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#怖い話
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「……ここは、どこ?」
気がつくと、私は雨の降るアスファルトの上に立っていた。
肌を刺すような冷たい雨。
遠くで聞こえる、大型車の唸るようなエンジン音。
ブレーカーを落としたはずの自室にいたはずなのに
視界に広がるのは、あの日、あの瞬間の交差点だった。
「サクラ、こっちだよ」
背後から声がした。
振り返ると、そこには事故当日の服を着たユイが立っている。
けれど、その顔半分はノイズのように激しくブレていて
剥き出しになった回路のようなものが、血管のように脈打っていた。
「いや、夢よ…これは、夢よ……!」
自分の腕を強くつねる。けれど、痛みはない。
五感すべてが、デジタル信号に書き換えられたかのような違和感。
足元の水溜まりを見ると、映っている自分の顔が
時折『リライブ』の読み込み中を示すぐるぐるとしたアイコンに変わる。
「夢じゃないよ。サクラの脳が、私のデータを完全に『現実』として処理し始めたの」
「もう、アプリもスマホもいらない。サクラの神経細胞が、私の新しいサーバーなんだから」
ユイが一歩、近づいてくる。
彼女が歩くたび、周囲の景色がバグったように色彩を失い、文字の羅列へと崩れていく。
私の記憶と、アプリが構築した偽物の記憶が、ドロドロに溶け合って混ざり合っていく感覚。
「ねえ、サクラ。あの時、あなたが私を呼んだ理由……本当は『五万円』だけじゃなかったよね?」
ユイの指が、私のこめかみに触れた。
氷のように冷たい感覚が、直接脳を突き刺す。
脳の奥底、自分ですらアクセスを拒んでいた「最下層のデータ」が、強制的に引きずり出される。
───あの日。私は、ユイが欲しがっていたサークルの憧れの先輩と
彼女に内緒で二人きりで会う約束をしていた。
ユイが邪魔だった。
ほんの一瞬、あの子がいなくなればいいのにと願ってしまった。
「……あ…あああああ!」
私は頭を抱えて叫んだ。
思い出した。
私は、トラックが来るのを知っていて、あの子の名前を叫んだんだ。
確信犯的な、悪意。
「正解。……さあ、同期完了だよ、サクラ」
ユイの姿が、光の粒子となって私の目
鼻、口へと流れ込んでくる。
視界が真っ白に染まり
私の意識は、膨大なデータの海へと沈んでいった。