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スタートヽ(*^ω^*)ノ
勇気なんてなかった。
会ったら何を話せばいいのか分からなかったし、 この想いが、ただの勘違いだったらどうしようと、そればかり考えていた。
けれど足は、気づけば自然と動いていた。
歩くキヨの背中を、レトルトはそっと追う。
雑貨屋の前で立ち止まったキヨが、店内に入っていくのが見えた。
レトルトは、ガラス越しに静かに見つめた。
他人から見れば、ただのストーカーみたいだったかもしれない。
でも――それでも目が離せなかった。
キヨは、店内の棚を眺めながら、ふと足を止めた。
そこにあったのは、カニのぬいぐるみ。
丸い目、ふわふわのハサミ、にやけたような顔。
――レトルトが、以前アプリの中でぽろりとこぼした、好きなキャラクター。
『うわ、これ……』
キヨの口元が、緩んだ。
その表情は、まるで宝物を見つけた少年のような笑顔。
レトルトの心が、グラリと揺れた。
あんなふうに笑うんや……。
あんなやさしい顔で、自分の好きなものを見てくれてるんや……。
会いたい。
触れたい。
キヨのぬくもりを、もう一度――感じたい。
喉の奥が、ぎゅっと痛んだ。
何かが込み上げてきそうで、でも声は出なかった。
ガラス越しの距離が、たまらなく遠くて。
手を伸ばせば、すぐ届く場所にいるのに。
レトルトは、ただ静かに胸を押さえて、その背中を見つめ続けた。
つづく