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第6話:【実況】異世界で泣いてる子供を笑顔にしてみた【w Ww】
新しい村には、朝がよく似合った。
四角い屋根に光が乗る。
道の木札が、小さく手を振る。
井戸の屋根から、しずくが落ちる。
広場の舞台には、まだ昨日の歌の気配が残っている。
一晩でできた村は、少し不思議だった。
昨日までなかった道を、村人たちが当たり前みたいに歩いている。
昨日までなかった家から、子ども達が顔を出している。
昨日までなかった見張り台で、ロッカが眠そうに遠くを見ている。
ナギは広場の端に座り、スマホを開いた。
転生タイムライン。
次の転生者を準備中。
投稿傾向
笑顔専門
子ども向け動画
安心感
ナギは画面を見つめた。
「笑顔専門って何だろうな」
リクが隣で木箱を叩いた。
とん。
「めっちゃ平和そうっす」
マヒロが舞台の上で伸びをする。
「いいじゃん。今の村に必要でしょ」
カイは新しい家の壁にもたれ、目を閉じかけていた。
「子ども用の広場、まだ飾りが足りない」
ミレナが帳面を開く。
「笑顔専門。子ども向け。安心感。能力が癒やし寄りの可能性」
ロッカが見張り台から降りてきた。
「油断するな。平和そうな転生者ほど、変なことをする」
ナギはうなずいた。
「それは、今までの流れで否定できない」
村の奥から、泣き声が聞こえた。
一人ではない。
二人。
三人。
もっと。
マヒロの顔が変わる。
「また?」
ミレナが帳面を閉じた。
「夜泣きが増えてる。昨日は村が完成して少し落ち着いたけど、心が追いついてないのね」
ナギは立ち上がった。
新しい村はできた。
家もできた。
柵も門もできた。
でも、怖かった記憶までは消えない。
魔物が来た夜。
壊れた柵。
大人の叫び声。
転生者の不思議な力。
子ども達には、どれも大きすぎた。
広場の近くの家で、小さな子が泣いていた。
その隣で、別の子も涙を拭いている。
さらに奥の家からも、ぐずる声がする。
ガルムが困った顔で立っていた。
大きな村長も、泣いている子どもの前では少し小さく見えた。
「すまん。みな疲れている」
マヒロがマイクを握った。
「歌う?」
泣いている子が首を振った。
リクが鍋ぶたを持ち上げた。
「楽しい音、出すっすか?」
また首を振る。
カイが低い声で言った。
「遊具なら、作れる」
子どもは泣いたまま、母親の服を握った。
ナギはスマホを見た。
通知が震える。
次の転生者を転送中。
その瞬間、村の広場の真ん中に黄色い光が落ちた。
まるで、朝が一か所に集まったみたいだった。
光の中から、人影が現れる。
茶色のふわっとした髪。
黄色の上着。
星形の髪飾り。
両手に布の人形。
その人物は、地面にぺたんと座り込んだ。
数秒、きょとんとしている。
それから、周りを見た。
泣いている子ども達。
困っている大人達。
転生者達。
新しい村。
その人は、ゆっくり息を吸った。
そして、にこっと笑った。
「だいじょうぶだよー」
声は高すぎず、低すぎず。
ふわっとしていて、耳に刺さらない。
泣いていた子どもが、一瞬だけ顔を上げた。
ナギは小さくつぶやいた。
「来た」
その人は立ち上がり、人形を両手で持ち上げた。
「笑野ひなたです。笑顔専門ユーチューバーです。泣いてる子、見つけました」
ロッカが眉を寄せた。
「笑顔専門?」
ひなたはうなずいた。
「子ども達を笑わせる動画を作ってました。変な手遊び、変な歌、変な寸劇、変な顔」
ナギは少し安心した。
「変な人だ」
ロッカが横目で見る。
「安心するところか」
「この世界、変な人ほど役に立つから」
ひなたは泣いている子の前にしゃがんだ。
近づきすぎない。
急かさない。
大きな声を出さない。
ただ、少し離れたところで、人形を動かした。
「こんにちは。ぼく、もちもち村から来た、ころんだら増えるパンです」
布の人形が、ころんと転がる。
ぽふん。
すると、人形が二つに増えた。
子どもが、涙でぬれた目を丸くした。
