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#怖い話
212
「壊せば……全部、壊せばいいんだ……」
意識を取り戻した私の視界は、真っ赤に充血していた。
部屋中のスピーカー、PC、タブレット。
液晶画面という画面から、ユイの歪んだ笑顔がこちらを覗き込んでいる。
私は台所から持ち出したハンマーを振り上げ、狂ったようにモニターを叩き割った。
ガシャァン!
火花が散り、プラスチックの焼ける臭いが鼻を突く。
それでも止まらない。
Wi-Fiルーターを床に叩きつけ、スマートスピーカーを何度も踏みつぶした。
「あはは! 無駄だよサクラ。そんなことしても、電気の流れる場所ならどこにでも行けるもん」
壁のコンセントの隙間から、ノイズ混じりの声が漏れ出す。
私はパニックに陥り、ブレーカーを落とした。
一瞬にして訪れる、完全な闇。
「……はぁ、…はぁ……」
これでいい
これで、デジタルな「あの子」は入ってこれない。
私は暗闇の中で膝を抱え、ガタガタと震えながら朝を待とうとした。
けれど。
トントン
背後のクローゼットの中から、乾いた音がした。
……そんなはずはない。
電気は切れている、機械は全部壊した。
トントン、トントン
音は次第に激しくなり、クローゼットの隙間から、ひたひたと「水」が溢れ出してきた。
あの事故の日、私たちが浴びた、冷たい雨の匂いが鼻を突く。
「サクラ、開けて。暗くて怖いよ……。あの日、私もこんな風に、暗いアスファルトの上で一人だったんだよ?」
声は、スピーカーからではない。
クローゼットの木の板を振動させて、直接部屋の中に響いている。
私は耳を塞いだが、その指の間を潜り抜けるように、冷たい「何か」が私の足首に触れた。
「ひっ……!」
見ると、床に溜まった水が、意志を持っているかのように私の体に這い上がってきている。
それはデジタルなコードのようでもあり、透き通った人間の指のようでもあった。
「物理的に壊したって、データは消えないよ。サクラの脳波、今、私と完全にシンクロしてるんだから」
闇の中で、何もないはずの空間にユイの「輪郭」が白く浮かび上がる。
それはアプリの画像よりもずっと鮮明で、ずっと──死体に近い色をしていた。
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