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第2話 幼なじみ以上
「……んっ、久遠…」
息が震える。
自分の声で、ふと意識が浮上した。
耳元で、低く落ち着いた声が落ちる。
「っ…凪…」
腰に腕が回され、体が優しく、
けれど確実に引き寄せられる。
久遠の熱が、ゆっくりと、奥まで俺の中に入ってくる。
「……んぅ…」
唇を噛んで声を殺す。
でも抑えきれない甘い吐息が漏れる。
「凪、動くね」
久遠がゆっくりと腰を動かし始める。
深く、丁寧に、けれど容赦なく
俺の内側を擦り上げる。
体が熱で溶けていくような感覚。
「…やぁっ、そこ…っ、くお、ん…」
名前を呼ぶ声が、自然に甘く零れてしまう。
熱が奥に届くたび、 背筋を電流のような快感が駆け上がる。
高三の頃くらいからだと思う。
こういう時間ができたのは。
久遠の家に来て、 だらだらして、
気づいたら同じベッドにいて、
⎯⎯そのまま流れで。
最初は少し驚いた気もするけど、
今は別に珍しくもない。
幼なじみ以上のものはある。
でも俺たちのこの関係に、名前はない。
「…くお、ん…もっと…ぉ…っ」
俺が無意識に腰を揺らすと、
久遠の動きが一層深くなる。
やがて、背中が弓なりに反り
頭の中が真っ白に弾ける瞬間が来た。
「ぁ…⎯⎯⎯ ッ!!…」
久遠が最後に低く、優しく名前を呼んだ。
「っふ、ぅ…凪…」
体から力が抜け、 シーツに沈む。
荒い息だけが部屋に残る。
久遠が静かに体を離した。
「待ってて」
数分後。
戻ってきた久遠が濡れたタオルを差し出す。
「はい使って」
「ん、ありがとう 」
受け取って軽く体を拭く。
さっきまでの熱が嘘みたいに、部屋は静かだ。
俺たちはそのまま隣に横になる。
セミダブルサイズのベッドの上、暗い天井。
窓の外では、遠くの車の音が響いている。
しばらく無言だった。
「……久遠」
「ん」
ふと思い出す。
「さっきのさ、金魚」
久遠が言葉を被せてくる。
「あぁ、死んでたな」
「うん。死んでた」
「ちゃんと世話してたんだけどな」
「死体、どうすんの」
「んー…埋める」
「どこに」
「大学」
思わず笑う。
「大学に金魚埋めるやつ初めて見た」
「土あるから」
「まあ、確かに」
確かにアパートの周りはコンクリートばっかりだ。 庭なんてない。
目を閉じる。
暗闇の中に、さっき見た水槽が浮かぶ。
ガラスの箱。少し濁った 水。
金魚が、ゆっくり浮かんでいた。
その前、
水の中で少し苦しそうに動いていた気がする。
思い出した瞬間、
胸の奥がざわついた。
「……」
「凪?」
久遠が静かに呼ぶ。
「どうした」
「いや」
少し考えてから言う。
「なんか、その」
「うん」
「…息苦しい、かんじ?」
自分でも変なこと言ってると思う。
自覚はある。
久遠はすぐには答えなかった。
「……そっか」
短い声。
それだけ。
俺は自嘲する。
「変だよな、金魚一匹にこんな…」
「別に」
そのあと、
久遠の手が背中に触れた。
ゆっくり撫でてくれる。
落ち着かせるみたいに。
同じリズムで。
何度も。
「久遠、手」
「やめる?」
「ううん、これいい」
声はいつも通り落ち着いている。
背中を撫でる手は止まらない。
久遠の手が背中にある。
それだけで、 妙に安心する。
呼吸がゆっくり落ちて
意識が遠くなる。
「久遠」
「ん」
「眠い」
「寝な」
視界が暗くなる前
最後に浮かんだのは、
さっきの水槽だった。
…いや、水槽というより
金魚。
なんとなく胸が重くて
軽く頭痛もする。
理由はまったく分からない。
…疲れてるのだろうか。
考える前に、
そのまま眠ってしまった。
凪の呼吸が寝息に変わった。
俺の手は、まだ凪の背中にある。
ゆっくり撫でる。
一定のリズムで。
やがて、手を止める。
俺は暗い天井を見た。
しばらく黙って
それから小さく息を吐いた。
「……あれ、残しておくのよくないな」
凪の寝息は静かに続いている。
「水槽、ね」
誰に言うでもなく、ただ呟く。
「…捨てよ」