テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#狂愛
柏木さくら
829
西原衣都
866
#ロマンスファンタジー
Jasmine
724
瑠璃マリコ
10,376
手のひらに乗せられたのは、小さなピンバッジだった。
「なに?……白い花?」
真っ白な花を指で摘まみ上げ、まじまじと見つめる。
「それが今から参加するパーティーの招待状。ある意味、それが身分証明にもなるわね」
「身分証明? このバッジが?」
「絶対になくさないでよ。一千万くらいの価値がある物だから」
「いっ、一千万!? これが!?」
胸元に付けようとした手がぴたりと止まる。
思わず耳を疑い、バッジを凝視した。
「違うわよ。そのバッジが意味する価値が、ってこと。一般人は手にしたくても手にできない、禁断の地への招待状」
「禁断の地?」
眉を寄せたまま麗香へ視線を向ける。
「人間の裏と表。亜紀には見せてあげたいの」
麗香はエレベーターに乗り込むと、階数表示のない白いボタンを押した。
よく見ると、他にも階数の記されていないボタンが二つある。
「その白いボタンは何? 何階なの?」
「さあ、何階なのかなんて私も知らない。だって書いてないもん。押すボタンさえ知っていれば、知る必要ないでしょ?」
警戒心むき出しの私を、麗香は軽く受け流す。
「必要ないって……」
「あっ! 大事なこと言い忘れてた」
不安げな私など気にも留めず、麗香は肩をぽんと叩いた。
「今度はなに? まだ前置きがあるの?」
私はわずかに肩を引き、怪しいものでも見るような目を向ける。
「今から私の名前は『倫子』。そして君の名前は『彩音』。OK?」
麗香は語尾を上げ、OKサインを作って軽くウインクした。
「はっ? 倫子……?」
「会場内で私はそう呼ばれてるから。間違っても『麗香』って呼ばないでね」
「私はどうして彩音なの?」
「私がその名前を可愛いと思ったから。それに、亜紀がもし誰かに名前を聞かれて、とっさに『あ……』って言っちゃっても、その後で『あ……やねです』って修正が利く優れものなの」
麗香は得意げに胸を張る。
「私のお気に入りの彩音ちゃん。気に入らない?」
人差し指を顎に添え、拗ねたように首を傾げた。
「そういう問題じゃなくて――」
私の言葉を遮るように、エレベーターが到着を告げるベルを鳴らした。
「さっ、彩音。行くよ!」
麗香は深紅に色づく唇の端を上げ、花が咲くような華やかな笑みを浮かべる。
エレベーターを降りると、足元には真っ赤な絨毯が敷かれていた。
「……」
自分のつま先を見つめ、こくりと唾を飲み込む。
言葉ではうまく表せない感情が胸の奥をざわつかせた。
恐怖と好奇心。
相反する感情が入り混じり、胸の鼓動が少しずつ速くなる。
「彩音?」
「あ……うん」
はっと顔を上げ、麗香の背中を追った。
長く続く絨毯の上を、麗香より一歩後ろを歩く。
視線の先――
廊下の突き当たりには、木目調の大きな両開きの扉がある。
その前には、黒服のガードマンが二人立っていた。
コメント
1件
うわ、一気に雰囲気が変わったね。ピンバッジが一千万の価値を持つ招待状って設定、すごくゾクゾクする。麗香の「禁断の地」って言葉と、偽名を使う徹底ぶりが、これから行く場所のヤバさを物語ってる。亜紀の恐怖と好奇心が入り混じる気持ち、すごく共感したよ。次が気になる!