ひなたはもう一つの人形を動かす。
「ころんだ」
ぽふん。
三つになった。
「またころんだ」
ぽふん。
四つになった。
リクが小声で言う。
「増えたっす」
ミレナの手が震える。
「布人形、転倒により増殖。危険性は今のところ低い。かわいい」
ナギがのぞく。
「かわいいって記録するんだ」
「大事だから」
泣いていた子どもが、鼻をすすった。
ひなたはにこにこしたまま、人形を一列に並べる。
「ころんだパンたちは、どうするでしょう」
子どもは黙っている。
ひなたは一つ目の人形を立たせた。
「泣く」
二つ目を立たせる。
「ちょっと泣く」
三つ目。
「かなり泣く」
四つ目。
「泣きながら踊る」
四つ目の人形が、急にへんてこな踊りを始めた。
手をぱたぱた。
足をぴょこぴょこ。
体を左右にゆらゆら。
子どもの口元が、少し動いた。
ひなたは見逃さなかった。
「今、ちょっと笑いそうだったね」
子どもは慌てて顔を隠した。
ひなたは人形を近づけない。
ただ、そこに座ったまま、さらに人形を踊らせる。
「泣いてもいいよ。泣きながら見るだけでもいいよ」
その声は、明るいのに押しつけがましくなかった。
ナギはスマホを開く。
能力名
スマイルキャッチ
効果
泣いている子どもや不安な人の心を、遊びと声で少しずつ軽くする。
補正
相手を急かさないこと。
安心できる距離。
笑わせたい気持ち。
過去動画の反応数。
ナギは画面を見たまま、少しだけ黙った。
「急かさないこと、か」
マヒロはその言葉を聞いて、マイクを下ろした。
「歌で押すだけじゃだめな時もあるんだね」
リクも鍋ぶたを静かに置いた。
「音、今は小さめがいいっすね」
カイは広場の端に、低い木の椅子を四つ作った。
角は丸くしてある。
ひなたが振り返って、小さく親指を立てた。
「助かります」
カイは眠そうにうなずいた。
「子ども用」
子どもが、少しだけ母親の服から手を離した。
人形がまた転ぶ。
ぽふん。
今度は、人形ではなく、小さな柔らかい玉が出てきた。
黄色。
緑。
紫。
子どもはそれを見た。
ひなたは玉を一つ持ち、そっと転がす。
ころころ。
玉は子どもの手前で止まった。
子どもは少し迷ってから、指で触れた。
玉が、ぷにっとへこんだ。
「……やわらかい」
ひなたの顔がぱっと明るくなる。
「そう! それ、にぎると変な声が出るよ」
子どもが握る。
ぷきゅ。
変な音がした。
子どもの肩が跳ねた。
もう一度握る。
ぷきゅ。
子どもが、少し笑った。
ほんの少し。
けれど、たしかに笑った。
ひなたは大げさに喜ばない。
ただ、小さくうなずいた。
「いい笑顔、見つけた」
その言葉に、子どもの顔が少し赤くなった。
他の子ども達も、扉の陰から出てくる。
一人。
また一人。
ひなたは無理に呼ばない。
人形を増やし、玉を転がし、小さな声で寸劇を続ける。
ナギは広場に座り、その様子を見ていた。
大喜利で魔物を止めた。
リクは音で吹き飛ばした。
マヒロは歌で恐怖に穴を開けた。
カイは村を形にした。
ひなたは、何も倒していない。
何も壊していない。
大きな音も出していない。
それでも、泣き声が少しずつ減っていく。
すごい力だった。
ロッカが隣に座る。
「戦いじゃないのに、強いな」
ナギはうなずく。
「うん」
ロッカは子ども達を見つめた。
「昨日まで、あいつらは夜になると泣いていた」
「そうか」
「守ったつもりでも、怖いものは残る」
ナギは返事ができなかった。
ロッカの短剣は魔物を追い払える。
でも、子どもの夢に出る魔物までは切れない。
ひなたの人形が、そこに触れていた。
ミレナが帳面にゆっくり書く。
「笑顔専門。直接戦闘力は不明。ただし、村の回復に大きく影響」
その時、スマホが震えた。
転生タイムラインが勝手に開く。
ひなたの転生投稿が表示されていた。
現実世界の映像。
どこかの公園。
ひなたがカメラの前で、子ども向けの手遊びをしている。
その後ろで、親子が笑っている。
別の動画。
小さな部屋。
布人形を使った寸劇。
コメント欄には、たくさんの言葉が流れている。
