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友達、時々 他人

59 - 15.脅迫染みたプロポーズ -2

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2024年07月17日

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「そこまでは――」

「――千尋は、自分が幸せになることより、有川さんに奥さんから解放されて幸せになって欲しかったんじゃない? そのために……自分が身を引いたんじゃないかな」

私の言葉に、全員が口を閉ざした。

そして、全員が、千尋が自発的に姿を消したことを、事実として受け入れた。

「この、有川って奴に話を聞こう」と、大和さんが名刺を手に取った。

が、スマホを取り出す前に、鶴本くんが言った。

「今日は連絡がつかないみたいです」

「なんで!?」

「奥さんと……決着をつけるって言ってたんで」


決着……?


「離婚の話し合いってこと!?」

「多分」

「とにかく――」と、陸さんが落ち着いた声色で言った。

「――千尋がいなくなったのは確かなようだし、事情はともかく千尋を探そう」

「そうだね。うん!」と、麻衣が頷く。

「けど、電話をしてもメッセージを送っても無反応で、どうやって探す?」

連絡を受けてから、何度も電話をかけたし、メッセージも送っている。が、電話は繋がらず、メッセージは既読にならない。

「実家……とか?」と、麻衣が呟いた。

「千尋の実家……って市内だったか?」と、大和さん。

「違うはず。前に、帰るのに時間もかかるし、って言ってた」

「高校の時に引っ越したって聞いたぞ? 元は札幌にいたけど引っ越して、大学で戻って来たって」

陸さんの言ったことは、私も覚えがあった。

確か、大学の頃に聞いた。

「ああ。それ、私も聞いた。お祖母ちゃんの介護だっけ? だから、母親はお祖母ちゃんと一緒に暮らしてるって言ってた気がする」

「で、その、千尋の実家って?」

龍也の問いに、全員が口を閉ざす。


私たち、千尋のこと何にも知らない――。


とにかく、千尋が私たち以外に親しくしている友達も、実家の場所も知らないのだから、探しようがない。

「麻衣さん」

鶴本くんが麻衣に耳打ちをする。その様子を。陸さんが険しい表情で見ていた。

いつも余裕の表情を崩さない陸さんを嫉妬させるなんて、鶴本くんもやるな、と思った。

「コーヒー、淹れますね」

そう言って、キッチンに立つ。その鶴本くんの後に、麻衣が続く。その麻衣の後ろ姿を、陸さんが見つめている。

女の勘、だと思う。


麻衣が選んだのは――。


「今日は無理でも、この有川って男に話を聞く必要があるよな」と、大和さんが言った。

「いや、こいつも千尋の居場所に心当たりがないから俺たちに連絡を取って来たんだろ。話を聞いたところで、殴りたくなるだけじゃないか?」と、陸さんが冷ややかに言った。

千尋を弄んだ有川さんへの怒りと、鶴本くんへの嫉妬が入り混じっているのだろう。

「じゃあ、調査会社……とか?」

「まあ、それも考えた方がいいかもな」

「そこまでしなくても、案外ひょっこり帰って来るかもしれなくない? 有川さんを避けていても、私たちと絶縁なんてことは考えていないだろうし。傷心旅行……とか?」

言ってから、それはないな、と思った。


千尋なら、旅行よりがむしゃらに仕事して気を紛らわすだろう。


「千尋が傷心旅行? ないだろ。相手をグーパンしてスッキリ出来る女だろ?」と、陸さんが言った。

大和さんも、うんうん、と頷く。


千尋が聞いたら怒るな……。

ま、同感だけど。


「じゃあ、本気で有川さんから逃げてるんじゃないですか? 俺たちとも連絡を取らないのは、有川さんから話を聞いていることに気づいたから、とか?」

「なんで知ってるよ。鶴本くんが有川から話を聞いたのは偶然だろ?」

「けどっ! 私たちさっきから何度も電話したり『どこにいるの』とか『連絡して』とかメッセ送ってるから、千尋がいなくなったことは知ってるって気づかれてるでしょ」

「あーーー……」と、大和さんが顔を歪ませた。

「まぁ、遅かれ早かれ、千尋と連絡が取れないことは誰かが気づいたろうから、有本と接触したことがバレてるとは限らないだろ」

陸さんはそう言うと、キッチンから出て来た鶴本くんを目で追った。何も言わず、ハンガーにかかっていたコートを羽織って、出て行く。

少ししてから、麻衣が戻って来た。

「鶴本くんは?」

「コーヒーでも買って来るって。カップが足りなかったの」

「そんなの良かったのに」

「うん……」と、麻衣が力なさげに笑った。

今は聞くべきではないとわかっているけれど、思いがけず陸さんと顔を合わせることになってしまった鶴本くんには申し訳ないと思うし、それによって麻衣との関係に変化がないかが気になった。

「そもそもさぁ――」と、大和さんが頭をガシガシと掻きながら言った。

「千尋は有川から逃げてんだろ? 有川から守ってやるから出て来いってメッセ送ったら出てくんじゃね?」

「逃げてる、の意味が違うだろ。千尋が有川の為に会社を辞めたんなら、有川の立場が悪くならないように、自分と関わらせまいとしてるんだろ?」

「だったら、ほとぼりが冷めたら出てくるんじゃないですか?」

「かもな」

結局のところ、千尋が思い詰めてこのまま姿を消すとも、万が一の事態になるとも思っていない。だから、私たちが探しても探さなくても、いずれ戻ってくるとわかっている。

心配は心配だが、そういう意味ではさほど心配していないのだ。

「けど、有川さんの離婚が成立しそうだってことを知らないんだから、いつまで隠れてるかはわからないよね。それだけでもメッセしとく?」

もろ手を挙げて帰って来るとは思えないが。

「それを、千尋が望んでんのかはわかんないぞ?」

「確かになぁ……」

再び、沈黙。

玄関ドアが開く音がして、鶴本くんがコンビニの袋を手に帰って来た。麻衣が袋を受け取り、中の缶をテーブルに並べる。

コーヒーやカフェオレや、紅茶。

鶴本くんにお礼を言って、みんな好きな缶に手を伸ばした。

龍也はブラックコーヒーで、私は紅茶を選んだ。

「とにかく、ちょっと様子見るか。いなくなって一週間? 十日? だろ? あきらの言うように、気分転換に旅行でも行ってんのかもしれないし、会社を辞めたんだから就職活動してんのかもしれないだろ」

「確かに。千尋のことだから、有川と会わずに済むような場所で仕切り直してるかもな」

結論として、ひとまずはそれぞれで千尋へのコンタクトを続けながら様子を見ることになった。

それから、身重のさなえには秘密にすることも確認した。

一週間後の土曜に、またこうして集まることにして、解散となった。

帰り際、麻衣と陸さんの間で何とも言い難い微妙な空気が流れたが、見ない振りをした。

きっと、麻衣の気持ちは固まっている。

私が口を出すことではないと思った。

その証拠に、麻衣は陸さんや私たちを見送ったが、鶴本くんには空き缶の片づけを頼んで帰そうとしなかった。

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