テラーノベル
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「ごめんなさい。やっぱり俺はらっだぁさんと付き合えません…。あなたを利用してだなんてこと、することはできないです」
しばらくの沈黙のあとらっだぁさんはそっかと短く返事をした。
「気持ちはホントに嬉しかったです。こんな俺のこと、そう思ってくれたこと」
俯いているとらっだぁさんが俺の肩に手を置いた。
「ちゃんと考えてくれたってことだろ?3日の猶予をくださいって言われたからちょっと期待しちゃったけど、…まぁ、そういうとこが好きになったんだよな」
「っ、ちょっと…」
あのあと、電話をかけ直して3日間考えさせてほしいと言った。
考えなくたって、俺の答えは最初から決まっていたのに。
それでも、逃げる道を選ぼうとした自分がいたのも事実だ。
「…これからも、友人として俺と仲良くしてくれませんか?都合いいかもしれませんけど…」
「んや?友達としてでもいてくれんなら俺は全然。それに先のことはどうなるか分かんねぇしな」
「またそういう…」
落ち着いたところで話をしたいと言うとらっだぁさんは自分の住んでるところの近くにある喫茶店を指定した。
お客さんは時間帯の為か少ない。
時間も指定してきたのはそれが理由だったのかもしれない。
「だって、好きなんだもん」
「らっだぁさん…ッ」
いくら死角になって見えない場所だからってそう言うことを明け透けもなく言うなんて。
この人は羞恥心をどこかに置き去りにでもしてるのか。
「失礼なこと考えてね?」
「え?ソンナコトナイデス」
「顔に出過ぎ」
笑うらっだぁさんにつられて小さく吹き出した。
こんな穏やかな時間を少し前まではクロノアさんとも過ごせていたのに。
「トラ、顔に出やすいから気を付けた方がいいぜ?めっちゃ分かりやすい」
「…素直なだけです」
「物は言いようだって、それ」
言い返されてぐっと黙る。
「拗ねんなって」
ほっぺを摘まれて、前に座る人を睨む。
「すねへなんはいまへん」
「拗ねてんじゃん!」
遂に大笑いしたらっだぁさんはお店の人に咳払いをされとばっちりを受けた俺共々店からやんわりと追い出されたのだった。
「らっだぁさんのせいですよ」
「いやトラが拗ね顔すっからだろ」
「拗ね顔って何だよ!」
そう言い合っていたら後ろから手を引っ張られた。
「ぅわっ⁈」
驚いて振り向くとそこには肩で息をするクロノアさんがいた。
「な、ん…で?」
「何ではこっちのセリフだよ。スマホ、見てない?」
「え?」
言われてスマホを開くとLINEの通知や着信履歴が表示されていた。
全てクロノアさんだ。
「ノアよくここって分かったな?」
「…とぼけるのはやめてくれます?」
「ぺいんとに言われて来たんか?」
「あいつは事情知ってますからね」
掴まれる腕は振り解けそうにないくらい強く握られている。
「それにしたって、ピンポイントで場所わかるとかすげぇな」
「それに関してはノーコメントです」
「GPSでもトラに仕込んでんの?」
「黙秘します」
俺を挟んで言い合いをする2人を交互に見る。
「トラゾー、とりあえず帰ろう」
「ぇ、あ、えっと…」
「話があるから、大事な」
大事。
遂に相手でも紹介されるのだろうか。
「拒否権は…」
「ないね」
「……」
即答だった。
それにすごく怒ってる気がする。
ぺいんとが言ってたのってこれのことなのだろうか。
だったら今すぐ逃げたい。
でも、物理的と言うよりも心理的に逃げれない。
「じゃあ、また。次に会う時はらっだぁさんにとって残念なお知らせをすると思います」
「さて?どうだろうね」
「いえ、絶対に」
「……言うようになったなノアも。まぁ、その時はちゃんとお祝いするよ」
らっだぁさんにとって残念ってどう言うことだと思いながらクロノアさんに腕を引かれてその場から離される。
「あっ、らっだぁさん今日はありがとうございましたっ!また、俺とも遊んでください」
「おー、いつでもいいぞ。俺はな」
「…行くよトラゾー」
苛立ったように舌打ちをしたクロノアさんに驚く。
こんな顔もできたのかと、他の一面を知って不謹慎だとしても嬉しく思っていた。
「わっ、待っ、…」
足が縺れながらも前を歩く人に着いて行くことになった。
これは物理的に。
