テラーノベル
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「それで、この宇宙船の名前は?」
愛玉子がちんすこうの宇宙船をチェックしながら尋ねた。聞かれた二人は首を傾げる。
「名前? 宇宙船に名前つけるの?」
「ゲーム中の表示はプレイヤー名なので、特に名前を付ける必要はありませんわよ?」
だが、そんな二人の様子を見てため息をつき首を振る愛玉子。
「分かってないなー、広大な宇宙を旅する上で自分の命を守ってくれる相棒だぜ?」
そう言って、自分の宇宙船を呼んだ。彼女が目の前に何かのウィンドウを表示し、指でポンポンとタッチしていくと上空から一隻の宇宙船が飛んでくる。
見た目はちんすこうのものとあまり変わらないが、ペイントが違う。特に目を引くのは機体に大きく描かれた龍の絵だ。着地すると、中から半透明の少女が降りてきた。外見年齢はちんすこう達より少々高めで十代後半といったところか。
「ナビゲーターのマーラーカオです。お二人の事は愛玉子の視点を通して見ていたわ、よろしくね」
「ああ、コイツはアタシのナビゲーターね。そしてこの子の名前は飛龍だ!」
この子とは宇宙船の事である。サーターアンダギーはマーラーカオに挨拶をするが、ちんすこうは飛龍を見て目を輝かせていた。
「おおお、カッコイイ!」
「そうだろうそうだろう、宇宙船にはこうやってペイントをしたりして愛情を注いでこそだ。お前も大事な相棒に名前を付けてやれ」
盛り上がる二人をよそに、ナビゲーター二人が自己紹介と雑談をしていた。
「マーラーカオさんはどこにいたのですか?」
「東の方にある町で宇宙船の見張りをしていました。悪戯をされたら困るからって愛玉子に頼まれて」
「なるほど、お互い変わり者をパートナーに持つと大変ですわね」
「ええ、本当に」
なかなか酷い事を言って話に花を咲かせる二人だった。
「それで、なんて名前にするんだ?」
愛玉子に問われ悩むちんすこうだが、突然ある名前が頭に浮かんだ。
「むむむ……はっ、そうだ! リヴァイアサンにしよう」
どうやら夢で見た名前を部分的に思い出したらしい。その名を聞いたマーラーカオが、眉をひそめた。
「その名前はいけませんよちんすこうさん。最近噂になっている、このカオスユニバースで最も強く凶悪な宇宙怪獣の名前です」
彼女の言葉に、知らなかった三人は口々に驚きと疑問の声を上げた。
「テストプレイが始まったばっかりの段階でそんな最強モンスターが噂になるのか?」
「マニュアルにも記載されていない宇宙怪獣ですわね。どこでその情報を手に入れたのですか?」
「あー、そういえば『星食いのリヴァイアサン』とか言ってたっけ」
「えっ?」
ちんすこうが何気なく発した言葉に、今度はマーラーカオが驚きの声を上げた。
「星食いですって!? そ、それを一体なぜ知っているんです!」
その表情は、見るからに慌てている。彼女は何か重要な情報を知っているようだ。ちんすこうの謎発言も気になるところだが、マーラーカオの態度が気になって仕方がないサーターアンダギーは重ねて質問した。
「マーラーカオさん、星食いのリヴァイアサンとは何なのですか? どうしてマニュアルにもない宇宙怪獣の名前を知っているのです?」
問い詰められたマーラーカオは、少し悩んだ後にポツリと呟いた。
「……これから星を食べるんです」
「これから?」
そして、腕に付けた不思議な時計を見つめる。
「ええ、もうすぐ始まります。この宇宙の崩壊が」
言葉を発すると同時に、大きくジャンプして拠点の屋根の上に飛び移るマーラーカオ。もちろん普通のプレイヤーにはそんな能力はない。彼女の顔に邪悪な笑みが浮かんでいるのが、ちんすこうの目に映った。
「アハハハハ! なんで知っているのか分からないけど、もう手遅れよ。このゲームは再び滅亡するの!」
嗤い、そのまま掻き消えるように姿を消すマーラーカオ。間を置かずサーターアンダギーの耳に警報が届いた。
『中央管制室アスガルドより全プレイヤーに告ぐ、緊急事態発生! ただちにログアウ……』
最後まで言い終わらずにその通信は途絶えた。そして、カオスユニバースに接続していた全てのプレイヤーが不気味な寒気に襲われる。
「どっ、どうなったんだ!?」
「サーターアンダギー! 何が起こったの?」
突然の急展開に混乱するちんすこうと愛玉子に、青い顔を向けてサーターアンダギーが言う。
「外界との接続が切断されました。ログアウト不能ですわ」
その顔を見たちんすこうは、彼女の言葉よりもっと驚くべき事に気付いた。
(身体が、透けてない!!)
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