テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
8話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
ガラス越しの景色が、ほんの少しだけ揺れて見えた。
レトルトは気づかないふりをした。
瞳の奥がじんわりと滲むこの気持ちを
どうしていいのか分からなかった。
そのときだった。
「いらっしゃいませ〜、そのカニさん、人気なんですよ」
店員の明るい声がレトルトの耳にも届いた。
キヨは、少し恥ずかしそうに笑った。
けれど、どこか嬉しさを隠しきれないような、そんな優しい笑顔で――
『実は、好きな人がこのキャラクター好で。』
「えっ、素敵〜!プレゼントですか?」
『はい////大事な人なんです。』
キヨの指が、カニのぬいぐるみのふわふわのハサミを撫でる。
その指先に込められた想いが、痛いほど伝わってくる。
『会えるか分かんないんですけど、せめて、これだけでも渡したいなって、、、』
その言葉に、レトルトの胸の奥がズキリと痛んだ。
キヨくをはずっと、あの日から、想ってくれていたんや――。
ずっと、自分のことを。
レトルトは、ガラスの外で小さく身をすくめた。
逃げ出したい気持ちと、今すぐ抱きしめたい気持ちが、心の中で渦を巻いていた。
声をかけたい。でも怖い。
こんな自分で、ほんまにあの子を幸せにできるんか?
対人恐怖症で、引きこもってばかりの自分なんかが――…。
でも。
キヨのその言葉が、あまりにもまっすぐで。
あまりにも、あたたかくて。
逃げた背中を、ぎゅっと掴まれたようだった。
(このまま終わっていいの?)
心の奥で、自分に問いかけた。
キヨの笑顔が、ぬいぐるみを見つめるその眼差しが、まるでレトルトそのものを包み込んでいるように見えて――
レトルトは、ほんの少し、ほんの一歩だけ。
ガラス戸の方へと、足を踏み出していた。
つづく