顔だけ振り向けば手を振るらっだぁさんがいて会釈を返す。
それにまた舌打ちをしたクロノアさんは歩みを早め大通りに向かっていた。
──────────────、
連れてこられたのは、見たことのないマンションだった。
「(クロノアさん、実家出たのか?…いや、結婚するならそうか…もう、相手の人と一緒に暮らしてるんか…)」
そう思うだけで足が止まりそうになる。
それを許してくれないのは、腕を離してもらえてないから。
「……」
オートロックを外して中に入る無言のクロノアさんに着いていく。
「……」
「……」
クロノアさんはエレベーターで上がっていく道中も一言も発さない。
怒ってる。
でも、どうして。
「(泣く自信しかねぇや)」
ふと、とある一室に前に着くとドアの鍵を開けたクロノアさんは俺の方を振り向いた。
「……入って」
「ぇ、で、も…」
他人の自分が入るわけにはいかないと、入りたくないと足が縫い付けられたかのように動かない。
「…入ろっか?」
笑顔が逆に怖い。
「は…い、…」
促されて中に入る。
その瞬間、背後で鍵がかけられる音がした。
「っ、…」
「こっち」
背中を押されて歩みを進める。
通されたのは簡素なリビングだった。
必要最低限のものしか無い。
「まだ何も無いけど、座って」
「失礼、します…」
柔らかい、俺の好きな色のソファーに座らせてもらう。
「お茶しかないけど、飲むかい?」
「え、あ…お言葉に甘えて…」
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出してコップに入れる彼の後ろ姿を横目で見ることしかできない。
「はい、どうぞ」
「あ、りがとう…ございま、す…」
真隣に座ったクロノアさんが俺の顔を覗き込む。
「それで?なんでらっだぁさんといたの?」
「!、そ…それは…」
「俺に隠し事してる?」
「そんな…っ!」
顔を上げると翡翠色が俺を捉えていた。
「俺に隠れて、あの人の何の話してたの?」
「ぃ、いや、…えっと…」
「言えないこと?」
顔を近付けられ、後ろに下がる。
「トラゾー」
「ぁ、う…」
ソファーの肘置きに背中が当たってそれ以上下がれない。
「言わなきゃ力づくで吐かせるようにするけど」
肩を押さえつけられて上に乗られる。
これ以上逃げ場がなくなり、止むを得ず口を開いた。
「……こ、恋人になって欲しいと、頼まれました」
「あ?」
ちゃんと答えたのに、クロノアさんの聞いたことないドスのある低い声にびくりと肩が跳ねた。
「…で?トラゾーは何で答えたの?」
にこりと有無を言わさない顔に金縛りにあったかのように固まる。
「答えて?」
「こ、断りました…」
「…そう」
少しだけホッとした顔のクロノアさんを見上げる。
「……クロノアさん、こそ…俺に言わなきゃ、いけないことあるんじゃ…?」
大事な話があると言ってた。
俺もそろそろちゃんと覚悟を決めなければ。
「あぁ…そうだね」
俺の上から退けて立ち上がる。
「ちょっと待っててくれる?」
俺を座りなおさせて、そう言った。
「……はい」
他の部屋の方に入ったクロノアさん。
一瞬、その隙に逃げてしまおうかと思った。
「……いや、もう逃げるのはダメだ」
首を振って素直に待つことにする。
「……」
相手の人を連れてくるのだろうか。
『この人が俺の結婚相手』
『初めまして、彼とお付き合いさせてもらっている…』
「嫌だな…」
そこまで想像して、じわりと目頭が熱くなる。
「俺の方が、好きなのに…ずっといたのに…」
耐えきれなくなった涙はぽたりとズボンにシミを作っていく。
止まらないそれは拭っても拭っても溢れて。
「やだ、…いゃだ…っ」
「トラゾー…?」
バッと顔を上げると俺を見て驚いた顔をしたクロノアさん1人が立っていた。
「なんで泣いて…?」
屈んで俺のことを心配そうにする彼に、更に涙が込み上げる。
思わず抱きつきそうになったけど、それは必死で我慢した。
その代わり服の裾をぎゅっと握る。
「トラゾー…?」
「やです…クロノアさん、他の人と、結婚しないでください…」
「他の人…?」
そこで自分は何てことを言ってしまったのだと我に返った。
「…あっ……いえ、ごめん、なさい…っ」
止まらない涙を袖で拭えば、クロノアさんに止められた。
「擦れちゃうよ」
