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仙四郎と出会って一週間が経とうとしていた昼下がり、矢太郎は監視の名目で少し広い部屋で仙四郎と共に住むことになった。住めば都と言うが少しまだ慣れないでいる、仙四郎に面影を感じつつ何故か食事が喉を通らない。食事量が異様に減り気付いた頃には骨と皮の様に痩せ細っていた、仙四郎もこの変化に気付いていたようで警察の掛かり付け医に相談していた。診察の結果は精神の異常による摂食障害とのことだ、矢太郎には思いあたる事は無かった。最近は空腹と言う概念を忘れそうになる、だが仙四郎が食事時間を定めて食をなんとかさせようとした。矢太郎は不思議だった、たまに仙四郎がハイカラな喫茶店に連れて行った時いつ誰と食べたかわからないのに懐かしさがある見知らぬ食べ物。矢太郎はクリームソーダを頼んだ、やはり全ては食べれなかったが何故か目の前にいる仙四郎と知らない女性を重ね、頬が濡れた。
矢太郎はその後、医者と仙四郎の助けの下なんとか白飯と味噌汁を完食できる程になった。一週間後矢太郎は仙四郎と何故か北海道に向かうことになった、どうやら出張のようだ。しかし出張は表向きで裏の意図があるのではないかと矢太郎は考えていた、船を乗り継ぎ着いた先は銀世界だ。息を吐くと白くなり手の感覚が無くなりそな寒さだ、案内されたのは小ぢんまりとした民宿で中は薪ストーブが揺らいでいた。ストーブの手前でゆらゆらとする椅子に腰掛けた五十路程の男性が煙管を燻らせていた。その男性はあらゆる場所で講演を依頼される程に有名で自他共に認める自信家らしい、仙四郎と同じ部屋に荷物を置いて早めの夕食を取ることになった。出されたのは鍋だ、肉が入っていたがなんの肉かは分からず、女将に聞いて見た。ラッコと言う動物らしい。ラッコが何かわからないが肉のわりに海鮮の様な風味があり不思議だった、その後あまり矢太郎は体調があまり良いとは言えなかった、何故か仙四郎も同じようで発熱したように体が暑かった。矢太郎は夜夢を見た、誰かはわからない女性が矢太郎に馬乗りになり首に手をかけた。首を徐々に絞められ苦しさで目が覚めた、そこには仙四郎が大粒の涙を流しながら矢太郎に手をかけていた。仙四郎の手には汗が滲む、矢太郎は声を絞り出した。「何故泣いている?」返答はなかった、矢太郎はこのまま体重をかけたら自分は死ぬのだろうかと思ったはずなのに抵抗はしなかった。その様子を見て仙四郎は手を緩めた、朝になり昨日の出来事が夢なのではと思い部屋を出て居間に行くと女将が血を流して亡くなっていた。見ただけで分かる程に重症で矢太郎は強い吐き気と頭痛に襲われた、ほんの微かに昔の事を思い出した。誰かと旅館に泊まり、その人が刺されて死んでいた。犯人はタバコを燻らせていた男性で動機は女将を襲おうとして突飛ばしたらしい。
その後男性は捕まり、矢太郎達は銀世界を後にした。
矢太郎達はラッコの肉に男性を欲情させる効果があるのを知らなかった。