「子どもが泣き止みました」
「毎晩見てます」
「助かっています」
「ひなたさんの声で安心します」
ナギはそのコメントを見て、胸が少し温かくなった。
投稿履歴が能力になる。
それは、戦えることだけではない。
誰かを安心させた記録も。
笑わせた時間も。
泣き止ませた声も。
全部、力になる。
広場で、ひなたが両手を広げた。
「じゃあ、みんなでやってみよっか」
子ども達が集まる。
ひなたは手を上げる。
「もちもち」
子ども達がまねする。
「もちもち」
「ころころ」
「ころころ」
「泣いたら」
「泣いたら」
「ちょっと休む」
「ちょっと休む」
「笑えたら」
「笑えたら」
「すごくえらい」
「すごくえらい」
桶が遠くから言った。
「みんなえらい!」
子ども達が一斉に笑った。
リクが小さく木箱を叩く。
とん。
とん。
マヒロが柔らかい声で歌を重ねる。
カイが広場の端に、小さな屋根つきの遊び場を作る。
ナギは少し考えた。
この流れなら、自分も何かできるかもしれない。
「お題」
ロッカがちらりと見る。
「何をする気だ」
「安全なやつ」
ナギは子ども達を見た。
「泣いている子が、ちょっとだけ元気になる魔法の言葉とは?」
ナギは答えた。
「涙が出たぶん、今日の笑顔の予約が増える」
地面が淡く光った。
泣いていた子ども達の頬に残った涙が、小さな粒になって浮かぶ。
それは一瞬だけ黄色く光り、子ども達の手元に落ちた。
小さな札になっていた。
笑顔予約券
子ども達が目を丸くする。
ひなたがぱっと笑った。
「それ、すごくいい!」
ナギは少し照れた。
「使い道は?」
ひなたは一枚を手に取る。
「笑いたくなった時に使うんだよ。無理に今じゃなくてもいい。あとで笑える時に使える券」
子どもが札を握った。
「あとででもいいの?」
ひなたはうなずく。
「いいよ。今は泣いててもいいよ」
子どもは札を胸に抱いた。
「じゃあ、あとで使う」
ナギは小さく息を吐いた。
ミレナが帳面を押さえながら言った。
「涙の肯定。笑顔の先送り。心理的安定効果あり」
リクが小声でつぶやく。
「難しいっすけど、いいっすね」
マヒロは静かにうなずく。
「今すぐ笑えって言われるの、しんどい時あるもんね」
ひなたはナギを見た。
「あなたの能力、優しい使い方もできるんだね」
ナギは目をそらした。
「俺の大喜利、だいたい変なことになるけど」
「変でも、優しい時あるよ」
桶が言った。
「変でもえらい!」
「桶に励まされた……」
ロッカが少し笑った。
その日の昼、村の広場は小さな遊び場になった。
ひなたが人形劇をする。
リクが小さな音を添える。
マヒロが短い歌を歌う。
カイが安全な足場を作る。
ナギが時々、大喜利で変な道具を出す。
「絶対に迷子にならない帽子とは?」
「親を見つけると、ぴょこぴょこ跳ねる帽子」
子ども達の帽子が、親のほうを向いて跳ねる。
「世界一安心できる毛布とは?」
「怖い夢を見そうになると、先に寝言で追い払う毛布」
毛布が小さく言う。
「こわいの、あっちいけー」
子ども達が笑う。
ひなたはそのたびに、笑顔を拾うように見ていた。
大きな笑顔。
小さな笑顔。
笑いかけてやめた顔。
涙の後の、ほんの少し緩んだ口元。
全部を見逃さない。
夕方になる頃、村の子ども達は広場で眠っていた。
泣き疲れてではない。
遊び疲れて。
小さな手には、笑顔予約券が握られている。
そばには増えた布人形。
ぷにぷに鳴る玉。
ぴょこぴょこ跳ねる帽子。
ひなたはその真ん中に座って、静かに息を吐いた。
「よかった」
ナギは隣に座る。
「疲れた?」
「うん。でも、いい疲れ」
「現実でも、ずっとこういうことしてたのか」
ひなたは少し考えた。
「うん。画面の向こうの子ども達を笑わせたくて。でも、本当は親御さんも笑ってくれたらいいなって思ってた」
「親も?」
「子どもが泣いてると、大人も泣きたくなる時あるでしょ」
ナギは村人たちを見た。
眠った子どもを抱き上げる母親。
ほっとして座り込む父親。
目元を押さえる老人。
