われた可能性があるということなら天狗の居場所を突き止める必要がある。
なので俺は街へ行き情報を集めてみることにした。すると多くの人が同じ山の名前を出したのでその山へ行くことにしたということが主な出来事だ。
しばらく山奥へ進んでいくが、夜ということもあり暗くてあまり辺が見えないので一旦引き返そうと方向を変えると目の前に岩窟があることに気がついた。もしかするとここに天狗が住んでいるのかもしれないと思い、恐る恐る足を進めると―
「誰だ?」
声が聞こえた方に顔を向けるとそこには、山伏姿で翼の生えた青年が立っていた。彼が天狗なのだろうか…?確かにいくつか当てはまる特徴はあるが、顔は赤くないし鼻も変わらないようだった。
「勝手に入ってしまいすまない。 拙者が支えている屋敷の息子が居られなくなったそうで、何か知っていることはないか?」
そう聞くと、天狗らしき青年は目を逸らし
「さぁ、知らんな」
と返す。
視線を逸らした様子を見て少し怪しく感じる。果たしてこの青年は本当に天狗なのか?翼が生えている時点で不思議な見た目ではあるが…。と思考を巡らせていると
「お前が考えていることは全てわかる。わしが天狗なのか…と考えているようだが、天狗攫いの噂で疑っているのか」
青年が口を開いたかと思えば俺が考えていたことを全て見透かしたように言って見せる。予想外の発言に驚いたが言葉を返すことに専念する。
「拙者がと言うより、殿が天狗攫いとおっしゃったので山に来たのだ。不快に思わせたのだとしたらすまない」
機嫌を損ねたのだとしたら御子を返していただけないかもしれないと身を震わす。だが考えていることは全て見透かされてしまうので、一体どうしたらいいのか分からず頭は真っ白になってしまう。すると… フッと青年が笑みをこぼした。どこに笑う要素があったのか分からず、きょとんとする。
「あわあわ悩んでいるのが面白くてつい…な。仕方ないな。山中を調べ、お前の主人とやらの息子がどこにいるか見つけてみせる」
その言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。どうやら御子が行方不明になった原因は天狗ではないようだった。
「ただし、無事息子を連れ戻すことができたら報酬を支払ってもらう。」
俺はその言葉に迷いなく頷いた。
すると、青年は背を向け羽ばたき始めた。その姿は優雅に空を羽ばたく鳥のようで闇のように静かであった。
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