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「やばい、やばい、やばい、あ~~~~! ちょ、先輩見かけなかった?執務室にいな かったんだよね」
本舎に戻ると、真っ先にキースはグレッグの執務室に駆け込んだ。が、もぬけの殻だった。
同僚の姿を見かけて慌てて問いかける。
「おぉキース、お前の言う先輩ってグレッグ様だよな、今日は見かけてないな。おい、誰か知ってるか?」
「見てないです」
「だそうだ、おい、どうした?緊急案件か?手を貸そうか」
「あ、いや、ちょっと……緊急と言えば緊急のような……」
「なんだ、難しい案件か。隊長に聞いてみろ」
「ありがとうっす。この件はそうなんだ、難しくて……、次、何かあった時は手を貸してほしい、じゃ」
キースは、同僚の優しさに甘えそうになるのをこらえて、隊長室を目指して疾走した。
「隊長‼︎大変です‼︎大至急先輩に!」
「おい、キース、お前、せめてノックぐら いしろ。グレッグでさえノックするぞ。返 事をする前に入ってくるがな……お前らな、もう少し私を敬えとまでは言わないが……」
キースは血相を変えて室内に駆け込むと、執務机で作業している隊長に詰め寄った。
机の上に両手を勢いよくついて、隊長の話を遮る。
「隊長!大変なんです、ソフィアちゃんが、ソフィアちゃんが、お、男の人と抱きあってました、あ、あ、あの、ソフィアちゃんというのは……、このことは、内密にお願いしたいんすけど、実は……」
息も切れ切れにキースは、先程見た光景のことを伝えようとした。が、今度は隊長がキースの話を遮る。
「な、な、な、な、な、そ、そ、そ、そ、それは一大事だ!まずいな、こ、殺される……」
「って、え?隊長は、ソフィアちゃんのこと知ってたんすか?俺でさえ、昨日知ったばかりなのに」
「私だって、昨日知ったばかりだ」
「やはり、相手の人は命はないですよね……?」
「お前ばかか!お前と私の命も危ないぞ!いいか、キース、婚約者の浮気現場を目撃したお前が無事でいられると思うか? というか、なぜ戻ってきた?そう言う場合はな、さりげなく間に入り込んでお前も同席するか、婚約者をせめて送り届けないと……」
「えー、無理っすよ、だって、なんか、こう、二人の間の空気というか、上手く言えないんすけど、とても話しかけられないような感じで。それに、ソフィアちゃん泣いてたような……」
「なんだと!訳ありなのか⁉︎訳ありなんだな。 もしかして、彼女は……、 二人は付き合っていたのではないか?そうだ、そうに違いない。あいつは、自分の気持ちを受け入れてもらったと言っていたが……。 割り込んだのか……。彼女は、怖くて断れなかったんだな。 でないとあのグレッグと付き合っていて、浮気するなど考えられない! あ~⁉︎そうなのか、まいったな、上司としてどうすべきか……。 プライベートなことに口を出すのは……。 きっと、彼女の幸せを願って、男は身を引いたのだろう。だが、お互いの気持ちに嘘はつけなくなって、感情が昂り抱擁を……」
隊長は、一人芝居をするかのように、自身をだきしめる仕草をしながら語りだしていた。
「いや、どーっすかね? どちらかというと、ソフィアちゃんが抱きつかれていたような……。それに、昨日先輩とソフィアちゃんと一緒に話したんすけど、ラブラブでしたよ」
隊長は、キースの肩に手を置き諭すように話す。
「キース、お前もまだ若いな。大人の事情というものがまだ分からないんだな。経験を積め。
彼女は好いた男のために、演技をしているんだ。考えてもみろ。グレッグのような高位貴族に睨まれて、一般庶民が無事でいられるわけないだろう? 彼女はな、泣く泣く男と別れたんだ。 そして、グレッグのいない時に……。 私たちにできることは、見守ることだ。いいか、キース、人の恋愛事情に介入してはいけない。
このことは、グレッグには黙っていろ。見なかったことにするんだ、命が惜しければな。」
隊長は、頭の中で完全にソフィア達の物語を創りあげているようだった。
「えー、というか、先輩いないんすか?」
「あぁ、しばらく、戻らない、聞いていないのか? とにかくだ、万が一駆け落ちでもした場合が問題だ。キース、お前は彼女達の動向を監視するんだ。特別任務だ。」
「えー、まぁ、ソフィアちゃんに何かあったら、先輩に合わせる顔がないのでいいっすけど……。 でも、もしも、隊長の言う通りあれが演技だとしたら……、女の人を信じられないっす」
隊長の言葉を完全に鵜呑みにしたわけではないキースだったが、なんとなく何もせずにその場を離れてしまった罪悪感があった。
とりあえず二人を見守りつつ、様子をみてからグレッグに報せようと思うのだった。
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