ひなたは続けた。
「だから、子ども向けだけど、子どもだけのためじゃないんだ」
ナギはうなずいた。
「笑顔専門って、思ったより広いな」
ひなたは笑った。
「でしょ」
スマホが震えた。
転生タイムライン。
【笑顔専門ユーチューバー】
映像には、ひなたが人形を増やす姿。
子ども達が笑顔予約券を握る姿。
村の広場で、小さな笑いが戻っていく様子が映っていた。
コメント欄が流れる。
「ひなたちゃんだ!」
「いつも子どもと見てた」
「異世界でも泣き止ませてる」
「笑顔予約券ほしい」
「無理に笑わなくていいって言えるのすごい」
「ナギ、今回はいい大喜利」
「桶、今日もいる」
ひなたは画面を見て、目を細めた。
「見てくれてるんだ」
ナギはうなずく。
「みたいだな」
コメントがまた流れる。
「帰ってきて」
「でも元気そうでよかった」
「ひなたちゃんの動画、まだ見てるよ」
「子どもが手を振ってる」
ひなたはスマホの画面に向かって、小さく手を振った。
「見えてないかもしれないけど、こっちも手を振ってるよ」
返信はできない。
でも、コメント欄は速く流れた。
ナギはそれを見て、胸が少し痛くなった。
現実世界に、待っている人がいる。
この世界に、必要としている人がいる。
転生タイムラインは、その両方をつないでいるようで、引き裂いているようでもあった。
ロッカが近づいてきた。
「子ども達が眠った」
ひなたはほっとした顔で笑った。
「よかった」
ロッカは少し迷ってから言った。
「助かった」
ひなたは目を丸くした。
「褒めてくれた?」
ロッカは顔をそむける。
「事実を言っただけだ」
桶が遠くから言った。
「素直じゃなくてえらい!」
ロッカは無言で桶を見た。
ナギは笑った。
夜。
新しい村に、静かな寝息が満ちていた。
子ども達は泣かなかった。
時々、誰かが寝言で笑った。
毛布が小さく、こわいのあっちいけー、とつぶやいた。
帽子が親のそばでぴょこっと跳ねた。
広場では、転生者達が集まっていた。
リクは小さな音でリズムを刻む。
マヒロは声を出さずに歌詞を書いている。
カイは眠りながら、指で地面に四角を描いている。
ミレナは今日の記録を整理している。
ロッカは見張り台で村を見ている。
ひなたは布人形を直している。
ナギはスマホを開いた。
次の転生者を準備中。
投稿傾向
川キャンプ
野外生活
お酒依存度、高
ナギは画面を見つめた。
「……次、なんか不安だな」
リクが小声で笑った。
「キャンプなら楽しそうっす」
マヒロが顔を上げる。
「お酒依存度って何?」
カイが目を閉じたまま言った。
「燃料?」
ひなたが人形を抱えた。
「大丈夫な人かな」
ロッカが見張り台から低く言う。
「大丈夫ではなさそうだ」
ナギは深く息を吐いた。
「まあ、今さら普通の人は来ないか」
夜風が、新しい村を撫でていく。
笑顔予約券を握った子どもが、夢の中で小さく笑った。
転生タイムラインは、また次の投稿を準備している。
好きなことで、生きていく。
それは、戦うことだけではない。
作ること。
歌うこと。
叩くこと。
笑わせること。
誰かの涙を、無理に止めずに待つこと。
ナギはスマホを閉じた。
遠くの森の向こうから、かすかに水の音が聞こえた。
次の転生者は、きっと川の匂いを連れてくる。
そして、たぶん少し面倒くさい。
ナギは苦笑した。
「次のお題、考えとくか」
桶が小さく言った。
「考えててえらい」
村は、静かに眠っていた。
#魔道具職人
こはる
338
742
#異世界転生
しめさば
6,417
コメント
1件
「変でも、優しい時あるよ」ってひなたのセリフ、めっちゃ刺さった…😭💕 戦う力だけが強さじゃなくて、泣いてる子に「笑わなくていいよ」って寄り添えるのもすごい能力だよね。 「笑顔予約券」の発想、ナギらしい優しい大喜利ですごく好き。 桶も相変わらずえらいし、転生者みんなそれぞれの形で村を支えてて、もうこの村の空気感がたまらん…! 次の「お酒依存度高め」の転生者も気になるけど、まずはこの穏やかな夜を味わわせてほしいな🌸