コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第6話:母の願い
次の戦場は、草木がねじれ絡み合った不気味な荒野だった。
空はどす黒く、地平線の向こうまで岩と棘が広がっている。風に混じるのは土と血の匂い。
広瀬 伶は、長いロングヘアをひとつに結び直した。
年齢を感じさせないきりっとした顔立ちに、疲労と覚悟が滲んでいる。
白いブラウスは泥に染まり、腕には古びた数珠を巻きつけていた。
「私は……子どもと再会する。そのために、絶対に生き残る」
その言葉に隣でうなずいたのは三好 颯太。
茶色の短髪を乱し、チェック柄のシャツにジーンズ姿の青年。弱腰ながらも、伶に引きずられるように足を踏み出した。
だがすぐに襲撃が来た。
大友 渉――がっしりとした体格の警察官が影から現れ、声を張る。
「ここは危険だ! 二人だけで動くのは自殺行為だ!」
正義感に突き動かされ、彼は強引に二人を取り押さえようとした。
伶の瞳に、烈しい光が宿る。
「私には……守るものがある!」
咄嗟に拾った岩を振りかぶり、大友の頭部に叩きつけた。
鈍い音。大友の顔が歪み、鮮血が額を伝う。
「っ……やめろ!」
颯太が叫ぶ間もなく、戦闘は始まった。
大友が太い腕で伶の肩を押さえ込み、砂に叩きつける。背中に衝撃が走り、肺から息が漏れる。
その瞬間、颯太が震える手で鉄パイプを拾い、大友の脇腹を殴打した。乾いた音と共に大友の身体が揺れる。
伶はすぐに立ち上がり、ナイフを突き立てた。
刃が大友の肩を裂き、血が飛沫のように散った。大友の巨体がよろめく。
「ぐああっ……!」
必死の抵抗に、伶の目は涙で滲んでいた。
「……ごめんなさい。でも……私は生きなきゃならない!」
最後の一撃は、母の腕力ではなく“母の決意”そのものだった。
ナイフが深く沈み、大友 渉は声にならない呻きを漏らしながら地に崩れ落ちる。
静寂の中、颯太は顔色悪く伶を見つめた。
伶は震える両手を握りしめ、血に濡れたナイフを落とす。
「必ず生きて……子どもに会う。それまでは何も失えない」
母の願いは、血で塗られた誓いとなった。