テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ab「これは、数列の差、つまり階差数列を見たら、その階差数列が初項2、公比3の等比数列になってるでしょ?それで…」
mg「あー!もう!分からん!」
ab「分かんないなら分かるまで解く!」
mg「先生スパルタ…」
目黒くんの家庭教師になって数週間。俺が目黒くんの家に行くのは週に3回の放課後と土曜日。やっぱり普通の学校での授業より時間は短いから、大事なポイントをおさえて教えている。
俺の担当教科は数学だけど、家庭教師は俺一人。つまり、俺が一人で出来るとこまで他の教科も教えなきゃいけない。まあ、お陰でまた勉強し始めるきっかけになったんだけどね。
mg「先生」
ab「どうした?」
mg「先生は、なんで先生になろうと思ったんですか?」
ab「えっ…」
教師になろうと思った理由。それは、人によって様々だ。
でも、俺の場合は特殊だ。
ab「うーん、俺の高校時代の担任の先生が、めちゃくちゃ優しくて。俺もこうなりたいって思ったんだ」
mg「へー」
言えるわけない。言っていいわけがない。だって、俺も、目黒くんと同じ境遇だったんだよ?
________不登校だった俺が、先生を好きになったからなんて、言えない。
13年前________
『学校行きなさい』
毎日、母親から言われる言葉にうんざりしていた。勉強は嫌いではなかったが、友人関係や恋愛などの青春に狂う奴らが苦手で、そのうち、部屋から一歩もでない日が続いた。
『お母さんの時代は、学校に行くのは当たり前だったのよ』
『登校拒否なんて』
『勉強出来るのに、勿体ない』
いつになってもアップデートされない昭和脳の両親が一番嫌いだった。
それから、両親は呆れたように俺を無視した。いわゆるネグレクト。
食べるものも、お風呂だって入らせてくれなかった。
それはどんどんエスカレートして、向こうの機嫌次第で俺を殴ったり蹴ったり。もう、この世界にいたくないとすら思った。
だから、俺は外の世界に逃げた。死ぬのは怖い、だから、夜中に一人で、外に駆け出した。
そして、逃げた先で出会った人が…
fk「大丈夫?顔色悪いけど」
高校教師をしているという
“深澤たつの先生”。
偶然、俺が通っていた高校の国語教師だということで、色んな話をした。
その時に、ポロっと、無意識に、家庭の事情を話してしまった。
ab「多分、両親はネグレクトで」
fk「えっ?」
ab「俺…俺ッ…(泣)どう、したらっ…(泣)」
fk「うん、うん、辛かったね…」
俺が話している間、深澤先生は優しく背中を撫でてくれた。何も言わず、ただ俺の話をずっと聞いてくれた。
真夜中の公園のベンチで、二人腰掛けて深刻な話をして。傍から見たら、少し年の離れた兄弟で、姉が弟を慰めているような構図に見えるだろう。でも、そんな周りの目すらあの時の俺には関係なくて。
7
30
junp_Sn-Fk.
9,675
ab「先生…………助けてっ………!(泣)」
fk「…分かった」
その後、深澤先生が警察に連絡したのか、両親と俺は離れて暮らすことになった。俺の時代は児童養護施設も、そんなに収容人数が多い訳ではなく、今の目黒くんのように、入居出来ないことはなかった。だから、俺は施設を選んだ。
そして、深澤先生は時折俺を心配して様子を見に来ていた。前の生活よりもよっぽど自由な生活に、数日も経てば笑みが溢れていた。
fk「本当に良かった。阿部くんがちゃんと生きてくれてる」
ab「どういうことですか?笑」
fk「あなたが元気で生きてるなら、それで100点満点だよ」
それは、俺の心に響いた。生きている実感がなかった。生きている意味が分からなかった。学校に行けと言われて、勿体ないと言われて。
それでも、先生は生きているだけで100点満点だと言ってくれた。それが、何よりも希望だった。
それから、深澤先生のお陰で学校にも通えるようになった。やはり、交友関係はなかなか上手くはいかなかったが、自分の想像より良いと思った。だからこそ、今の自分があると思う。
fk「一人ベストより、皆のベタじゃない」
それが深澤先生の口癖。俺は、この人生を最良だとは思ってない。でも、それがちょうど良い。まだ、高みに行けるから。いつのまにか、それが俺のモットーにもなっていた。
そして気づく。深澤先生が他の男子生徒と楽しそうに話している姿も、男性教師とちょっとした相談をしているときでも、俺はいつのまにか先生を目で追って、勝手に嫉妬していて。「俺の方が、断然深澤先生と仲いいのに」とか、自惚れた。
だから、俺は先生のことが好きなんだなって、恋してるんだなって気付いた。初めて、青春が嫌いだった俺が、青春だと感じて、楽しいと思った瞬間だった。
でも、叶わぬ恋だって、始めから分かりきっていること。教師と生徒だと。
いや、教師だから、生徒だから何だ。恋愛したっていいだろ。どんな関係でも、恋に落ちてしまったら、それは紛れもない事実なんだから。
だから、俺は思い切った行動に出た。
ab「先生、大人になったら、俺と付き合ってください」
fk「…えっ」
最初、先生の目に動揺が浮かんだ。でも、どこか嫌な顔はしてないように見えて。
そう、それは俺の自惚れでもなんでもなかった。
fk「確かに…今はダメだもんね。分かった。待ってるね」
先生、何でそんなこと言うの?期待しちゃうじゃん。って、最初は思ったけど、言葉の真意を考えれば、そんなの簡単に解決した。
俺らは両思い。今は、それだけ知ることが出来たんだから、十分だった。
でも、それから深澤先生は、実家の事情があって________
俺はそれ以降、深澤先生に会えていない。
大学を出て、先生に会うために教員になった。何処に行ったか分からないから、同じ教師になって、あの人に会いたいと思った。
もしかしたら、もう先生は約束を忘れているかもしれない。それでもいい。
____もう一度、先生に会いたい。
コメント
1件
ああ……第7話、胸がぎゅっとなりました。 阿部先生の過去がこんなに重いものだったなんて……。深澤先生との出会いが、生きる希望そのものだったんですね。「生きているだけで100点満点」という言葉、本当に響きました。あの言葉があったからこそ、今の阿部先生がいるんだなって。 それに……「大人になったら付き合ってください」って告白、切ないけどすごく純粋で。深澤先生も「待ってるね」って……両想いなのに会えなくなってしまうなんて、もう。再会、絶対に叶ってほしいです。続きがすごく気になります😢