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「現状を整理しましょう。まずこのカオスユニバースというVRMMOの仕組みについて」
サーターアンダギーが現状を整理する。ゲームの仕組みを説明するのはログアウト出来ないという現象の原因及び彼女達に及ぼす影響について考えるためだ。ちんすこうと愛玉子も大人しく座って聞いている。
「このゲームは人間の精神エネルギーで稼働する魔科学という技術を用いて作られたものです。なぜそんな事をしているのかというと、昔同じ事を普通の科学技術でやろうとしたところ、謎の大停電が発生してゲームから強制切断された参加者が脳死状態になってしまうという恐ろしい事件があったからですわ。
ですから、不測の事態が起こっても私たちの精神エネルギーでゲーム世界は保たれるのですが、ゲームへの接続方法が参加者の脳とゲームサーバーをヘッドセットを介して無線リンクさせる方法なので、ゲーム世界が保たれているのにログアウト出来ないという状況は不自然なのですわ」
ちんすこうはなるほどーなどと言いながら相槌を打っているが、これは分かっていないなとサーターアンダギーは見抜いていた。二人の表情を見ていた愛玉子が助け舟を出す。
「つまりゲーム自体はサーバーで行われていて、その動力源は参加しているアタシ達だから、アタシ達とサーバーが接続されている状態なわけだ。ログイン・アウトは接続されていれば自由に出来るはずだが、それが出来ない。じゃあ切断されているのかと言うと、切断されていたらゲームサーバーが動かないから世界が保てないし、そもそもアタシ達がゲーム世界に入ったままではいられない。
何故ならVR――仮想現実というのは実際に自分がゲームの世界に入っているんじゃなくて脳がサーバーから情報を受け取ってゲームの世界に入っているように錯覚しているものだからだ」
セリフが長い。ちんすこうは理解できなかったが、おかしい状態だという事は分かった。
「うん、異常事態だという事がわかった!」
「……まあ、そういう事ですわ」
「ところで、ずっとゲームに入っててトイレはどうするの?」
重要な事だが、なぜ最初に気にするのがトイレなのか。食事とか睡眠とか色々あるだろう。
「それは外の人達がどうにかしてくれる事を祈るしかないですわね」
制作者の寿甘はゲームの状況をモニタリングしている。異常の発生は当然把握しているはずだ。
「じゃあ、この状態で死ぬとどうなるの? 人生ジエンド?」
「それは大丈夫ですわ。このゲームは宇宙空間で戦闘するシステム上、頻繁に死亡する事が想定されています。特にペナルティもなく最寄りの拠点で復活するようになっているのですわ」
確かに宇宙空間で戦闘なんかしたらものすごい勢いで死者が発生するだろう。
「でも、今の状況だと死んでも復活するとは限らないだろ?」
愛玉子の懸念はもっともである。本来あり得ないはずの、ログアウト不能という状況が発生しているのだ。死に戻りシステムも封印されている可能性は十分にある。だが、サーターアンダギーはニッコリと笑ってこれを否定した。
「ふふふ、実はログインプレイヤー全員の活動状況を観測する事が出来るのです。先程から確認していますが、現在の参加者は全部で一万人、異変が起こってから今までの十数分間に何らかの理由で死亡したプレイヤーは五百人程いますが、全員復活しておりますし活動プレイヤー数に変動はありません」
「……つまり、プレイヤー数が減ったら本人が死んだかゲームから出たかしたって事?」
ちんすこうの言葉に、二人はハッとした表情になった。
「そうだ! もしプレイヤー数が減ったら、それが本人死亡なのかログアウトなのかの判断がつかない。これは相当な混乱を招く事になるぞ」
「そうですわね。そして、プレイヤー数の減少はそう遠くない未来に必ず起こるはずです」
サーターアンダギーの断定的な発言に首を傾げるちんすこう。
「なんで必ず起こるの?」
「このゲームが魔科学で作られているからですわ。魔科学は生きた人間の精神エネルギーが必要不可欠。そして生身の人間は意外と弱いもの。何らかの救出作業が外の世界で行われ、無事ログアウト出来るか失敗して死亡してしまうかのどちらかは絶対に避けられません。
実は異変の時点で全員死んでいて私達はAIになっている……なんていうホラーチックな展開も魔科学である以上起こり得ないのですわ」
そういうものかと思いつつ、ちんすこうはマーラーカオが言い残した言葉が気になっていた。
――このゲームは再び滅亡する。
ここに重要な何かが隠されているような気がしてならないのだ。
「……そういえば、愛玉子はなんでマーラーカオがナビゲーターだったの?」
今回の事件の元凶らしいマーラーカオだが、愛玉子の知り合いなら現実の名前も知っているのではないかと思った。
「それが、単独で参加したプレイヤー同士のランダムマッチングで組んだんだ。だからあいつが何者なのかはアタシにもわからない」
だが何も情報が得られなかった。愛玉子が嘘をついているのではないという事は、サーターアンダギーがパラメータから確認している。
「うぬぬ、じゃあとりあえずサーターアンダギーのステータスを表示!」
「またですか!? ナビゲーターにステータスは……あら?」
なんと、今度はサーターアンダギーのステータスが空中に表示された。
サーターアンダギー レベル10
力:そこそこ
頭:いいかも
足:それなり
手先:悪くはない
業:普通
高いのか低いのかよく分からないステータスが表示される。レベルと業の確認以外ではまるで役に立たない表示だ。だが、そんな事よりもサーターアンダギーの扱いが明確に変化した事を意味するステータスウィンドウの存在が彼女達を驚かせるのであった。