TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「亜蘭。あの女、帰った?」

ふぅと息を吐き、メガネを外し、ネクタイを緩める。


「帰りましたけど。すごい態度の変わりようですね」


「あー。マジ怠い」


自分を落ち着かせるため、目の前の珈琲を一口飲んだ。


「九条孝介、あんな女のどこが良いんだ?一回抱けば、誰でも簡単に落とせそうだけどな」


はぁと亜蘭は溜め息をつき

「汚い言葉、やめてください。そりゃ、あなたみたいなハイスペックな人、だからこそです。いつまでも報われない不倫を続けるより、目の前に現われた容姿も良くて、お金持ちで、妻子もいない男の方に乗り換えたいって思うでしょ?普通。あ、性格は難ありですが。初対面ではわかりませんからね」


「それって、俺のこと褒めてんの?」

はい、と亜蘭は返事をした。


「すぐに《《終わらせて》》やる」


「まさか……。美月さんの時みたいな強引な方法を使うんじゃないですよね。Love Potionってお酒を飲ませたから、なんたらこうたらって……」


「はっ?あれは美月だから使った方法。好きでもない女の身体なんて、興味ない。触れたくない」


あんな方法じゃなくて、普通の振る舞いだけであの女を落とせる自信がある。


「本当に美月さんに事前に言わなくていいんですか?」


「あぁ」


美月が知ったら反対しそうだから。なんだかんだで優しいし。

<そこまでしなくても……>なんて言いそうだ。


「加賀宮さんが色仕掛けで家政婦を落として、九条孝介との関係を吐かせ、その後は何事もなかったかのように捨てる作戦ですってちゃんと伝えた方が……」


今の亜蘭の言い方、なんか引っかかるな。


「美月にバレたら、俺から説明する。それより、美和《あいつ》の情報は?調べてるんだろ。家族構成とか嗜好品とか……」


事前に情報があった方が近づきやすいからな。


「調べてますよ。これ、資料です」

さすが長年の付き合い。仕事のできる秘書が居て良かった。


「さて、どうすっかなー」

資料に目を通す。


早く終わらせて美月を解放してあげたい。




・・・・・・・・・・・・・・・・・



孝介に殴られた次の日。

彼が出勤する時と同じ時間に起きてくることはなかった。

今日に限って仕事が休みなんだ。胃が痛くなりそう。


私はベガに出勤だけど、案の定、鏡で顔を見ると少し腫れていた。

それほど酷くはないけど、お化粧すると痛いし、マスクをして隠して行こう。


ベガに出勤すると

「あれ?風邪ですか?」

マスク姿の私を見て、藤原さんに訊ねられた。


「喉が枯れている気がして……。乾燥するといつもそうなんです。保湿のために付けてます」

本当は何も問題はない。


「ええっ!それは大変。私、本部に連絡するんで今日は休んでください!」


えっ、いきなり!?


「あっ、でもこの間もお休みいただいたばかりで。いつものことなので、気にしないでください。熱とか、風邪症状は特にないですし……」


この間、急遽フロアーを手伝った時にもお休みをもらっている。

それに、今日家に帰ったら孝介も居るし。帰りたくない。


「《《慣れない仕事で》》疲れてると思います。もしかしたら風邪かもしれないので!私から連絡しとくんで大丈夫ですよ!」


藤原さんは私の話を聞いてくれない。

どんどん職員通用口へ追いやられている。

今日は平野さんもお休みみたいだし。


この間の藤原さん《彼女》の言葉を思い出し、極力私に関わりたくないんだと肌で感じてしまった。彼女の勢いに負けて、お店の外に出てきてしまった。


どうしよう、迅くんに相談……。

ううん、仕事忙しいよね。亜蘭さんなら電話、出てくれるかな。


数回のコールの後、亜蘭《彼》は電話に出てくれた。


<お疲れ様です。どうしましたか?>


「お疲れ様です。あっ、えっと。今、話しても大丈夫ですか?」


<はい。大丈夫です>


「あの、実は……」

私が話を続けようとした時――。

一瞬、電話越しに迅くんの声がした。


<ちょっ!待ってください。今変わりますから>


「えっ?」


迅くん、近くに居るのかな。


<美月。なんで亜蘭に電話すんの?>

あっ、迅くんだ。


「だって、忙しいと思って。仕事のことだし、下っ端がいきなり社長に電話するって普通はあり得ないし……」


<美月はいいんだよ>


「えっ?」


<美月は特別。もし出れなかったら絶対かけ直すから。ま、緊急だったら亜蘭でいいけど>


特別……。

そんなこと言われて、ドキッとしてしまう自分がいた。


<で、どうした?>


「あのね……」

私は迅くんに事情を説明した。


<大丈夫か?また顔、腫れてるんだろ?>


「大丈夫。そんなに腫れてないし。この前より痛くない気がする」


医者に行くほどでもないし、ただ、カフェ《ベガ》に協力できないことを悔む。マスクなんかじゃなくて、もっと良い方法があったかもしれない。


<んー。ベガのことはわかった。行かなくていい。俺のオフィスに来れる?迎えに行くから。美月のこと心配だし、家に帰っても暴力夫と家政婦の組み合わせだろ?今帰ってもどうせ文句言われるだけだし。時間来るまでオフィス《そこで》休んでな>


冷静に最善を考えてくれる彼、味方だとわかったらなんて心強いんだろう。

この作品はいかがでしたか?

41

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