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「迎えに来てくれるって……。迅くん、仕事は大丈夫なの?」
<あぁ。大丈夫。こんな時くらい、たまには少し休ませてもらう>
その時、迅くんの後方で「えっ!」という亜蘭さんの声がした。
きっと本当は忙しいんじゃ……。
<美月は何も考えなくていい。今日は別に《《俺が》》対応しなきゃいけない仕事でもないし。とりあえず、そこで待ってて>
「わかった」
今居る場所を伝え、電話を切った。
甘えてもいいのかな。返事、しちゃったけど。
しばらく待っていると、目の前に見覚えのある車が停まった。
「乗って」と迅くんに合図をされ、助手席に座る。
「ごめん。ありがとう」
「いや、大丈夫。とりあえず、車走らせる」
向かった先は、彼のプライベートオフィスだった。
「座って」
そう言われ、ソファーに座る。
「マスク、外して?」
彼の言う通りにマスクを外した。
「まだ少し腫れてるな」
彼に優しく触れられる。
「大丈夫。ちゃんと写真も撮ったよ」
隠しカメラに映っていると思うけど、自分でもDVの証拠になればと写真を撮った。
「……。ごめん、辛い思いさせて」
彼は私の手を握ってくれた。
「どうして迅くんが謝るの?迅くんが居てくれるだけで、私は助かってる。ありがとう」
私がそう伝えても、目線を下にどこか悲し気な顔をしている。
今の迅くんらしくない。
「迅くんの方がもっと大変な思いをしてきたと思う。だから私も負けない」
私が彼の頬に触れるとやっと優しい顔をしてくれた。
「美月、今自宅は旦那と家政婦の二人きりなんだよな?」
「そうだよ。きっと浮気してる……。あっ!」
もしかして……。
「今、家の状態が見れるの?」
あぁと彼は返事をした後
「基本、プライベートな空間だから、美月が教えてくれたDVの瞬間と孝介《あいつ》と家政婦の不貞行為の現場を記録としてまとめようと思っている。美月が居ない今日は、カメラの映像を見てみるしかないから。見るの、キツかったら見なくていいよ。見たいって思えるような映像でもないだろうし」
今は私が居ない、孝介と美和さんだけの空間《二人だけの空間》だもん。きっとこの前みたいに、寝室で身体を重ねているに違いない。
「見る。今この瞬間、あの二人が何をしているのか、現実を見たい。甘えかもしれないけど、今なら迅くんが近くに居るから大丈夫」
一人で見る気はしないけど、迅くんが近くに居てくれる今なら。
「わかった」
彼はパソコンを開いて、自宅に設置してある隠しカメラの様子を確認してくれた。
あんな小さなカメラなのに、思っていた以上に鮮明に見えるんだ。
撮られている映像を見るのは、初めてだった。
「まずはこれがリビング」
パソコンを操作しながら迅くんは教えてくれたけど。
誰も映っていない。
やっぱり――。
「次に寝室」
マウスをクリックすると、そこには――。
「げっ!」
思わず反応してしまった。
「あー。やっぱり見ないでおく?」
行為を終えたであろう裸の二人が、ベッドで横になって寝ていた。
孝介なんて美和さんを腕枕してる。
羨ましいとかそんな感情は一切ないけど、私にはあんなこと一度もなかった。
「遡って見たら、確実にヤッてるだろうな」
二人の姿を見れば、不貞行為後。
休んだらもう一度……。なんて可能性もあるかもしれない。
<……。どうした?美和。なんか元気ないな>
えっ、孝介の声が聞こえる。
「迅くん。これ、声も聞こえるの?」
「そりゃ、そーだろ」
そうなんだ、今リアルに何て話しているのかわかっちゃうんだ。
<そんなことないよ>
孝介の問いかけに美和さんは返事をした。
が、その声は私が聞いてもなんだか素っ気ないというか。
心ここにあらず……。みたいな感じ。
<そっか。じゃあ、もう一回しよう?>
孝介が美和さんに跨り、キスをしている。
あぁぁぁぁぁ、やっぱり見るものじゃない。
悲しいとか悔しいとか、そんな感情はなく、ただ不快だ。
<んっ……>
美和さんの声も聞こえる。
隣に居る迅くんを見る。至って普通、無表情。何を考えてるんだろ。
ていうか、孝介が動くから布団がズレて、美和さんの裸が見えちゃいそう。
思わず
「ダメッ!」
迅くんの目を、私の手のひらで覆ってしまった。
「えっ、なんでだよ」
「美和さんの胸が見えちゃうっ!」
「ひとんちでこんなことしている奴が悪い。興味のない女の裸なんて見ても、何とも思わねー」
私の手が退けられた。
<ごめん。今日はもうやめよ>
画面から美和さんの声が聞こえてきた。
なんか、前に見てしまった彼女の様子と違う。
<どうした?やっぱり疲れてる?あの《《バカ女》》のせいで>
あの《《バカ女》》って、きっと私のことだよね。
「酷い言われようだな」
迅くんも孝介が言っている《《バカ女》》が私のことだって思ったみたい。