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3「宝と石」
「はぁ、はぁ、はぁ」
自分が吐く荒い息と、枝の折れる音が聞こえる。
俺は盗んだ宝石を胸に抱えて走っていた。
追手はもう、すぐそこにいた。
背中が熱くなって、俺は倒れる。
じくじくと痛む背中が何かで濡れていく感触で、俺は斬られたのだと理解した。
その斬撃に迷いはなく、確実に俺を殺そうとしているようだった。
熱くて、寒くて、ちょっと痛い。
そんな感じ。
やや客観的に自分を観察する自分自身に驚いた。
死ぬのか。
人生、楽しいことはあまりなかった。
貧しい家に生まれ、子供の頃から金目の物を盗んで暮らした。
今日だって金持ちの家の宝石を盗んで、逃げる時に失敗したから追われている。
きっと俺の存在に価値がないから殺されるのだろう。
金もなくて、頭も悪い、何も出来ない。
道端の石みたいなどうでもいい存在。
この苦しさは誰にもわかってもらえなかった。
わかってくれる友達が欲しかった。
…それだけなのにな。
「さぁ、願いの石を返せ」
願いの石、今回俺が盗んだ宝石の名前だ。
どうせ俺は死ぬんだから、そんなこと言わなくてもいいのに。
「あーあ、かわいそうじゃん。こんなことしたら」
そーだそーだ…って、誰?
追手じゃない人?
もう霞んでしまってほとんど見えない目に、深い青が映った。
美しく儚い青だった。
今までたくさんの宝石を盗んできたけど、こんなに綺麗な色は初めてだと思った。
もっと見たい、ずっと見ていたい、と。
そう思った。
「なんだお前は!」
「だ、れ?」
掠れる声で名前を聞く。
図らずも憎き追手と同じタイミングになってしまったことは考えないようにする。
「え、おれ?らっだぁだけど」