テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
start____________
『お姉ちゃん?』
「え?」
呼びかける声は弱く、たった少しの圧力でさえ潰されてしまいそうなほどだった。
「お名前、なんていうの?」
『ふうか!しらみね ふうか!』
少し打ち解けたのか、さっきより明るくて無邪気な声。
頬の横を通過する風が冷たかったせいか、心が温まっていくことを全身で感じることができた。
「素敵な名前だね!」
『お姉ちゃんは、なんていうの?』
「お姉ちゃんはね、れいっていうんだ。」
『れいおねえちゃん!』
『お姉ちゃんもいい名前だね!』
「ありがとう」
「…寒っ」
風邪が一段と冷たくなっていくのを感じ時計を見上げると
短針は床と垂直に指していた。
「…もうこんな時間!」
「ところでお母さんは…?」
『お母さん、今日は帰ってこないんだ。』
悲しそうにうつむく少女を目にして、自分のデリカシーのなさを実感した。
「ごめんね、変なこと聞いちゃって。」
「ところで今日はどこに帰るの?」
『びょういんに帰るの。あそこ』
少女が指さした先は、真新しい病棟だった。
『わたしね、びょうきなの。』
胸の奥が音を立てた。
人生で初めてかもしれない、この胸のざわめき。
震える指、冷や汗、少女の眼。
彼女のすべてが事実を物語っている。
「…嘘だ。」
と、言いたかった。
『お姉ちゃん、今日はもう帰らないといけないけどね』
『またあいたい。』
そう続けた。
私は、強く頷いた。
____________________
翌日
[さようならー]
放課後の予定が入ることは、きっと初めてだ。
私は颯爽と教室を出て、病院へ続く坂に向かって歩き出した。
[白峰風花さんですね。204号室になります。]
「ありがとうございます。」
受付で言葉を交わし、204号室へ向かった。
「失礼します。」
『…!!』
『お姉ちゃん!』
「ふうかちゃん、会いに来たよ」
『まってた!お姉ちゃんのこと!』
そう言って満面の笑みを見せる少女に、私は自然と心を奪われた気がした。
『お姉ちゃん、話があるの。』
「どうしたの?」
『私の病気ね、治らないかもしれないんだ。』
なんで、なんでなの。
なんで風花なの。
そこが私だったら、とか。
そこが私に関係のない赤の他人なら、とか。
今まで感じたことのない気持ちの焦りや胸の痛み。
「えっと、それってどういう…?」
『お医者さんに言われたの。』
『わたし、またお姉ちゃんにあいたい。』
「何回でも行くからね。まってて。」
『お姉ちゃん、ありがとう。』
そう呟いた眼はすでに涙で覆われていた。
___________________
第一話 ありがとうございました!