優しく目元を撫でるその仕草に、困った顔をする表情にぶわりとまた涙が溢れ出る。
「っ、ごめ、なさ…ッ」
「…いいよ。……ね、トラゾーは俺が他の人と結婚するの嫌?」
こくりと頷く。
けど、すぐに首を横に振る。
「クロノアさん、には…普通に幸せッ、…になって…ほしいです…だか、ら、…っ、俺のことはもう、切り捨て、てください…ッ」
クロノアさんの顔は見てられなくて俯く。
ボタボタと涙は落ちてズボンに大きなシミを作っていく。
「……トラゾー」
「、…っ…」
顔が上げられない。
「トラゾー」
ほっぺを包まれて顔を上げられる。
「普通ってなんなの」
「だ、って…クロノアさ、…結婚、するんでしょ…?」
自分で言って自分で傷付く。
胸が苦しい。
早く帰りたい。
ここにいたくない。
「普通って何?女の人と結婚して、子供できて、死ぬまで一緒にいてってこと?それならトラゾーでもいいじゃん。何が違うの?俺にとっての普通はトラゾーとがいい、トラゾーじゃなきゃ嫌だ。俺は君を切り捨てることなんてできない。俺が求めてるのはトラゾーなんだよ」
「…へ…?」
「手、出して?左手」
「…?」
言われてわけが分からないけど素直に左手を出す。
俺の手にクロノアさんが手を添える。
「?、…!、っっ⁈」
「トラゾー、俺の話ちゃんと聞いてなかったでしょ」
左手の薬指にはめられるもの。
「さっきも言ったけど、トラゾーの言う普通を俺は君と共にしたい。俺はトラゾーと一生、一緒にいたいんだよ」
ぽろっと涙が一粒落ちて、それは止まった。
「で、も…結婚式呼んでって言った時に当たり前だよって…」
「あれってぺいんとたちのことじゃないの?」
「え…?」
「……やっぱり勘違いしてたんだ。…通りで急に避けられたり話が合わないなって思ったんだ…」
隣に座り直したクロノアさんは俺の左手を握る。
「トラゾー、作業に集中してたしね…俺も言うタイミング悪かったって思うよ」
「待っ……、そもそも、俺たちって、付き合ってたんですか…?」
「は?え、まさかそこから…?嘘だろ」
「え」
クロノアさんははぁ、と溜息をついて俺のことをじっと見る。
「鈍感もここまでくれば、ある意味すごいな」
「すみませ…」
「いや、はっきり言ってない俺も悪いね」
握られた左手にクロノアさんの右手が絡む。
「トラゾー、俺と結婚する為に付き合って」
「っ!」
「と言うか、これを受け取った時点でもうトラゾーに拒否権はないよ」
薬指にはまる光るものを指で撫でられた。
「トラゾー、答えは?」
「…クロノアさん、他の人と…結婚し、ない、ってことですか…?」
「俺はずっとトラゾーしかいないよ。勘違いされてたけどね」
苦笑いする彼に肩から力が抜ける。
「おれ、と…?」
「うん、そうだよ」
「ょか…った…ッ」
ホッとしてへにゃりと間抜けな顔で笑う。
「トラゾー、好き。大好きだよ」
「俺も、クロノアさんのこと、大好きです…っ」
「なら、返事は?」
「もちろん、はい、です…ッ」
左手を引かれて抱きしめられる。
「やっと、抱きしめれた」
「ごめんなさい…俺…」
そういう接触は避けてきた。
何で俺なんかをと、思ったり、色々と気持ちが溢れそうでやんわりと逃げていたから。
「いいよ、これからいっぱい触るから」
「ひ、ぇ…ッ⁈」
耳元で囁かれて肩が跳ねた。
「勘違いさせてた分も、傷付けてた分も、泣かせてた分も、ね」
「っっ〜⁈」
「勿論、俺は我慢させられてた分、触るからその辺りは覚悟しといて」
「!!?」
そういう意味だと察してしまい顔が熱くなる。
「目元以外も真っ赤になっちゃったね」
「えっ、ぁ、う…ッ」
「可愛い」
そして、そこでキャパオーバーした俺は気を失った。
コメント
5件
…あれ?今思ったらkrさんがtrさんの看病してるとき誰とどんな会話してたんだ?? 一応当て字して考えていたけどわかんないとこもあったから気になります!!…この後(この話の後)trさんとkrさんの話も見たいです(欲張りすいません!!!m(_ _)m)
rdさんに電話したのってそういうことかぁ…!!ツゥーー最高の作品ありがとうございます!!! 鈍感なtrさんも可愛いですしこの後のことも考えただけで美味しいです!!(๑♡∀♡๑) ※美味しいは……もう分かりますよね?!(圧)
ほんとに鈍感トラゾーさん大好き過ぎます… ほんとありがとうございます!!🔥